【完結/R18】公爵の旦那様の後妻に収まったら、とんでもない隠れ絶倫でした!!

久藤れい

文字の大きさ
5 / 24

5話

「伯爵家出身の貴方が、どうしてアルベール様の後妻に収まったのかしら。とっても不思議だわ」

(その疑問は私が一番抱いているのよね)

 リンダの問いに対する答えをエルミールは持ち合わせていない。彼女自身がアルベールに愛されている明確な理由を知らないためだ。

 とはいえ、そんなことを口にすればさらに舐められる。
 エルミールはにっこりと鉄壁の令嬢スマイルを浮かべて適当にリンダをあしらうことにした。

「さあ、どうしてでしょうね。アルベール様には大変良くしていただいているので、きっと心を射止める何かをしたのでしょう」

 その『なにか』に欠片も心当たりはないのだがそれは言わなくていいことだ。
 いずれアルベールから理由を聞きたいとは思っているが、それらは口にしなくてもいい。

 いま必要なのは、エルミールがアルベールから大切にされているということを強調することである。

 にこにこと微笑んで告げた彼女の言葉にリンダが悔しげに眉を顰める。

(公爵夫人の座に収まれなくて悔しいのはわかるけれど、八つ当たりをされても困るわ)

 別に略奪婚をしたわけではないのだ。アルベールから打診を受けて、それに応じただけ。正規の手続きを経て公爵夫人となったのだから、後ろ暗いところなど一つもない。

 とはいえ、火のないところに煙を立てるのが貴族社会でもある。
 事実無根の噂を立てられる前に、凛としておかなければならない。

 しかし、事実を告げたエルミールの言葉はリンダの勘に触ったらしい。
 再び上から下まで値踏みをするように見つめられ、またも鼻で笑われる。

「アクセサリーはまだしも、黒いドレスだなんて。『黒猫令嬢』の自覚が出たのかしら? アルベール様を不幸にする前に、身を引いた方がいいのではなくて?」

(そのアルベール様の髪の色なんですけれど)

 確かに黒いドレスを選ぶ際に、社交界でのあだ名が脳裏をよぎらなかったわけではない。

 だが、楽しそうに布を選び「よく似合っている」と言ってくれたアルベールの言葉をこそ尊重したかったのだ。

 フランシスだって「お義母様に黒はよく映えますね」といってくれていたのだから、決して可笑しくはないと思うのだが。

「それにしても地味なドレスだこと」

 エルミールが身に纏っているドレスは、彼女の豊かな身体を少しばかり強調するようなものだ。
 大人びたデザインとあわせて、年齢が上に見えるようになっている。

 でもそれは、年上であるアルベールの隣に並んでも可笑しくないように、という彼女なりの配慮でもあるのだ。
 他人であるリンダにどうこう言われる筋合いはない。

 にこにこと微笑みながらもさてなんと言い返したものか、と思案していると背後から声がかかる。

「お義母様、こちらにいらしたのですね」
「フランシス様」

 礼装を身に纏ったフランシスがにこやかに笑いながらエルミールを見つめている。
 どろりと甘い視線を注がれると、まだ少しだけ身構えてしまう。だが、そんな感情はおくびにもだすことなく、エルミールも穏やかな笑みを浮かべた。

 彼女の隣に並んだフランシスが腰に手を回してくる。
 夫婦や婚約者のような距離の近さ。手つきにいやらしさはないが、あまりに身体が密着してどきりと心臓が跳ねる。

 ただでさえフランシスは整った面立ちをした美丈夫なのだ。その上、熱の籠った視線を注がれると嫌でも心臓が早鐘を打ってしまう。

(私はアルベール様の妻なのよ……!)

 うるさくなった心臓を抑えるために必死に自分に言い聞かせる。同い年とはいえ、義息子を意識しているなんて知られては困る。

 これまた鉄壁の令嬢スマイルを浮かべてエルミールはあえていつもよりゆっくりと言葉を紡ぐ。
 油断すると早口になってしまいそうだった。

「フランシス様、どうされたのですか?」
「お義母様の晴れ姿を見ようと探していたのです。父上はどちらに?」
「飲み物を取りに行かれたの」
「そうなのですね。では、父上が戻られるまで私がエスコートしましょう」

 穏やかに微笑みながら言われると、嫌だともいえない。ふんわりと笑ってごまかしたエルミールは、刺すような視線を感じていた。

 リンダである。彼女以外にも周囲の人々が注目しているのがわかる。
 公爵令息であるフランシスはさすがに慣れているようだが、伯爵令嬢としてそこまで注目されない人生を歩んできたエルミールは少し負担に感じてしまう。

 完全に蚊帳の外だったリンダに、ふいにフランシスが視線を向けた。そうして一言。

「ああ、いらしたのですか」

 まるで興味がないといわんばかりに言い放たれた言葉に、リンダが唇を噛みしめる。
 いままで視界に入っていなかったはずがないのに、眼中にないとあからさまに告げる言葉に、リンダの頬に朱が上った。

 ドレスの裾を持ち上げ、軽く頭を下げられる。最低限の礼儀としてカーテシーをしてリンダが背を向けて去って行った。

「お義母様、あまり油断されないでください。貴女はいま公爵夫人なのです」
「ごめんなさい。迷惑をかけたわ」
「気にされる必要はありません」

 窘める言葉にそっと視線を伏せる。腰に当てられた手に力がこもったのが分かった。案じてくれているのだろうと思いつつ、さすがに距離が近すぎることを指摘するべきか迷う。

「フランシス様、もう大丈夫です」
「そうですか?」

 一言告げると、するりと密着していた身体が離れていく。
 正面に立ったフランシスは悪戯気に笑った。十八歳という年齢より僅かに幼く見える無邪気な笑み。

「父上とダンスを踊った後、私とも一曲踊ってくださいませんか?」
「ええと」

 夜会で異性とダンスを踊ることは間々あったが、義息子相手だとどうするべきか。
 判断に困って視線を彷徨わせると、人ごみをかき分けてアルベールが戻ってきた。

「アルベール様!」
「すまない、待たせてしまった。……なにかあったのか?」

 自然と声音が弾む。アルベールから手渡されたワインは深い色合いをしていた。お酒は成人後何度か口にしたが、口に合うものとあわないもので綺麗に分かれてしまった。
 このワインはどちらだろうと考えている間に、頭上で会話が交わされている。

「父上、あまりお義母様をお一人にしないほうがいいかと」
「らしいな」

 周囲にアルベールが視線を走らせたのと同時に、先ほどまでの肌を刺すような注目が散っていく。

 少しだけ安心して、エルミールは渡されたグラスに口をつけた。
 深い味わいのワインを一口口に含んで嚥下する。
 のど越しが滑らかで味わいも深みがあって美味しい、そう思った瞬間。

「あ、ら」

 エルミールの身体がぐらりと傾ぐ。一気に身体が火照って立っていられなかったのだ。
 可笑しい、彼女はそこまで酒に弱くない。たった一口で泥酔した経験などない。

 ふらつきしゃがみ込んだエルミールの手からフランシスが零しかけていたグラスをとった。
 身体をアルベールに支えられ、熱っぽい息を吐く。

「エルミール?!」
「こ、れは……」

 喉の奥から火でも吹きそうだ。体中が火照って熱を持っている。特にアルベールに触れられている箇所が、燃えるように熱い。
 くらくらと熱に浮かされている頭で、必死にアルベールに異常を訴えた。

「ひかえ、しつへ……! だ、め、です……っ」

 エルミールの公爵夫人としてお披露目の夜会で、失態をさらすわけにはいかない。
 懸命の訴えにアルベールは即座に彼女を抱き上げた。

「フランシス、後は任せる」
「はい、父上」

 逞しい腕の中は安心する。くたりと身体を預けたエルミールを抱いたまま、アルベールが会場を後にした。

 ざわつくその場をフランシスがとりなす声をどこか遠くに聞きながら、熱い吐息を吐き出す。
 アルベールが剣呑な雰囲気を纏っているが、どうしてなのか思考が回らない。

 足音高く会場を出たアルベールが控室に着いたらしい。そっとソファに降ろされて、熱に潤んだ瞳で彼を見上げる。

 いつも以上に魅力的に見える精悍な面差しには隠せない剣が宿っている。
 違和感には気づいても、気遣う余裕など今のエルミールにはない。

「ある、べーるさま……」

 ただ身体を侵す熱を発散するには、彼に頼るしかないのだと本能が告げていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。