魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ

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8:ダミーと本物

 ~~

「お師匠~~っ!」

 うたた寝から目覚め、声のする城門の方へと目をやった。中に浮く編みカゴ……いや、両手で抱える奥からリリィの声が聞こえる。

「リリィ~~。こっちだ、こっち」

 あまり大声で呼んでしまうと……門番まで聞こえてしまうからと、生かさず殺さずの声量で呼んだ。
 編みカゴをそらして顔を覗かせたリリィは、手招きする俺に気づくと真っ直ぐ向かってきた。
 だが、ふと思う……顔が隠れるようなカゴに入れるだけのお使いは頼んでいないと。

「おかえり~そのカゴ、どうしたんだ?」
「お師匠ッ、聞いてください! この街の人、すっごい優しいんですっ。リリィの買い物袋に穴が開きかけてるからって、りんご屋の人がくれたんです!」

 少し興奮気味のリリィ。

「にしては、ちと大きすぎなかったか? 歩きにくかっただろう?」

「そう言われてみれば……」

 俺はリリィの頭を撫でてねぎらった。
 カゴの中を漁る俺にリリィが聞く。

「お師匠って、ここの街で有名人なのですか?」
「まあ……ちょっとはそうなのかもな」
「それよりもお師匠、女の人は帰られたのですか?」
「あ~アカネなら先に抜け道使って行っとくって……」
「抜け道ッ! リリィも行ってみたいのです!」
「それじゃ~いっちょ、抜け道使って街に潜入しますか!」
「了解なのです」

 魔法筆を持たせた金剛力士像のある城門を、壁沿いに反時計回りへ進んだ先。

「あの二本の白樺しらかばの木が目印だ」
「あんな所に抜け道があるんですね!」

 リリィは駆け足になって先に向かった。

 二本の白樺のふもと近くでは薄いトタン板が無造作に置かれている。

「じゃあ、早速行きましょう!」

 探検気分のリリィがトタン板を持ち上げた。

「……リリィ、そっちはダミーだ。本当の抜け道は……俺の後ろにある黒い木の反対側にある」
「……じゃあ、この穴はどこに繋がってるのですか?」

 少し怯えた様子でリリィが良い質問をしてきた。

「リリィはどこだと思う? 牢屋か、それともゴールの無い地下深くか……はたまた城門を守る目と牙の持ち主……バジリスクの巣穴か??」 
「…………リリィには……興味ありません」

 引きつった顔でそう言った。
 リリィが興味がないと言うのなら、先を急ぐしかないだろう。

 抜け道に差し込む光の方では、アオイとアカネの話声が聞こえる。

「リリィ、もう少しで着くから我慢してなぁ」
「お師匠~~。リリィはこの道をついて来たことを後悔してますぅぅぅ」

 後ろで鼻をすするリリィには悪いことをしてしまった。
 だが、人生経験を積ませることも師匠の役割なのだ……わかっておくれ、リリィよ。

「やっと来たか~~。それでアイルの大切な人っていうのは?」

 そう言って出迎えたアオイは仁王立ちしている。

「その前に……手を貸してくれ」
「――おおっ、すまんな」

 掴んだアオイの手のひらは厚く硬く、日々の剣術を怠っていないことを物語っているようだった。
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