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50 恋に落ちた瞬間
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いくつかの店を見て回った後、人気のレストランで昼食を食べた。パスタが有名な店だと話すと、トウセイは小さく笑って「どれも美味しそうで迷っちゃいますね」と言う。グレンノルトは彼に、「そうですね」と笑顔で答えながらメニューを見て頼む料理を決めた。正直、どれでもよかった。何を食べたって似たような味しかしないのだ。
「お待たせしました。カルボナーラとペペロンチーノです」
数分後、料理が運ばれてきた。トウセイの前に濃厚そうなソースが絡められたカルボナーラが、グレンノルトの前にガーリックの香りが効いたペペロンチーノが置かれる。早速トウセイは「いただきます」と挨拶してから、フォークで巻いてパスタを一口食べた。
「すごい……パスタがもちもちで、ソースも濃厚ですごく美味しいです! ほら、グレンも早く食べてください!」
「……そうですね。いただきます」
トウセイは美味しいものを美味しそうに食べて、「美味しい」と言える人だった。見ているだけでお腹がいっぱいになって来そうだ。しかし、自分も食べなくてはいけない。現に、いまだ一口も食べられていない料理が目の前に待っているんだ。グレンノルトはフォークを取り、一口文巻き取ると緩慢な動きでパスタを口に運んだ。
「……美味しい」
「ですよね! すごく美味しいですよね!」
「え、ええ。そうですね……確かに、美味しいです」
思わず漏れ出た言葉にトウセイが反応する。混乱しているグレンノルトは、それでもなんとか彼に言葉を返した。
(久しぶりに食事をおいしいと感じた気がする)
いつからだったか、何を食べてもあまり味を感じなくなった。他人に話せば医者に行くことを進められることだろうが、死なないならどうでもいい。訓練中に食べる不味いと噂の干し肉を、苦も無く食べれるからむしろラッキーだと思っていたくらいだ。でも、久しぶりの味のある食事。グレンノルトが感動するには十分だった。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね!」
「そうですね。また来たいです」
なぜ唐突に味覚が戻ったのか、理由は分からない。とにかく、レストランのパスタは有名なのも頷けるくらい美味しかった。
*
昼食を食べ、文具屋を見た後、時間が余った2人は、トウセイのリクエストに応え時計塔へとやって来た。アリシアから時計塔から見える光景を力説され、見てみたいと言うことだ。確かに、この町に住んでいれば一度は見るべきものあろう。現在は予言の関係で施錠しているが、自分がいるから問題ない。階段の長さに軽く絶望するトウセイを何とか励まし、2人は頂上に到達した。
「……すごい。すごくきれいです」
オレンジの夕陽が街並みを照らし、暗い夜が近づいてきている。どうやら夕陽が落ちる瞬間を見ることができているようだ。確かに美しい。タイミングが良かったと、トウセイの少し後ろから景色を見ていたグレンノルトは考えた。
(それにしても、トウセイはもっとはしゃぐと思っていた)
予想よりもトウセイが静かなことが気になり、グレンノルトは彼の顔を盗み見る。そして、小さく息をのんだ。
(___きれいだ)
彼の澄んだ黒い目に、オレンジの夕陽がキラキラと反射していた。頬も、興奮からかはたまた夕陽に照らされてか赤く色づいている。感動、しているのだろう。それも静かに。この光景を忘れないように、目に焼き付けようとする彼の姿に、グレンノルトは気付けば目を奪われていた。そしてふと、トウセイの艶のある黒髪がさらりと揺る。2人の視線がぶつかった。
「きれいですね」
彼は二ヘリと笑い、グレンノルトにそう言った。この時の気持ちを、どう言えばいいのだろう。心臓が爆発したようになったような、今まで蓋をしていたものが弾け飛んで何かがあふれ出したかのような、そんな気分に陥ったグレンノルトは、このままではまずいと反射的にトウセイの視線を空へと向かわせた。
「み、見てくださいトウセイ。星が出ています」
「一番星ですね! すごい……きれいです」
星を指さしながら、グレンノルトの心臓はいまだバクバクと音をたててその存在を主張した。一体、自分の体に何が起こっているんだ。グレンノルトは、手を下ろしぎゅっと握る。とりあえず、落ち着こう。まだ、さっき購入した万年筆を彼に贈っていない。とにかく、これ以上変なことが起こらないよう、万年筆を贈り、もう時間だからと言って今日は帰ろう。そう思ったグレンノルトは、文房具屋の紙袋を取り出し、トウセイに声を掛ける。まさかこの後、万年筆を贈られたトウセイの、ただただ純粋な嬉しさを滲ませた笑顔に再び見惚れ、続く「手帳とお揃い」と言う成人男性が言うにはあまりにも可愛らしい言葉に脳をやられ、思わず告白してしまうこと。そして、まさかトウセイがその告白にあっさり頷くとは夢にも思わなかったのである。
