【完結/R18】前世で王女だった女子大生は、近衛騎士の生まれ変わりの義兄に溺愛される

久藤れい

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10話

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 零れ落ちる涙もそのままに、一人子供のように泣きわめいた彩花は、ようやく涙が枯れた頃に真っ赤に腫れた瞼を抑えて立ち上がった。

(忘れられる、はずないじゃない……!!)

 あんなに情熱的に求められたのだ。いささか強引な流れだったとはいえ、彩花は玲央を慕っている。
 同意はあったも同然で、玲央が彩花に謝る必要などない。

 上手く言葉にできなかった彼女にも落ち度はあるが、それにしたって一人で自己完結して突っ走らないでほしい。
 泣きすぎた影響で、反転して若干怒りながら彩花は身支度を整える。

 パジャマのままでは出歩けないので、パジャマを乱雑に脱ぎ捨てタンスから取り出したブラジャーをつけ、すらりとした自慢の足を見せるホットパンツとタンクトップを身に着けた。

 上に一応パーカーを羽織ったのは「あまり肌を見せないでほしい」と困った顔で玲央に苦言を呈されたことがあるからだった。

 スマホと財布をポーチに投げ込み、肩から掛ける。
 前世からは考えられない活動的な格好に身を包み、勇ましく玄関に向かおうとした彩花だが、ふと目に入ったものに足を止めた。

 視界に飛び込んできたのは、大学生になったときに買い替えたシンプルな勉強用の机にちょこんと鎮座する小さな段ボールだった。

「ちょっとこれ……!」

 上ずった声をあげて思わず駆け寄って手に取る。
 案の定、中には彼女が通販で購入した大人の玩具が入っていて、思わず天を仰ぐ。

「お義兄ちゃん……」

 玲央がこれを拾い上げ、段ボールに詰めたのだと思うと羞恥心で死にたくなる。
 そういえばあの時、玄関の内側に転がっていた気がする。

 玩具の存在を気にするほどの余裕はなかったので、うろ覚えだが。
 真っ赤な顔でクローゼットの奥に玩具を片付ける。

 本当はガムテープで段ボールに封をしたかったが、自室にはおいていない。
 玲央の部屋なら先日引っ越しをしたばかりなので置いてあるかもしれないが、勝手に部屋に入るのはマナー違反だ。

 上がった体温を逃がすように深く息を吐く。
 気を取り直して玄関に向かい先日購入したお気に入りのミュールを履く。

 靴箱の上に置いている鍵を手に取って玄関を開けた彩花は、再びぎょっとする。
 なぜなら、玄関先に悠真がいたからだ。

 まだ初夏とはいえ、最近は気温も上がって六月は十分に暑い。
 いつからいるのかこめかみから汗を流しながら、悠真が小さく笑う。恐怖を感じて、一歩後ろに下がってしまう。

「彩花ちゃん、こ、こんばんは……」
「……どうしたの?」

 先ほどの一件があるので、流石に警戒してしまう。
 いつでも玄関の中に引っ込めるようにしつつ問いかけた彩花に、悠真が眉を寄せた。

 悲しそうな表情をされても、あんなことの後では心に響かない。
 野良猫のように威嚇する彩花の前で、悠真がぽりぽりと頬を掻く。

「ひとつ……忠告があって……」
「……なに?」

 玲央との関係に苦言を呈されるのだろうか。義理とはいえ兄妹なのだ、と。
 あるいは二人の関係を黙っておいてやるから代わりになにかをしろと脅迫でも受けるのだろうか。
 すっかり悠真への信頼をなくした彩花の低い声音に、彼はやっぱり困ったように笑うだけだ。

「声、抑えたほうがいいよ」
「……?」
「玄関でヤってたでしょう。前を通ったら声が聞こえたから」
「!」

 遅れて悠真の言葉の意味を理解して、彩花は顔を真っ赤に染め上げた。
 熟れた林檎より顔を赤くした彩花に、眉を寄せて悠真は「それを伝えておこうと思って」と告げる。

「え、あの、その」
「……彩花ちゃんが玲央さんを好きなのは、知ってたから」
「っ」

 悠真の前髪に隠れがちな瞳がまっすぐに彼女を見ている。いつにない真剣さを孕んだ視線が、常のように逃げることなく注がれて、肩が跳ねた。

 隠していたつもりの想いを言い当てられたこともそうだが、どこか優しさを纏った声音は、まるで彩花の想いを応援しているようだった。

「玲央さんとの関係は……その、ちょっと難しいかも、しれないけど……」

 世間的に二人は義理とはいえ兄と妹だ。お互いの想いがどうあれ、関係を公にすることは憚られる。
 彩花から視線を逸らした悠真は、悲しそうに笑った。

「勝てないって、思い知らされたから」
「……悠真くん……」

 あまりに切ない口ぶりに思わず名を呼んでしまう。彼は小さく笑った。

「まだ、僕のこと、嫌いじゃない……?」
「……正直、怖いよ」

 だってあんな風に異性に迫られたことなどなかったのだ。
 意中の相手以外の異性にあんな言葉をかけられたら、女性ならば誰しも恐怖を抱くだろう。
 素直に答えた彩花に「そうだよ、ね」と悠真が呟く。そして。

「二人のこと、応援、してるよ」

 濡れた声音でぽつりとそれだけ零して、彼は足早に立ち去って行った。唖然とする彩花を、一人残して。
 玄関先で暫く佇んでいた彩花は、遠くから家に帰る子供たちの笑い声が聞こえてきたことで我に返った。

 悠真は背を押しに来てくれたのだ。
 昔から彩花の後ろに隠れていた幼馴染の精一杯の応援に、じんわりと胸が温かくなる。

「お義兄ちゃんと、話をしなきゃ……!」

 スマホ越しではなく、直接顔を見て話をしなければならない。
 改めて決意して、彩花は小走りに駆け出した。
 腰が甘く痛んだけれど、それすら嬉しかった。
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