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しおりを挟む楽しい週末が終わってしまった。
私は仕事に行く準備をしていた。
陸からもらったネックレスを着けると、鞄を持ち玄関に向かう。陸は玄関で私を抱きしめると
軽いキスをした。
「今日は早く帰れる?」
「まだわからない。陸は?」
「今日は直帰できるから…早いかも…。」
「いいなぁー。」
「…迎えに…行ってもいい?」
「…待たせちゃうかもしれないからな…。」
「いいよ。」
「とりあえずまた連絡するよ。」
「わかった。」
私たちは駅に向かいながらそんな会話をしていた。
電車に乗ると、色々と考えていた。
喪失感に襲われた。
これでしばらくは、10人で集まることもないんだと…。
寂しい…。
徐々に人数が減っていく。
この前メッセージで話してた、海外移住を考えていた友達も、気持ちを固めたようだった。
転勤になりそうだと嘆いていた友達も、本格的に辞令がでたようだった…。
こうやって…1人減り…また1人減り…会う頻度も少なくなっていくんだな…。
わかっていても、やっぱり寂しかった。
「梨紗?」
「んー?」
「俺次で降りる…。」
「うん。」
陸の乗り換えの駅にもうすぐ着く…。
「何かあった?」
「…みんなのこと考えてた。」
「…そっか。」
「気持ち切り替えないとね。」
「うん。…俺が…そばにいるから…。」
きゅんとした。
そうだ…。
私には陸がいる…。
「うん…。そうだね。」
「じゃあ行ってくるね。」
陸はそう言って電車を降りて行った。
そうだよ…。私には陸がいるじゃん。
あゆみも隼人も近くにいる。
いつまでも学生気分を引きずっていたらだめだな…。
それくらい、私の中ではみんな大好きで楽しい時間だった。
今日は残業になりそうだったので、陸にそう連絡をした。
はぁ…早く帰りたかったな…。
仕方ない。頑張ろう…。
私は早く陸に会いたかった。
なんだか…寂しい気持ちでいっぱいになってたから…。
家に帰るとすぐに陸を抱きしめた。
陸は私を抱きしめ返すと、頭を撫でてくれた。
…落ち着く…。
最近…陸の様子がおかしい…。
残業が多くなった。
今まではそんなことなかったのに…。
「最近残業多くない?」
「…人が足りなくて…。」
「…本当に?」
「心配?」
「…。」
「今日は早く帰れるように頑張るから…。」
陸のこと…信じてるけど…
私は不満に思っていた。
その日は本当に早く帰ってきた。
でも…私のモヤモヤは晴れることはなかった。
「陸…私に何か隠してる?」
「…何も?」
「本当に?」
「本当だよ…。」
「なんか…最近…」
変だよって言いたかったけど…
もし本当に変なことをしていてたら、余計に私の目を逃れようとするかもしれない。
隠すかもしれない。
もうほとんど疑うようなことを言ってしまったけど、私はぐっと言葉を飲み込んだ。
「なんか最近…疲れてるみたいだからさ。」
「大丈夫だよ。」
「私に隠れて、ジムとか行ってるの?」
「…行ってないよ…。」
私はそう言って、疑いを健全な方向に向けた。
とりあえず、もうこの話はやめておいた。
「梨紗…。」
陸は私を抱き寄せた。
でも私は拗ねていた。
本当は平静を装いたかったのに…。
「…怒ってるの?」
「怒ってないよ。」
「じゃあなんでそんな顔してるの…?」
もうやだ。こんなモヤモヤするのやだ。
「大丈夫だから。」
「…。」
「…。」
「梨紗…俺のこと好き…?」
「…。」
陸は私の体を離すと顔を見た。
「好きじゃ…なくなった…?」
悲しそうな顔をして陸はそう言った。
「…好き…。」
陸はまた抱きしめた。
「俺も好きだよ…。」
本当に…?
なんで…こんなに不安になっちゃうんだろう…。
そうだ…。
何か陸が考え込んでいることが増えたからだ。
陸が私の体を撫ではじめた。
…今日は…したくない…。
「陸…やめて。」
「…なんで…。」
「したくない。」
「…。」
「…。」
「なんでしたくないの?」
「…そういう時も…あるでしょ?」
「…わかった。」
陸はそう言うと私から離れた。
陸とはずっと、今まで仲良く暮らしてたのに…
倦怠期ってやつなのかな…。
なんだか今日の陸は、私のご機嫌取りをしているように見えた。
だから…そういうことをしたくなかった。
陸は「寝るね、おやすみ。」と言い、先に寝室へと向かった。
元々口数が少ないから、余計に陸のことがわからなくなった。
次の日は、私も口数が少なくなっていた。
「梨紗?」
「なに?」
「元気ない…。」
「そんなことないよ。」
「…。」
陸が話しかけてくれても、私はこんな感じで態度に出てしまっていた。
こんな自分が嫌だった。
「今日は早く行かなきゃいけないから、先に出るね。」
私は嘘をついて、陸を置いて家を出た。
「待ってっ。」
陸の声が後ろから聞こえてきたけど、私はそれを無視した。
早足に駅へと向かう。
走って来たらしい陸に肩を掴まれた。
「梨紗っ。言いたいことがあるならハッキリ言ってっ。」
「もう行かないと間に合わないからっ。」
「早く行くなんて聞いてない。」
「忘れてただけ。」
「…本当に?」
「本当。」
陸は手を離した。
結局一緒に駅に向かい、電車に乗った。
私は何も話さなかった。
「今日も…早く帰るから…。」
陸はそれだけを言うと、乗り換えのために電車を降りた。
仕事が終わり、芦屋くんと会社を一緒に出ると声をかけられた。
「梨紗。」
太一だった。
すると芦屋くんに小声で話しかけられた。
「誰?」
「友達。」
「…陸くんも知ってる人?」
「大学の頃の友達だから知ってるよ。」
「…何しに来たんだ?」
「わからない。」
太一は私に近づいて来た。
太一に会うのは2ヶ月弱ぶりくらいだった。
「近くまで来たからさ、ちょっと会おうと思って…。突然悪いな。」
「飲みにはいかないよ…?」
私はそう言った。
「そういうんじゃねーよ。ちょっと話したかっただけ。」
そう言う太一は以前よりも落ち着いているように見えた。
「ちょっとだけ、俺に付き合ってくれない?」
太一がそう言うと、芦屋くんが口を挟んだ。
「俺も混ざっていい?」
「は?」
太一は驚いていた。
「何言ってんの芦屋くん。」
私もそう言った。
「いや、だから俺も混ざっていい?」
「なんでよ?」
私はそう聞いた。
すると芦屋くんは私の腕を引っ張りまた小声でこう言った。
「陸くんにバレた時、2人よりも3人でいた方がまだマシじゃね?それとも陸くんは男友達と2人で会うこと許してくれるタイプなの?」
確かに…。
陸は太一と私が2人きりになるのを嫌がっていた。
“俺のいない所で太一と会わないで”
陸は以前そうとも言っていた。
「ごめん、帰る。」
「少しだけだから。」
「俺もいい?」
三つ巴だ…。
なんだかもう面倒くさくなってきた…。
「梨紗…少しだけだから…。」
「…わかったよ。」
「俺もいい?」
「いや…できれば梨紗と2人がいいんですけど…。」
太一は敬語を使っていた。
なんだか…新鮮だった。
たぶん…芦屋くんが私の仕事関係の人だからだ。
「…でも…それは陸くんが許さないんじゃない?」
太一の顔色が変わった。
「陸を…ご存知なんですね。」
「知ってるよ。嫉妬深くて独占欲が強い陸くん。」
芦屋くん…陸のことそんなふうに思ってたんだ…。
「よく…ご存知で…。」
太一はそう言った。
「だから、2人はまずいんじゃないの?」
「…まぁ…でも友達ですし。」
「やめとけよ。」
芦屋くんは私にそう言った。
「…さっきから何なんです?」
「いやー俺は心配してるだけ。」
「心配って?」
太一がイライラとしはじめたのがわかった。
「普通に考えたら嫌でしょ?自分の彼女が男と2人で会ってたら。例え友達だとしても。」
「…。」
「だから俺がね?そうなんないようにさ?」
「でも共通の友達です。」
「それでもさ?」
「…わかりました。」
太一は観念したようだった。
するとポケットから小さい紙袋を手渡してきた。
「初めて…売り物になるもんができた。貰って。」
太一はそれだけ言うと立ち去った。