「お待たせしました。カルボナーラとペペロンチーノです」
数分後、料理が運ばれてきた。トウセイの前に濃厚そうなソースが絡められたカルボナーラが、グレンノルトの前にガーリックの香りが効いたペペロンチーノが置かれる。早速トウセイは「いただきます」と挨拶してから、フォークで巻いてパスタを一口食べた。
「すごい……パスタがもちもちで、ソースも濃厚ですごく美味しいです! ほら、グレンも早く食べてください!」
「……そうですね。いただきます」
トウセイは美味しいものを美味しそうに食べて、「美味しい」と言える人だった。見ているだけでお腹がいっぱいになって来そうだ。しかし、自分も食べなくてはいけない。現に、いまだ一口も食べられていない料理が目の前に待っているんだ。グレンノルトはフォークを取り、一口文巻き取ると緩慢な動きでパスタを口に運んだ。
「……美味しい」
「ですよね! すごく美味しいですよね!」
「え、ええ。そうですね……確かに、美味しいです」
思わず漏れ出た言葉にトウセイが反応する。混乱しているグレンノルトは、それでもなんとか彼に言葉を返した。
(久しぶりに食事をおいしいと感じた気がする)
いつからだったか、何を食べてもあまり味を感じなくなった。他人に話せば医者に行くことを進められることだろうが、死なないならどうでもいい。訓練中に食べる不味いと噂の干し肉を、苦も無く食べれるからむしろラッキーだと思っていたくらいだ。でも、久しぶりの味のある食事。グレンノルトが感動するには十分だった。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね!」
「そうですね。また来たいです」
なぜ唐突に味覚が戻ったのか、理由は分からない。とにかく、レストランのパスタは有名なのも頷けるくらい美味しかった。
*
昼食を食べ、文具屋を見た後、時間が余った2人は、トウセイのリクエストに応え時計塔へとやって来た。アリシアから時計塔から見える光景を力説され、見てみたいと言うことだ。確かに、この町に住んでいれば一度は見るべきものあろう。現在は予言の関係で施錠しているが、自分がいるから問題ない。階段の長さに軽く絶望するトウセイを何とか励まし、2人は頂上に到達した。
「……すごい。すごくきれいです」
オレンジの夕陽が街並みを照らし、暗い夜が近づいてきている。どうやら夕陽が落ちる瞬間を見ることができているようだ。確かに美しい。タイミングが良かったと、トウセイの少し後ろから景色を見ていたグレンノルトは考えた。
(それにしても、トウセイはもっとはしゃぐと思っていた)
予想よりもトウセイが静かなことが気になり、グレンノルトは彼の顔を盗み見る。そして、小さく息をのんだ。
(___きれいだ)
彼の澄んだ黒い目に、オレンジの夕陽がキラキラと反射していた。頬も、興奮からかはたまた夕陽に照らされてか赤く色づいている。感動、しているのだろう。それも静かに。この光景を忘れないように、目に焼き付けようとする彼の姿に、グレンノルトは気付けば目を奪われていた。そしてふと、トウセイの艶のある黒髪がさらりと揺る。2人の視線がぶつかった。
「きれいですね」
彼は二ヘリと笑い、グレンノルトにそう言った。この時の気持ちを、どう言えばいいのだろう。心臓が爆発したようになったような、今まで蓋をしていたものが弾け飛んで何かがあふれ出したかのような、そんな気分に陥ったグレンノルトは、このままではまずいと反射的にトウセイの視線を空へと向かわせた。
「み、見てくださいトウセイ。星が出ています」
「一番星ですね! すごい……きれいです」
星を指さしながら、グレンノルトの心臓はいまだバクバクと音をたててその存在を主張した。一体、自分の体に何が起こっているんだ。グレンノルトは、手を下ろしぎゅっと握る。とりあえず、落ち着こう。まだ、さっき購入した万年筆を彼に贈っていない。とにかく、これ以上変なことが起こらないよう、万年筆を贈り、もう時間だからと言って今日は帰ろう。そう思ったグレンノルトは、文房具屋の紙袋を取り出し、トウセイに声を掛ける。まさかこの後、万年筆を贈られたトウセイの、ただただ純粋な嬉しさを滲ませた笑顔に再び見惚れ、続く「手帳とお揃い」と言う成人男性が言うにはあまりにも可愛らしい言葉に脳をやられ、思わず告白してしまうこと。そして、まさかトウセイがその告白にあっさり頷くとは夢にも思わなかったのである。
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