【完結/R18】ヤンデレ絶倫王太子に身も心も溶かされています

久藤れい

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2話

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 焦げ茶色の髪を短く刈り込んだ青年が、慌てた様子でルーチェの名を呼ぶ。
 彼女はするりとオスクロの腕から抜け出してサンドルに駆け寄った。

「ルーチェ!!」
「サンドル、ありがとう」

 大の男を殴り飛ばすだけあって、サンドルはいい体格をしている。
 他の男二人が怯んだのを見て取って、彼が凄む。

「さっさと出ていけ!」

 大柄な彼に睨まれると、女性であるルーチェと細身のオスクロには絡めた男たちも気圧されたようだった。
 ぼそぼそと会話を交わして、伸びた男を引きずって去って行く。

「あ、お金!」

 食い逃げだわ、と慌てるルーチェにサンドルが「取り立ててくる!」と急いで出ていった。
 ぽつんとオスクロと二人で残されて、彼女はやっとオスクロに振り返り、はにかんだように笑う。

「すみません、いつもならオーナーが対応してくれるんですけど」

 筋骨隆々なオーナーは大抵の不埒者を黙らせることができる。
 酒を飲んでいる男たちを置いて買い出しに行くときも「もし何かあれば大声をあげるのよ」と何度も念を押されていた。
 頬を掻いた彼女に、オスクロは「大丈夫だ」と首を横に振る。

「ところで、彼が例の?」
「オスクロさんは会ったことありませんでしたね。幼馴染です」

 にこりと微笑んだ彼女の前で、オスクロの眼差しが曇る。
 ルーチェは気づくことなくにこにこと笑って続ける。

「大工をしているんです。幼い頃から力持ちで、頼りになる人で」
「……そういう人が好みか」
「え?」
「いや、なんでもない」

 ぽつりと零された言葉は小さすぎて耳に届かなかった。
 首を傾げたルーチェの前でふるりとオスクロが頭を横に振る。
 美しい黒髪がさらりと揺れて、青い瞳が憂うように伏せられる。

「……すまない、今日は帰ろうと思う」
「こちらこそすみません」

 あの騒ぎの後では食欲が失せても仕方ない。
 オスクロが差し出した銅貨を笑って断る。

「お代はいりません。そもそも、お代を貰うものをだしてませんから」
「そうか」
「はい」

 料理の提供もしていないし、オーナーが不在なのでそもそも作り出してすらいない。
 金銭的な対価は受け取れないと微笑んだルーチェにオスクロは一つ頷いて身を翻した。

「あらぁ、オスクロくん帰っちゃうの?」
「はい、今日はお暇します」
「またきてね~」

 入れ替わりで戻ってきたオーナーがいつもの調子で声をかける。
 けれど、それに対する返事もどこか落ち込んでいるようで少しだけルーチェは心配だった。



 * * *



 サンドルが取り立ててきたお金をオーナーに渡すと、騒ぎを知ったオーナーは「ごめんなさいねぇ。今日は変わりに早くあがっていいわよん」と言ってくれた。

 ありがたく言葉に甘えてルーチェはサンドルと共に夕暮れの街並みを歩く。
 途中の露店で夕食に使う食材を購入するとサンドルが受け取って持ってくれた。

 せっかくサンドルがいるのだからと、茶色の紙袋いっぱいに食材を購入して持ってもらう。
 暫く並んで歩いていると、ぽつりとサンドルが口を開く。

「……今日、店にいたやつはだれだ?」
「オスクロさんのこと?」
「貴族だろ、あいつ」

 表情を歪ませたサンドルにルーチェは苦笑を零す。
 貴族にいい感情を抱かないのは、庶民としてありふれた感情だ。

 特権階級の貴族たちは往々にして横柄で、庶民を人とみなさないことも多い。
 けれど、オスクロは違う。
 少なくともルーチェの前ではそういったそぶりは見せたことがない。

「オスクロさんはいい人よ。他の貴族とは違うわ」
「お前はあいつの肩を持つのか?」

 静かに太陽を溶かしたような黄金色の瞳がルーチェを見つめる。
 彼女はそっとサンドルの片手をとって笑う。

「彼は今日も私を守ってくれたのよ」
「それも気に食わない」
「?」

 路地を一本入って曲がりしばらく歩くと自宅の前に着く。
 少し古ぼけた家が二軒、寄り添うようにして建っている。
 ルーチェとオスクロの自宅だ。

 幼い頃は二人とも両親が健在だったが、数年前の流行り病で四人とも死んでしまった。
 子供二人だけ残されて、お互いを支え合いながら生きてきた。

 年季の入った少しガタつく自宅の玄関を開けて、サンドルから食材を受け取る。
 指先がかすめるように触れた。

「――結婚しよう」
「え?」

 唐突に言われた言葉が、すぐに呑み込めなかった。
 ぱち、と瞬きをしたルーチェにサンドルが顔を真っ赤に染めあげてさらに言葉を重ねる。

「俺がルーチェを養う! 今日みたいな目にも合わせない!! 俺が守る、からっ」

 だから、と続けられる。サンドルの大きな手がルーチェの小さな手を掴んだ。
 茶袋に入った食材がどさりと地面に落ちて、ころころと中身が転がっていく。

「俺と、結婚しよう……!」

 真っ赤に熟れた林檎より顔を赤く染めてのプロポーズに、ルーチェの目じりに涙が浮かぶ。
 じっと見つめる黄金の瞳の前で、彼女はくしゃりと泣き顔で笑った。

「ええ、喜んで!」

 幼馴染として長い間傍にいて、その間ずっとサンドルが好きだった。
 彼の傍は世界一安心できて、誰の隣より心地よかった。

 一生を共にしたいと願った回数は計り知れない。
 告白してくれたらいいのにな、なんてベッドで寝る前に夢想することも多かった。

 ようやく待ち望んだ言葉を告げられて、ルーチェは喜んでイエスと答える。
 サンドルの腕の中に飛び込むと、逞しい筋肉が彼女を受け入れた。

 ぎゅうっと痛いほどに抱きしめられる。
 それが何よりの幸福で――世界で一番幸せだと噛みしめながら、彼女は笑み崩れた。




 そんな二人の様子を物陰からじっと見つめる視線に、気づかないまま。
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