花が落ちても

頼守 シロロ

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桜が咲く季節になり、同じ高校に入って来た妹は、良くも悪くも人目を引いていた。

中学に上がる前からモデルとしての仕事で忙しくしている、双子の兄、サクは知らないみたいだったが、入学当初は俺達の妹の割には冴えないと言う噂のみで、当時は、少なくとも”そう言う奴ら“は居なかった。
しかし、彼女に友達が増えてからは、密かに校内の話題を攫っていた。

普段は何方かと言うと地味とも言えなくもない彼女が、笑うと八重歯が覗いて、とても可愛い事は俺達だけが知っていた事だと思っていた。

「好きです。付き合って下さい!」
「はあ、参考までに聞きたいんですけど、私のどこを見て好きになったんですか。」
「そ、れは……そ、その、笑った時に八重歯が可愛いなって。思って。」

ーー殺すか、いや、どうにかしてあの男の頭の中から俺達の妹の記憶を消そうかと真面目に考えてしまった。

数分経ったのか、数時間経ったのかも分からない時間感覚の中で、棒立ちになっていた俺の意識を現実に戻したのは、誰かが腕を掴んで揺らして来たからだった。
見れば、去年の夏頃から、二つ結びがスタンダードになっていた妹が居た。

「カグロ、カグロ。」
「樺恋?」

そうだよ樺恋だよ、と返って来て、思わず、体が動いていた。

抱き締められている事に何の文句も言わずに、苦しいから力を弱めて、とだけ言う妹に腕を軽く叩かれた。
言われたままに、少し、腕の力を緩めた。

「んもう。返事くらいしてよね。」

人目が無いからだろうか。俺の胸板に手をついて、爪先立ちで手を伸ばして兄の頭をよしよしと撫でてくれる彼女の対応は、心なしか五割り増しで甘かった。

優しいのはいつもと変わらないが、最近は、あまり話さないらしいサクよりも俺との方が距離感が近いからか、甘えてくれるものの、今みたいに妹の方から甘やかしてくれるのは滅多に無い事で。とても、貴重な時間だった。
暫くは一人だけで幸せを噛み締めていたが、つい、機嫌が悪い時には口数が減るサクがむすっとしている顔を見て、思わず、その話をしていた。

……久し振りに、ここまでキレているサクを見たかもしれない。
無意識に寒気のした腕を摩り、半歩後退った俺の耳に、地を這う様な、つい、漏れ出たと言った風の声が届いた。

「は?」

何か間違えたかもしれない、と、兄に幸せをお裾分けするつもりで話したのに。動機と結果は、必ずしも、同じにはならないと後に知った。




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