【完結/R18】前世で王女だった女子大生は、近衛騎士の生まれ変わりの義兄に溺愛される

久藤れい

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14話

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 契約したばかりのマンションまで息せき切って走ってきた玲央は、マンションを見上げるようにして佇んでいる細い人影に目を見開いた。

 黒い髪を後ろに流し、活動的な格好に身を包んで、前世の常識では考えられないほどにすらりと長い足を惜しげもなくさらしているのは、誰でもない彩花だった。

「あや、か……!」

 かすれた声で名を呼ぶが、足は縫い留められたように動かない。
 どの面を下げて、彼女と顔を合わせればいいのかわからなかった。

「……帰ってきたんだね」

 振り返った彩花が穏やかに微笑む。その大人の笑みに息を飲んだ。
 一体いつから彼女はこんな風に笑うようになったのか、玲央には心当たりがない。
 いつからそこに佇んでいたのか、汗ばんだ肌で彩花は恥ずかしそうに笑う。

「ごめんね、鍵を預かってないし、エントランスにいたら管理人さんに怒られちゃって。ここで待ってたの」

 冷房の効いたエントランスに長時間いたので、不審者と間違われたのだろう。
 玲央が引っ越してきたばかりで彩花との関係性が通じないのも仇であったはずだ。

「……いつから、居たんだ」

 声を絞り出す。玲央の問いかけに彩花が首を傾げた。
 さらりと長い黒髪が彼女の動きに追随するように動く。

「うーん、覚えてないかも」

 はにかんで答えられた言葉は、きっと玲央への気遣いだ。
 長時間待たせていたのだと彼が知れば、自分を責めてしまうから。
 玲央は足早に彩花に近づいて、そっと小さな手を取った。

「部屋に行こう。シャワーで身体を冷やすといい」
「ありがとう」

 にこりと彩花が笑う。その笑みにどうしようもないほどに心臓が早鐘を打つ。
 エントランスを抜け、三階の部屋の鍵を開ける。

「……驚かないで、欲しいんだ」
「なにが?」
「……見たらわかる」

 彩花の写真をいたるところに飾っているのだ、とは言えない。
 気まずくて視線を逸らした玲央に、彩花が軽やかに笑った。

「大丈夫だよ」

 そう告げて請け負った彩花に、肩の力を抜く。
 まずは浴室に彩花を案内した。脱衣所でタオルを取り出して渡す。
 着替えを、と思ったが、この家には彩花の服がない。手を止めた玲央に気づいた彩花が小さく笑った。

「服、借りていいかな?」
「あ、ああ」

 それはつまり――彼シャツ、というものでは。
 玲央と彩花は体格が違いすぎて、実家で服を貸し借りすることもなかった。

 上ずった声をあげつつも、棚から寝間着代わりのTシャツを取り出した玲央に彩花が改めて「シャワー、私が先でいいの?」と聞いてきたので、思わず苦笑を零した。

「俺は身体が丈夫だから大丈夫だ」
「私も別に貧弱じゃないよ」
「知ってる」

 唇を尖らせた彩花の頭を撫でる。艶やかな黒髪を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
 先ほどとは別の意味で火照った身体を隠すように、彩花に背を向ける。

「ゆっくりしてくれ」
「うん」

 彩花の返事を聞いて脱衣所の扉を閉める。そのまま座り込みたいのをこらえて、リビングへ。
 クーラーの冷房を強めに入れると涼しい風が吹き始めた。

 引っ越したばかりでまだまだ殺風景な部屋を冷たい空気が侵食していく。
 買ったばかりのソファに座り込むが、頭の中には『彩花がシャワーを浴びている』という事実が横たわる。

(落ち着け、いまさらだろう)

 今までにも同じ屋根の下で暮らしてきて、同じようなシチュエーションは山ほどあった。
 なのに、いまになって意識してしまうのはここが玲央の家だからだろう。

 どくどくと煩い心臓を抑える。喉が渇いたな、と気づいて立ち上がってキッチンに向かう。
 対面キッチンでグラスを取り出し、冷えた水を注いだ。

 散々酒を飲んだ後だと忘れていた。一気に飲み干すと、身体の中から冷えていくようだ。少し落ち着いた熱に、ほっと息を吐く。間違っても同じことを繰り返してはならない。

 さらに二杯冷えた水を飲み干すと、かたんと小さな音がした。廊下の扉をあけて、バスタオルを肩にかけ、長い髪から水滴を滴らせた彩花が顔を出す。

 案の定、玲央の服は彩花にはだぼだぼで大きすぎる。
 ズボンは意味をなさないだろうとそもそも渡していなかったが、Tシャツだけで太ももまで隠れている。

 それはそれとして、すべらかな足が目に入ると毒だ。
 平常心を保つために視線を逸らした玲央の前で彩花が困ったように告げた。
 視線を戻すが、やっぱり心臓に悪い光景が広がっている。

「ドライヤーの場所がわからなくって」
「ああ、乾かしてやろう」
「その前に、シャワーを浴びてきたほうがいいよ」

 気まずそうに視線を逸らした彩花がらしくなくぼそぼそと喋るので、首を傾げてしまう。

「?」
「……その、香水の匂いが、するから」

 理解していない様子の玲央をみて、意を決して告げられた言葉に息を飲んだ。
 水無瀬が纏っていた匂いが移っているのだと指摘される。顔を青ざめさせた玲央は慌てて浴室へと向かった。

「! シャワーを浴びてくる!!」
「はーい」

 ばたばたと脱衣所に駆け込んだ玲央の背に間延びした声がかけられる。
 扉をいささか乱暴に閉めて、急いで服を脱ぐ。まとめて洗濯機に突っ込むとそのまま洗濯を開始した。

 バスタオルは後ほど彩花のものとまとめて洗えばいい。二度手間にはなるが、いまは一刻も早く他の女の痕跡を消すのが優先事項だ。

 浴室に入ると、彩花が使った後なので当たり前だがしっとりと濡れている。それすら興奮材料になってしまって、ゆるく質がった自身にため息を吐く。

(……一度抜いておくか)

 これ以上彩花で欲情しないために、処理しておいた方がいい。そっと右手を当て擦り上げる。

「ん」

 くぐもった声をあげる。リビングには彩花がいるので、声を抑えながら玲央は固さを持った息子を慰める。

「んん……」

 脳裏に思い描くのは、玄関で後ろから犯した時の彩花の姿。綺麗な黒髪を振り乱しながら、淫らによがった美しい身体。

 細くて柔らかくて、吸い付くような肌を思い起こし、さらには自身で貫いた時の嬌声を思い出す。
 一気に固くそそり立ったそれは欲望に忠実すぎた。内心で苦笑しつつ熱をどんどん高めてく。

「ぐ、う」

 玲央は決して早漏ではない。それでも彩花のあの姿を思い起こせば我慢などできなかった。
 手早く出してしまった方がいいこともあり、熱を解き放つ。

「っぐ」

 白濁を手の中に放った玲央は、少しの脱力感と共にそれをシャワーで流した。
 冷たい水を頭からかぶって、少しでも冷静になろうと努める。

(……一度では物足りないが、これ以上時間をかければ不審がられる)

 油断すればまた反り立ってしまいそうな自分自身にため息を吐きながら、玲央は暫く頭から冷水シャワーを浴び続けた。





 どうにか熱を発散し、バスタオルで身体を拭う。髪が短いとこういう時に便利だ。
 少し水っぽい髪をかるくバスタオルでかき混ぜて、玲央は下着とジーパンとシャツを身に着けた。

 寝るときはもっとラフな格好をするのだが、万が一中央が熱を持った時に少しでも誤魔化せた方がいいと考えたのだ。

 そうしてリビングに戻ると、なぜか彩花はソファの下で膝を抱えていた。
 ソファに座ればいいのに、と玲央が不思議に思って首を傾げると、顔を真っ赤に染めて彩花が振り返る。耳まで赤く染めた彩花の様子に嫌か予感がした。

「お、おふろ! 終わったんだね……!」
「っ」

 彩花の裏返った声音に、察するしかなかった。
 これは、間違いなく。

 ――バレている。
 目の前が真っ暗になる感覚に玲央はくらりと身体を傾がせる。

「大丈夫?!」
「だ、大丈夫だ」

 心優しい彩花の心配の声を押しとどめて、ふらふらとキッチンに向かう。
 グラスを取り出して、作っておいた氷と買い置きのオレンジジュースを注いだ。

 子供っぽいからか本人は認めたがらないが、オレンジジュースは彩花の好きな飲み物だ。
 コーヒーや紅茶より、果実水を好むのは前世の影響かもしれない。

「……どうぞ」
「あ、ありがとう」

 キッチンに戻って差し出すと、彩花がそろそろと手を伸ばして受け取る。
 だぼだぼのシャツの合間から覗く白い腕から極力視線を逸らしつつ、玲央は「それで」と口を開いた。

「どうしたんだ、こんな時間に」

 逃げるように問いかけを投げると、こくんと一口オレンジジュースを飲んだ彩花はそっとグラスをローテーブルに置いて玲央を見上げた。

「話があるの」
「話……?」

 今後、実家には近寄るな。そんな話だろうか。
 ぼんやりとおうむ返しに問うた玲央のまえで、真面目な表情氏をして、彩花が口を開く。

「私ね、お義兄ちゃん――ううん、玲央が、好き」

 考えてもいなかったその言葉に、大きく目を見開いた。





 真っ直ぐに目を見て告げられた言葉に、動揺が隠せない。
 雰囲気的に罵られることはないかもしれないとは思っていたが、愛の告白を受けるとは考えていなかった。

 玲央が返事を返せずにいると、彩花が微笑む。優しく甘やかな女の笑み。
 子供では到底浮かべられない慈愛の表情をして、玲央にとってさらに意外なことを口にした。

「ずっとずっと前から、うーんと前から、好きだったの」

 真摯に紡がれる愛の言葉に、玲央はぽろりと口を滑らせた。

「前世から……?」
「え?」
「前世、から。好きだった、のか……?」

 震える声で、記憶の有無を問いかける。彩花の口ぶりでは、まるで前世の記憶があるかのようだ。
 玲央の問いに、彩花は笑み崩れた。
 その表情は、前世でアリエットが慰問に訪れた孤児院の子供たちを見る眼差しによく似ていて。

「前世から、好きだったよ」

 肯定の言葉に、反射的に玲央はその場に膝をついて頭を垂れた。もう二十五年もとっていない、騎士の礼。
 王族に対する最敬礼をする玲央を驚くことなく彩花は穏やかに見つめている。

「アリエット様――!!」
「顔をあげて、ロジェ」

 立ち上がった彩花の小さな足が視界に入り込み、そうっと彩花の白くて細い指先が頬に触れる。
 丁寧に手入れをされた手に、たまらず玲央は顔をあげた。

 彼の視線の先で慈愛の表情を浮かべて、彩花が微笑んでいる。
 アリエットの面影をそっくり残すその仕草に、自然と玲央の口が開く。

「私も、私も……っ! ずっとお慕いしておりました――!!」

 一人称さえ変えて。前世と同じ騎士として膝をつき続ける。
 慟哭のように愛を口にした玲央に、彩花が答える。

「わたくしもよ、わたくしだけの騎士」

 膝をついた彩花から、触れるだけの優しいキスが額に落とされた。
 たまらず手を伸ばした玲央の指先に彩花の手が触れる。

 両手を絡め合うと徐々に顔が近づいてくる。膝を曲げてくれた彩花を掻き抱くようにして吐息さえ奪うようなキスをした。背中と頭の後ろに手を回して、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「ん、ふ」

 薄く開かれた唇を割って舌をすべりこませる。
 反射的に逃げてしまったらしい彩花の舌を追いかけ、絡め、唾液を吸い取る。
 恐る恐る答えてくれた彩花の舌の動きに歓喜し、玲央は我慢できずにさらに夢中になって彩花を貪った。

「んん」

 息が苦しくなったのだろう。そっと胸元を押されて、名残惜しく思いながら顔を離す。二人の間を銀糸が伝って、玲央は笑み崩れた。

「……いいですか?」

 許可をもめる玲央の言葉に彩花が眉尻を下げる。
 彼女はそっと玲央の腕の中で肩口に顔を預け、拗ねたように言った。

「警護、いや。もう主従じゃないもの」

 可愛らしい文句に笑みが深くなる。名残惜しいがいったん体を離すと、縋るような視線が向けられた。
 安心させるように微笑み、立ち上がった玲央は彩花の手を引く。
 そのまま横抱きに抱き上げると「きゃ」と小さな声をあげて彩花が玲央の首に手を増した。

「では、言葉に甘えて。彩花、ベッドに行こう」
「……うん」

 こくんと愛らしい仕草で頷いた彩花に優しく微笑んで、玲央は隣室へと向かった。
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