38 / 53
閑話休題②
しおりを挟む
ガタゴトと言う音と、体が揺れる感覚があった。どうやら自分は乗り物に乗せられ、どこかに運ばれているらしい。グレンノルトはゆっくりと目を開けた。
(どこだここは……)
馬車か何かの荷台だろうか。薄暗く、周囲をよく見ることができない。後ろ手に手を縛られ、転がされているせいで、顔を動かして見回すこともできなかった。
(トウセイは)
グレンノルトは暗がりに、守るべき人の姿を探した。
「起きたか。転移者サマはここにはいないぜ」
「……」
顔なんて見なくたって分かる。今一番殺したい人間の声が聞こえ、グレンノルトは内心舌打ちした。
「あんたの強さはさっきよく分かった。なぁ、騎士サマ。あんた俺たちに付かないか? あんたの強さがあれば、俺たちも仕事がしやすく……ははっ冗談だ! そう睨むな」
「視線だけで人殺せそうだな」と話す男を無視し、グレンノルトは頭を働かせた。考えることは3つ。男たちの正体。その目的。そして、脱出方法。荷台の中は薄暗いが、それは窓を布か何かで覆っているからだ。布の合間から光が漏れている。ということは、外はまだ明るいと言うことだ。良かった、自分はそれほど長く気を失っていなかったようだ。
(この男は……人攫いか? 盗賊の可能性もあるが、人を攫うのに手慣れすぎている。しかし、俺が知らない顔と言うことは、少なくてもエルス王国にいる犯罪者ではないな……ということは他国から?)
頭の中でいくつかの可能性を考えては、違うと却下していく。そして、自分たちを襲ったときにこの男が発した、「騎士がいるとは聞いていない」という言葉を信じるなら、この男のねらいは転移者であるトウセイだ。つまり、トウセイを攫うためだけにこの男たちは他国からわざわざやって来たことになる。
(もしや国同士の話になるのか? 面倒だな)
転移者の存在自体、国内でさえ知っている人間は限られている。誰がこの男たちに転移者の存在を教えたのだろうか。城の人間とは考えにくい。利益がなさすぎるからだ。そもそも、トウセイを攫った理由はなんだ?
「なぁ、騎士サマ。あんた今、俺たちの正体とか狙いとか、必死に考えてるんだろ? あんたの推理聞かせてくれよ。暇なんだ」
「……お前は他国の人攫いだ。その国はどこからか転移者と魔女、そして予言のうわさを聞きつけたんだろう。犯罪者であるお前たちを金で雇い、転移者を攫ってくるよう命令した。俺も攫ったのは利用価値でも思いついたのか?」
男はグレンノルトの話を聞き、声を上げて笑った。グレンノルトにとって癇に障る態度だった。
「いいね! ほとんど合ってるぜ。違うのは___国は魔女の誘拐まで指示してきたことと、仕事の割に報酬が安すぎたってことだ」
魔女に手を出せばどんな目に合うか分からない。そんな危険な仕事をしても、もらえる金は雀の涙ほど。男たちにとって、国からの命令はリスクとリターンが釣り合っていなかった。しかし今、男たちはこうして転移者を攫っている。魔女を攫っていないということは、国からの命令に従っているわけではないようだが。グレンノルトが男を睨みつけていると、男はふっと笑った。
「どこの国にも物好き、いや頭の可笑しいやつはいるんだ。例えば、人間をコレクションするやつ、とかな」
「お前まさか___」
「嫌な話だよなぁ。国が出す金よりも、一人の貴族が出す金の方が多かったんだぜ?」
グレンノルトは、ただただ不快だった。転移者を利用しようと、攫うよう命令した国にも、人間をコレクションする貴族にも、そして金のために人を攫ったこの男にも。すべての人間がトウセイを「転移者」としか見ておらず、まるで物か何かのように扱う。それはあの人が一番悲しむことだ!
