50 / 53
48 転移者
しおりを挟む
王に呼び出されてから数日たったころ、遂に転移者が召喚された。女性ならば任された仕事も楽になると期待していたが、召喚されたのは男性。派手でもないが地味でもない、そんな青年が今代の転移者だった。
「は、はじめましてグレンノルトさん。俺の名前は宇久田冬晴です」
年齢は10代後半といったところか。黒髪に青みがかった黒目と、この世界ではあまり見ない容姿をしている。緊張しながらも、丁寧な受け答えをするトウセイにグレンノルトは好感を持った。
「お部屋はこちらです」
「広っ! 天井高っ! え、こんな良いお部屋使わせてもらって良いんですか!?」
「もちろん。何かあれば何でもお申し付けください」
グレンノルトが部屋に案内すると、トウセイは目を丸くし子どものようにはしゃいで喜んだ。部屋の内装に一通り騒いだ後、テラスから見える景色に感動しているトウセイを見て、グレンノルトは純粋な人だなと思う。これからの彼のことを考えると、この部屋で過ごす時間は決して楽しいものではないだろう。自分だって彼を苦しめる中の1人になると言うのに、グレンノルトは他人事のように彼に同情した。
*
宇久田冬晴と言う人間は、グレンノルトの予想に反し、城での生活をそれなりに楽しんでいるようだった。しかし、それでも暇は持て余すようで、「手伝うことは無いか」と人に尋ねているらしい。きっと、相手にはされてないんだろうなとグレンノルトは思った。
「それじゃあ、部屋の片づけに手を貸してくれませんか?」
トウセイを探し、部屋の手伝いを頼んだのは仲を深めるきっかけになると思ったからだ。案の定、「手伝います」と快諾するトウセイを自分の部屋までグレンノルトは案内する。散らかっている部屋を見せるのは悪印象かと思ったが、少しくらいは隙を見せた方が向こうも親しく思ってくれるだろう。
(しかし、事件のことを話したのは失敗だったな)
自分の荷物がなくなっていた事件。犯人はメイドの中の1人だったが、流石に今聞かせる話ではなかった。普段はこういった失敗はしないのにと、グレンノルトは反省する。明日は転移者が初めて仕事をする日だ。自分も護衛として彼の乗る馬車に同乗する予定だ。今日のような失敗はないようにしようと、グレンノルトは心に誓った。
*
「私で良ければ、助力いたしましょうか?」
廊下で偶然出くわしたトウセイが、「この世界のことを知りたいのに字が読めなくて困っている」と言う話をしたとき、グレンノルトは間髪入れずにそう言った。遠慮するトウセイに、仕事の合間でいいのなら時間は取れると説明する。それでも渋るトウセイに、「確かに分かりやすいかどうかは不安がある」と少し申し訳なさそうに話せば、「いえ、教えてもらうだけで本当にありがたいです! よろしくお願いします!」とトウセイは慌ててそう答えた。
行われた勉強会では、文字の読み書きを教えることから始めた。トウセイは呑み込みが早く、この様子なら自力で本を読めるようになるまでそんなに時間はかからないだろう。一通りの勉強が終わった後は、休憩がてらこの世界についての話をして聞かせた。この世界にはどんな国があるのか、目をキラキラさせながらグレンノルトの話を聞くトウセイに、グレンノルトは少しの罪悪感を感じた。どんなに彼がこの国以外の場所に想像を膨らませ、いつか行ってみたいと願っても、それは叶えられない。
「今日はありがとうございました! またお願いします!」
「……はい、もちろん」
ニコニコとしながらトウセイはお礼を述べ、部屋を出て行った。扉が閉まると、グレンノルトはため息を吐き椅子に座り込む。トウセイが帰り、一人残った部屋はひどく静かで居心地が悪かった。
「は、はじめましてグレンノルトさん。俺の名前は宇久田冬晴です」
年齢は10代後半といったところか。黒髪に青みがかった黒目と、この世界ではあまり見ない容姿をしている。緊張しながらも、丁寧な受け答えをするトウセイにグレンノルトは好感を持った。
「お部屋はこちらです」
「広っ! 天井高っ! え、こんな良いお部屋使わせてもらって良いんですか!?」
「もちろん。何かあれば何でもお申し付けください」
グレンノルトが部屋に案内すると、トウセイは目を丸くし子どものようにはしゃいで喜んだ。部屋の内装に一通り騒いだ後、テラスから見える景色に感動しているトウセイを見て、グレンノルトは純粋な人だなと思う。これからの彼のことを考えると、この部屋で過ごす時間は決して楽しいものではないだろう。自分だって彼を苦しめる中の1人になると言うのに、グレンノルトは他人事のように彼に同情した。
*
宇久田冬晴と言う人間は、グレンノルトの予想に反し、城での生活をそれなりに楽しんでいるようだった。しかし、それでも暇は持て余すようで、「手伝うことは無いか」と人に尋ねているらしい。きっと、相手にはされてないんだろうなとグレンノルトは思った。
「それじゃあ、部屋の片づけに手を貸してくれませんか?」
トウセイを探し、部屋の手伝いを頼んだのは仲を深めるきっかけになると思ったからだ。案の定、「手伝います」と快諾するトウセイを自分の部屋までグレンノルトは案内する。散らかっている部屋を見せるのは悪印象かと思ったが、少しくらいは隙を見せた方が向こうも親しく思ってくれるだろう。
(しかし、事件のことを話したのは失敗だったな)
自分の荷物がなくなっていた事件。犯人はメイドの中の1人だったが、流石に今聞かせる話ではなかった。普段はこういった失敗はしないのにと、グレンノルトは反省する。明日は転移者が初めて仕事をする日だ。自分も護衛として彼の乗る馬車に同乗する予定だ。今日のような失敗はないようにしようと、グレンノルトは心に誓った。
*
「私で良ければ、助力いたしましょうか?」
廊下で偶然出くわしたトウセイが、「この世界のことを知りたいのに字が読めなくて困っている」と言う話をしたとき、グレンノルトは間髪入れずにそう言った。遠慮するトウセイに、仕事の合間でいいのなら時間は取れると説明する。それでも渋るトウセイに、「確かに分かりやすいかどうかは不安がある」と少し申し訳なさそうに話せば、「いえ、教えてもらうだけで本当にありがたいです! よろしくお願いします!」とトウセイは慌ててそう答えた。
行われた勉強会では、文字の読み書きを教えることから始めた。トウセイは呑み込みが早く、この様子なら自力で本を読めるようになるまでそんなに時間はかからないだろう。一通りの勉強が終わった後は、休憩がてらこの世界についての話をして聞かせた。この世界にはどんな国があるのか、目をキラキラさせながらグレンノルトの話を聞くトウセイに、グレンノルトは少しの罪悪感を感じた。どんなに彼がこの国以外の場所に想像を膨らませ、いつか行ってみたいと願っても、それは叶えられない。
「今日はありがとうございました! またお願いします!」
「……はい、もちろん」
ニコニコとしながらトウセイはお礼を述べ、部屋を出て行った。扉が閉まると、グレンノルトはため息を吐き椅子に座り込む。トウセイが帰り、一人残った部屋はひどく静かで居心地が悪かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
106
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる