【完結/R18】ヤンデレ絶倫王太子に身も心も溶かされています

久藤れい

文字の大きさ
9 / 19

9話

しおりを挟む
 それはきっと、一目惚れだったのだ。

 王太子として相応しくあるために、幼い頃から勉強漬けだった。
 帝王学をはじめとする勉学は、寝る時間を削って教えられ続けた。

 毎日が寝不足で、けれど睡眠時間が足りないなんて弱音を口にすれば叱られた。
 ぼんやりと回らない頭で座学も武道もこなした。剣術の稽古中に足元がふらつくことも多かった。

 虐待のような勉強漬けの毎日を送っていた理由は、彼の存在を好ましく思わない王妃のせいであった。
 オスクロは今は亡き側室が生んだ子供だったのだ。彼の母は踊り子だった。
 国王が手籠めにして、そうして生まれた子供がオスクロだ。

 半分は高貴な血を引かず、下民の血が流れている。それを理由に王妃はそれはもうオスクロを嫌った。
 だが、その正妃である王妃は流産をした後、子を孕めなくなった。よって、この国の跡取りはオスクロしかいなかったが、王妃はそれが大層気に入らなかったのだ。

 二十三歳の誕生日を目前に控えたある日、王妃が亡くなった。
 病によって寝ている間に心臓が止まったのだという。朝、冷たくなった王妃が発見され、城は上から下への大騒ぎだった。

 オスクロは、悲しくも寂しくもなかった。ただ、ほっとした。
 これで少しはまともに息ができる環境になるかもしれないと思ったからだ。

 国を挙げて王妃の国葬が行われた。その一週間後、彼は生まれて初めて城下町に足を延ばした。
 今まで王妃からオスクロを庇ってくれていた宰相が「気分転換を兼ねて、民の暮らしをご覧になられては」と提案してくれたからだ。
 街人に紛れるお忍びの格好をして、生まれて初めて城の外に出た。

 そこで、ルーチェに出会った。

 その時、オスクロは露店を眺めていた。店先に並ぶみずみずしい林檎を一つ手に取って、美味しそうだとかじりついた。

 産まれた時から王族であった彼は、街での買い物では対価に金を払わなければならない、という常識が抜け落ちていたのだ。

 金銭は宰相に渡されて持っていたが、先に渡すのを忘れていた。当然、店主は怒ってオスクロを糾弾した。
 物陰から見守っていた騎士たちが駆け付けるより早く、店主とオスクロの間に割って入ったのがルーチェだったのだ。

『そんなに怒らないで。お代は私が払うから』

 にこにこと人好きのする笑顔を浮かべて、ルーチェがそう言って銅貨を三枚店主に渡しすと、店主はころりと機嫌をよくした。

 そのときルーチェが渡した金額が、林檎を五つ買ってもおつりがくる金額だと、その時のオスクロは知らなかった。
 そして同時に、彼女にとっては貴重なお金であるという実感もなかった。

『さあ、行きましょう』

 店主の機嫌の変わりようにぽかんとしているオスクロの手を引いて、ルーチェが店先から離れた。
 暫く歩いた先で、彼女はくるりと振り返って困ったように笑ったのだ。

『貴方、貴族の方でしょう? 好奇心旺盛なのはいいけれど、街には気が短い人もいるから、気を付けて』

 助けた恩を着せる様子もなく、さらりと言われた言葉につい素直に頷いた。
 オスクロの反応ににこりと彼女は笑って『じゃあ、お気をつけて』といって去って行ったのだ。

 宰相以外に優しくされたのは初めてだった。
 宰相は常に厳しい面立ちをしているので、裏表のない笑顔を向けられたのは、本当にいつぶりかわからない。

 その瞬間、恋に落ちた。

 後から駆け付けた騎士たちに彼女の跡をつけさせた。
 一軒の家と、彼女の仕事先を割り出して、以来、オスクロはルーチェに会いたい一心で、城を抜け出しては食堂の常連となったのだ。

 知らなかったことをたくさん知った。未知のことを知るのは楽しかった。

 毒を盛られる心配のない、温かな料理。
 毒見が食べた後の冷たい料理しか知らないオスクロにはそれだけで新鮮だった。

 彼が街で食事を食べることに、側近たちは難色を示したけれど、宰相が諫めてくれた。
 食堂で食べる大衆料理はどれも大雑把な味付けだったが、それがなにより口に合った。
 オスクロは生まれて初めて食事を美味しいと感じられるようになったのだ。

 太陽のような笑顔を見せるルーチェにはすぐに虜になった。
 明るい笑顔で、誰でも分け隔てなく接する彼女に惹かれていった。

 オスクロの身分を貴族だと勘違いしていながら、ルーチェの接客は他の客たちと変わらなかった。
 初めて食べる民衆の料理に戸惑えば、彼女は明るく食べ方を説明してくれた。

 時々、ルーチェはオーナーのリクエストで歌を披露した。そのたびに、その歌声に拍手した。
 食堂で同じ時間を過ごせば過ごすほどに、ますます彼女に魅了されていった。

 ルーチェとオスクロの間には、どうしようもない身分の差があったから、叶わない恋だと最初から知っていた。
 無理に迎え入れることもできただろうが、側室だった母のことを思えばそんな気は起きなかった。
 そのはず、だったのに。

(サンドル、あの男だけは駄目だ……!)

 ぐしゃりとサンドルに関する調査報告書を執務室で握りつぶしたあの日、オスクロは心を決めたのだ。
 ルーチェを守るためなら、例え彼女自身に嫌われてでも手段を選ばない、と。

 無理やり攫って手籠めにした。
 王太子の寵姫という身分を与えて城の奥に囲ったのは、独占欲と同じくらい彼女を守るためだった。

 子を孕めば、ルーチェの身は守られる。その子が男児ならばなおいい。
 庶民の血が混ざることを貴族は嫌うだろうが、オスクロが他に妻を迎えなければ、ルーチェの身分と子供の地位は守られる。

 今まで散々、王妃の影響で女性を遠ざけられてきた。
 婚約者はいたが、彼女自身の横柄な振る舞いに辟易としていたから、婚約破棄を告げた矢先だ。

 今後、無理な縁談が組まれる心配はない。
 なにより、気を失ってなお犯され続けるルーチェの噂が立てば、自身の娘を、などと言い出す酔狂な貴族も減るだろう。

 子供のころからの付き合いの宰相には、再三窘められていたが、今更彼女を手放す選択などできるはずがない。
 早く子を孕めばいいのだ。身重の身体ではますます逃げられなくなるから。

「……ルーチェ」

 もう君を、手放すことは出来ない。
 今日もまた気を失った細い身体を抱きしめて、オスクロはうっそりと笑う。



 そんな彼らを、たった一人心配そうに見つめる男がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】男装の側近 〜双子の妹は腹黒王子の溺愛からは逃げられない〜

恋せよ恋
恋愛
「お前、なんだか......女っぽいよな?」 病弱な兄の身代わりで、男装し学園に入学したレオーネ。 完璧で美麗な騎士「レオン」として、 冷徹な第二王子・マクシミリアンの側近となったが…… 実は殿下には、初日から正体がバレていた!? 「俺を守って死ぬと言ったな。ならば一生、俺の隣で飼い殺されろ」 戦場では背中を預け合い、寝室では甘く追い詰められる。 正体がバレたら即破滅の「替え玉側近ライフ」は、 王子の執着全開な溺愛ルートへと強制突入する――! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...