「大人しくしてろよ。転移者サマに傷をつけるのは、俺としても本望じゃない」
逃げ出すような素振りを見せるだけでも、トウセイは無事では済まないという脅しだろうか。俺があの人を置いて一人で逃げ出すと思われているのか。そんなことはしない。国、貴族、人攫い……すべてに報いを受けさせてやる。荷台はガタゴトと揺れ、グレンノルトたちをどこかへと運んでいる。騎士は1人怒りと決意に燃えていた。
(どこだここは……)
馬車か何かの荷台だろうか。薄暗く、周囲をよく見ることができない。後ろ手に手を縛られ、転がされているせいで、顔を動かして見回すこともできなかった。
(トウセイは)
グレンノルトは暗がりに、守るべき人の姿を探した。
「起きたか。転移者サマはここにはいないぜ」
「……」
顔なんて見なくたって分かる。今一番殺したい人間の声が聞こえ、グレンノルトは内心舌打ちした。
「あんたの強さはさっきよく分かった。なぁ、騎士サマ。あんた俺たちに付かないか? あんたの強さがあれば、俺たちも仕事がしやすく……ははっ冗談だ! そう睨むな」
「視線だけで人殺せそうだな」と話す男を無視し、グレンノルトは頭を働かせた。考えることは3つ。男たちの正体。その目的。そして、脱出方法。荷台の中は薄暗いが、それは窓を布か何かで覆っているからだ。布の合間から光が漏れている。ということは、外はまだ明るいと言うことだ。良かった、自分はそれほど長く気を失っていなかったようだ。
(この男は……人攫いか? 盗賊の可能性もあるが、人を攫うのに手慣れすぎている。しかし、俺が知らない顔と言うことは、少なくてもエルス王国にいる犯罪者ではないな……ということは他国から?)
頭の中でいくつかの可能性を考えては、違うと却下していく。そして、自分たちを襲ったときにこの男が発した、「騎士がいるとは聞いていない」という言葉を信じるなら、この男のねらいは転移者であるトウセイだ。つまり、トウセイを攫うためだけにこの男たちは他国からわざわざやって来たことになる。
(もしや国同士の話になるのか? 面倒だな)
転移者の存在自体、国内でさえ知っている人間は限られている。誰がこの男たちに転移者の存在を教えたのだろうか。城の人間とは考えにくい。利益がなさすぎるからだ。そもそも、トウセイを攫った理由はなんだ?
「なぁ、騎士サマ。あんた今、俺たちの正体とか狙いとか、必死に考えてるんだろ? あんたの推理聞かせてくれよ。暇なんだ」
「……お前は他国の人攫いだ。その国はどこからか転移者と魔女、そして予言のうわさを聞きつけたんだろう。犯罪者であるお前たちを金で雇い、転移者を攫ってくるよう命令した。俺も攫ったのは利用価値でも思いついたのか?」
男はグレンノルトの話を聞き、声を上げて笑った。グレンノルトにとって癇に障る態度だった。
「いいね! ほとんど合ってるぜ。違うのは___国は魔女の誘拐まで指示してきたことと、仕事の割に報酬が安すぎたってことだ」
魔女に手を出せばどんな目に合うか分からない。そんな危険な仕事をしても、もらえる金は雀の涙ほど。男たちにとって、国からの命令はリスクとリターンが釣り合っていなかった。しかし今、男たちはこうして転移者を攫っている。魔女を攫っていないということは、国からの命令に従っているわけではないようだが。グレンノルトが男を睨みつけていると、男はふっと笑った。
「どこの国にも物好き、いや頭の可笑しいやつはいるんだ。例えば、人間をコレクションするやつ、とかな」
「お前まさか___」
「嫌な話だよなぁ。国が出す金よりも、一人の貴族が出す金の方が多かったんだぜ?」
グレンノルトは、ただただ不快だった。転移者を利用しようと、攫うよう命令した国にも、人間をコレクションする貴族にも、そして金のために人を攫ったこの男にも。すべての人間がトウセイを「転移者」としか見ておらず、まるで物か何かのように扱う。それはあの人が一番悲しむことだ!
「大人しくしてろよ。転移者サマに傷をつけるのは、俺としても本望じゃない」
逃げ出すような素振りを見せるだけでも、トウセイは無事では済まないという脅しだろうか。俺があの人を置いて一人で逃げ出すと思われているのか。そんなことはしない。国、貴族、人攫い……すべてに報いを受けさせてやる。荷台はガタゴトと揺れ、グレンノルトたちをどこかへと運んでいる。騎士は1人怒りと決意に燃えていた。
34
あなたにおすすめの小説
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。
音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。
親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて……
可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL
【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません
ミミナガ
BL
この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。
14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。
それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。
ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。
使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。
ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。
本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。
コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる