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49 親しくなるために
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思えば、罪悪感を覚え始めたのはこのころからだった。そして同時に、ふとしたことでトウセイのことを思い出すようになったのもこのころからだった。
(この本……トウセイ様が読むのに丁度いいかもな)
勉強会も何度かこなし、トウセイもある程度の文字が読めるようになってきた。そろそろ自分で本を読んでみたくなるころだろう。仕事で資料室に行ったついでに、グレンノルトは読みやすそうな本を探したり、トウセイと仲の良いアリシアに相談したりした。グレンノルトもトウセイが努力しているのは分かる。だからこそ、彼の助けになることがしたかった。
(トウセイ様のため、か……)
トウセイのためと言いながらも、結局は彼と親しくなるのが目的だ。自分自身のため、延いては国のために、優しいふりをして彼を騙す。最低な人間だとグレンノルトは自嘲した。
*
「町に出掛ける、ですか?」
「はい。騎士団の仕事がひと段落つきまして休みをいただきました。トウセイ様は城下町に出られたことはありませんよね? もしよろしければ、私の息抜きに付き合ってくれませんか?」
ある日、グレンノルトはトウセイを町に誘った。このまま城の中で彼と関わり、仲良くなっても良かったのだが、そんなことよりも彼と一緒に出掛ける方が仲を深めるのに効率が良いと思ったからだ。当日に言うのは問題もあるかと思ったが、きっと彼はこの誘いを断らないという確信もあった。
「もちろん、一緒に行きたいです」
予想通り、トウセイは町に行きたいと答えた。そのまま、簡単に出かける時間を決め、一旦解散する。デートコースもすでに決めてある。しかし、デートとは言っても、行くのは店ばかりだが。まあ、友人同士の楽しい買い物だ。いかにも雰囲気の良い場所に行くのはまだ早いだろう。グレンノルトは自室に戻り、出かける準備をしながらそう考えていた。
*
数十分後、私服に着替え改めてグレンノルトはトウセイの部屋を訪ねた。トウセイも準備は万端で、もう出かけられると言うことだった。
「服、とても似合っています。そのような服もお持ちだったんですね」
制服から私服に着替えたグレンノルトと同じく、トウセイも服を着替えていた。少しサイズが大きめの黒いシャツで、袖にフリルがついている。普段の彼はあまり服装に頓着するタイプではないからこそ、正直今日の服装は良い意味で期待を裏切られたという感じだ。本当によく似合っていた。
「ありがとうございます。アリシアに頼んで、用意してもらったんです」
「……人から借りたんですか?」
「え? はい、服を全然持っていなくて」
人から借りた服を着ている。その事実を知り、グレンノルトは途端に気持ちが沈んだ。赤の他人の服だと分かると、不思議と見え方も変わった。もちろん、似合っている。似合ってはいるが、だからこそグレンノルトは腹が立った。
「では、初めに行く店は服屋にしましょう。近場に良い店を知っていますから」
脳内でデートコースを変更する。この時間なら、あの服屋も空いてはいるだろう。そこまで服を買うのに時間はかからないとして、店を出た後は……そう考え、はっとした。グレンノルトはすぐにトウセイの方を見る。案の定というべきか、トウセイは悲しそうに視線を手元に落としていた。
(しまった、そうだ! こんなの、似合ってないから着替えろと言ってるみたいじゃないか!
)
行ってしまった後に気付いても仕方がない。自分らしからぬ失敗をしたと、グレンノルトは後悔する。しかし今は、トウセイへのフォローだ。悪意があるわけではないと伝えなくては。
(変に取り繕うよりは、正直に話した方が良い。えーっと……)
なぜ俺は、服屋に行こうなんて言ったのだろうか。いや、彼の着ている服が赤の他人のものだったからだと分かったのが発端だとは理解している。だが、別に問題はないだろう。彼も行っていたように、まだ世界に来たばかりで持っている服が少ないんだ。初めて行く城下町に、いつもとは違う服装で行ってみたいと言う彼の気持ちも理解できた。俺が腹を立てる理由なんてどこにもないだろう。グレンノルトが、なんと説明すればいいのか悩んでいる間も、トウセイはどんどんと元気がなくなっていく。その姿を見たグレンノルトは、考えるのを止めて思わず彼の手を握った。
「すみません、俺も上手く言えないのですが……私と出かけるのに他人の服を着られるのは、嫌です」
自分でもおかしな言い訳だと思ったが、これしか出てこなかったのだ。決して、似合っていなかったとかそういった理由ではないと、それだけでも伝わればいい。結局、トウセイはグレンノルトの言葉に一旦納得し、グレンノルトの案内で服屋に行き白いシャツと茶色いウエストコートを買った。シャツの襟と袖には控えめなフリルがついている。我ながら良い見立てだ。良く似合っている。すっかり機嫌の良くなったグレンノルトは、「行きましょう」と言ってトウセイの手を引き、店を出た。
(この本……トウセイ様が読むのに丁度いいかもな)
勉強会も何度かこなし、トウセイもある程度の文字が読めるようになってきた。そろそろ自分で本を読んでみたくなるころだろう。仕事で資料室に行ったついでに、グレンノルトは読みやすそうな本を探したり、トウセイと仲の良いアリシアに相談したりした。グレンノルトもトウセイが努力しているのは分かる。だからこそ、彼の助けになることがしたかった。
(トウセイ様のため、か……)
トウセイのためと言いながらも、結局は彼と親しくなるのが目的だ。自分自身のため、延いては国のために、優しいふりをして彼を騙す。最低な人間だとグレンノルトは自嘲した。
*
「町に出掛ける、ですか?」
「はい。騎士団の仕事がひと段落つきまして休みをいただきました。トウセイ様は城下町に出られたことはありませんよね? もしよろしければ、私の息抜きに付き合ってくれませんか?」
ある日、グレンノルトはトウセイを町に誘った。このまま城の中で彼と関わり、仲良くなっても良かったのだが、そんなことよりも彼と一緒に出掛ける方が仲を深めるのに効率が良いと思ったからだ。当日に言うのは問題もあるかと思ったが、きっと彼はこの誘いを断らないという確信もあった。
「もちろん、一緒に行きたいです」
予想通り、トウセイは町に行きたいと答えた。そのまま、簡単に出かける時間を決め、一旦解散する。デートコースもすでに決めてある。しかし、デートとは言っても、行くのは店ばかりだが。まあ、友人同士の楽しい買い物だ。いかにも雰囲気の良い場所に行くのはまだ早いだろう。グレンノルトは自室に戻り、出かける準備をしながらそう考えていた。
*
数十分後、私服に着替え改めてグレンノルトはトウセイの部屋を訪ねた。トウセイも準備は万端で、もう出かけられると言うことだった。
「服、とても似合っています。そのような服もお持ちだったんですね」
制服から私服に着替えたグレンノルトと同じく、トウセイも服を着替えていた。少しサイズが大きめの黒いシャツで、袖にフリルがついている。普段の彼はあまり服装に頓着するタイプではないからこそ、正直今日の服装は良い意味で期待を裏切られたという感じだ。本当によく似合っていた。
「ありがとうございます。アリシアに頼んで、用意してもらったんです」
「……人から借りたんですか?」
「え? はい、服を全然持っていなくて」
人から借りた服を着ている。その事実を知り、グレンノルトは途端に気持ちが沈んだ。赤の他人の服だと分かると、不思議と見え方も変わった。もちろん、似合っている。似合ってはいるが、だからこそグレンノルトは腹が立った。
「では、初めに行く店は服屋にしましょう。近場に良い店を知っていますから」
脳内でデートコースを変更する。この時間なら、あの服屋も空いてはいるだろう。そこまで服を買うのに時間はかからないとして、店を出た後は……そう考え、はっとした。グレンノルトはすぐにトウセイの方を見る。案の定というべきか、トウセイは悲しそうに視線を手元に落としていた。
(しまった、そうだ! こんなの、似合ってないから着替えろと言ってるみたいじゃないか!
)
行ってしまった後に気付いても仕方がない。自分らしからぬ失敗をしたと、グレンノルトは後悔する。しかし今は、トウセイへのフォローだ。悪意があるわけではないと伝えなくては。
(変に取り繕うよりは、正直に話した方が良い。えーっと……)
なぜ俺は、服屋に行こうなんて言ったのだろうか。いや、彼の着ている服が赤の他人のものだったからだと分かったのが発端だとは理解している。だが、別に問題はないだろう。彼も行っていたように、まだ世界に来たばかりで持っている服が少ないんだ。初めて行く城下町に、いつもとは違う服装で行ってみたいと言う彼の気持ちも理解できた。俺が腹を立てる理由なんてどこにもないだろう。グレンノルトが、なんと説明すればいいのか悩んでいる間も、トウセイはどんどんと元気がなくなっていく。その姿を見たグレンノルトは、考えるのを止めて思わず彼の手を握った。
「すみません、俺も上手く言えないのですが……私と出かけるのに他人の服を着られるのは、嫌です」
自分でもおかしな言い訳だと思ったが、これしか出てこなかったのだ。決して、似合っていなかったとかそういった理由ではないと、それだけでも伝わればいい。結局、トウセイはグレンノルトの言葉に一旦納得し、グレンノルトの案内で服屋に行き白いシャツと茶色いウエストコートを買った。シャツの襟と袖には控えめなフリルがついている。我ながら良い見立てだ。良く似合っている。すっかり機嫌の良くなったグレンノルトは、「行きましょう」と言ってトウセイの手を引き、店を出た。
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