異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず

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閑話休題②

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 ガタゴトと言う音と、体が揺れる感覚があった。どうやら自分は乗り物に乗せられ、どこかに運ばれているらしい。グレンノルトはゆっくりと目を開けた。

(どこだここは……)

 馬車か何かの荷台だろうか。薄暗く、周囲をよく見ることができない。後ろ手に手を縛られ、転がされているせいで、顔を動かして見回すこともできなかった。

(トウセイは)

 グレンノルトは暗がりに、守るべき人の姿を探した。

「起きたか。転移者サマはここにはいないぜ」
「……」

 顔なんて見なくたって分かる。今一番殺したい人間の声が聞こえ、グレンノルトは内心舌打ちした。

「あんたの強さはさっきよく分かった。なぁ、騎士サマ。あんた俺たちに付かないか? あんたの強さがあれば、俺たちも仕事がしやすく……ははっ冗談だ! そう睨むな」

 「視線だけで人殺せそうだな」と話す男を無視し、グレンノルトは頭を働かせた。考えることは3つ。男たちの正体。その目的。そして、脱出方法。荷台の中は薄暗いが、それは窓を布か何かで覆っているからだ。布の合間から光が漏れている。ということは、外はまだ明るいと言うことだ。良かった、自分はそれほど長く気を失っていなかったようだ。

(この男は……人攫いか? 盗賊の可能性もあるが、人を攫うのに手慣れすぎている。しかし、俺が知らない顔と言うことは、少なくてもエルス王国にいる犯罪者ではないな……ということは他国から?)

 頭の中でいくつかの可能性を考えては、違うと却下していく。そして、自分たちを襲ったときにこの男が発した、「騎士がいるとは聞いていない」という言葉を信じるなら、この男のねらいは転移者であるトウセイだ。つまり、トウセイを攫うためだけにこの男たちは他国からわざわざやって来たことになる。

(もしや国同士の話になるのか? 面倒だな)

 転移者の存在自体、国内でさえ知っている人間は限られている。誰がこの男たちに転移者の存在を教えたのだろうか。城の人間とは考えにくい。利益がなさすぎるからだ。そもそも、トウセイを攫った理由はなんだ?

「なぁ、騎士サマ。あんた今、俺たちの正体とか狙いとか、必死に考えてるんだろ? あんたの推理聞かせてくれよ。暇なんだ」
「……お前は他国の人攫いだ。その国はどこからか転移者と魔女、そして予言のうわさを聞きつけたんだろう。犯罪者であるお前たちを金で雇い、転移者を攫ってくるよう命令した。俺も攫ったのは利用価値でも思いついたのか?」

 男はグレンノルトの話を聞き、声を上げて笑った。グレンノルトにとって癇に障る態度だった。

「いいね! ほとんど合ってるぜ。違うのは___国は魔女の誘拐まで指示してきたことと、仕事の割に報酬が安すぎたってことだ」

 魔女に手を出せばどんな目に合うか分からない。そんな危険な仕事をしても、もらえる金は雀の涙ほど。男たちにとって、国からの命令はリスクとリターンが釣り合っていなかった。しかし今、男たちはこうして転移者を攫っている。魔女を攫っていないということは、国からの命令に従っているわけではないようだが。グレンノルトが男を睨みつけていると、男はふっと笑った。

「どこの国にも物好き、いや頭の可笑しいやつはいるんだ。例えば、人間をコレクションするやつ、とかな」
「お前まさか___」
「嫌な話だよなぁ。国が出す金よりも、一人の貴族が出す金の方が多かったんだぜ?」

 グレンノルトは、ただただ不快だった。転移者を利用しようと、攫うよう命令した国にも、人間をコレクションする貴族にも、そして金のために人を攫ったこの男にも。すべての人間がトウセイを「転移者」としか見ておらず、まるで物か何かのように扱う。それはあの人が一番悲しむことだ!

「大人しくしてろよ。転移者サマに傷をつけるのは、俺としても本望じゃない」

 逃げ出すような素振りを見せるだけでも、トウセイは無事では済まないという脅しだろうか。俺があの人を置いて一人で逃げ出すと思われているのか。そんなことはしない。国、貴族、人攫い……すべてに報いを受けさせてやる。荷台はガタゴトと揺れ、グレンノルトたちをどこかへと運んでいる。騎士は1人怒りと決意に燃えていた。
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