「ちょっとっ…」
私は太一にそう声をかけ追いかけようとしたけど、芦屋くんに腕を掴まれ止められた。
「行くな。」
「なんで?」
「行ったらだめだ。」
「…なんでよ…?」
「お前は“陸くん“が好きなんだろ?」
「…そう…だけど…。」
最近の陸はよくわからない…。
「“だけど”なんだよ?」
「…言いたくない…。」
「また何かあったのかよ…。」
「言いたくないってば。」
「お願いだから…幸せでいてくれよ…。」
そんなこと…言われたって…
「とにかく…2人で会わない方がいい…。」
「…。」
「わかったか?雨宮。」
「…うん。」
「俺はお前には、陸くんと幸せになって欲しい。」
「…うん…。」
「じゃないと…」
「…?」
芦屋くんはそこで言葉を止めた。
それから芦屋くんとも別れて電車に乗った。
電車の中で太一から貰ったものを見てみた。
それは綺麗にカットされた水晶らしき物のストラップだった…。
少し氷が溶けたような透明感のあるそれは、すごく綺麗だった。
太一は半年前に仕事を辞め、家業を手伝うことになった。
天然石の加工をする仕事だ。
太一はやっと売り物になるものができたと言っていた…。
それを私にくれたのだ。
私は太一にそれを返そうと思った。
そんな思いの詰まったものは貰えないと…。
でも…返すタイミングがなかった。
2人では会えない。
飲み会もない。
私はしばらく、それをカバンの中にしまったままにしていた。
ある休みの日…。
「これ…何…?」
陸の手には以前太一から貰った水晶のストラップがあった。
雑に置いたカバンから、飛び出してしまったようだった。
「…お土産で…貰ったの。」
私は嘘をついた。
「いつ会ったの?」
…え…。
「太一といつ会ったの?」
陸は怒りながらハッキリとそう言った。
何で…わかるの…。
「梨紗。太一といつ会ったの。」
「何で太一?」
「…これと同じの…太一の投稿で見た。これ…太一が作ったやつでしょ?」
SNS…最近見ていなかった…。
盲点だった…。
「梨紗…俺言ったよね?太一と2人にならないでって。」
「2人じゃない…。」
「でも太一に関わることはちゃんと話してって、俺…そうも言ったよね?」
陸が…怒ってる…。
こんなふうに怒る陸を初めて見た…。
「梨紗。」
何で…なんでよ…
私…何もしてない…
貰ったものも返そうと思ってた…。
2人きりにもなってない…。
芦屋くんが止めてくれたから…。
「別に何もなかったよ?陸、心配しすぎなんじゃない?」
「…そんなことない。何話したの?」
「会社の近くまで来たからって、それでそれを渡された。」
「何で受け取ったの?」
何でって…
「貰ってって言われて…でも中身を見て返そうと思ってたよ?」
「何でその場で返さなかったの?」
「すぐに太一帰ったから。」
「…。」
「…。」
「今度からちゃんと話して。」
陸はまだ怒っていた。
「陸だって…何も話してくれないじゃんっ」
とうとう私は泣き出してしまった。
「なんのこと?」
「ずっと何かを考え込んでて…残業も増えて…一体何してるの?コソコソと。」
「…。」
「ほらっ。何も言わないじゃんっ。」
すると陸は私を抱きしめた。
「やだっ。離してっ。」
「…ごめん…ちゃんと今から言うから。」
「…残業は…本当…でも…嘘の時もあった…」
…やっぱり…。
「…色々…調べてたんだ…。」
「…なにを…」
「…梨紗が喜ぶ姿が見たくて…。」
「…。」
「梨紗の誕生日…去年はろくなことをしてあげられなかったから…なにかしてあげたくて…それで色々調べてたんだ…」
誕生日…
「…別に…いいのに…。」
「いつも…梨紗がデート考えてくれてるから…お返しもしたかった…。」
「…。」
陸の嘘は私のためだった…。
なのに私は…。
「陸…太一のことごめん…。」
「もういいよ。俺も怒っちゃってごめん。…貰ったものも、返さなくていいよ…。」
「…うん。」
「でも…使うのはやめて?」
「わかった…。」
陸はその後理由を言っていた。
返すにしても2人で会って欲しくないし、だからといって陸がいる時に返すのも、太一の機嫌がただ悪くなって喧嘩になりそうだからと。
「ムキになりすぎてた…。」
「…うん…。」
それから私たちは仲直りのキスをした。
久しぶりのキスだった。
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