【完結/R18】ヤンデレ絶倫王太子に身も心も溶かされています

久藤れい

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16話

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「ん、んん……」

 小さな声が耳朶に届いて、最愛の人の目覚めを教えてくる。
 隣室する浴室でシャワーを浴びたオスクロはゆっくりと着替えていたところだった。

「起きたのかい、ルーチェ」
「……ん、はい」

 とろんとした声音で答えが返る。くすくすと笑みをこぼしながらオスクロはベッドに近づいた。
 身体が怠いのだろう。寝ころんだままぼんやりと彼を見上げるアメジストの瞳に微笑みかける。

 王太子であるオスクロに対して、こんな態度が許されるのは世界広しと言えどルーチェだけだ。
 伸びてしまった前髪をかきあげてキスを落とす。

 ルーチェの気持ちも安定しているようだから、今度美容師を連れてこようと決める。
 刃物を彼女の視界に入る場所に置くのが恐ろしくて髪を整えてやることもできなかったが、今なら大丈夫だろう。

「ん」

 甘い声でくすぐったそうに身を捩った白い体には無数の赤い華が咲いている。
 オスクロが愛した証だが、目に毒でもあった。
 足元でぐしゃぐしゃになっているシーツを身体にかけてやり、笑いかける。

「少し待っていてくれ。後始末をしてくる」
「うん」

 まだまだ眠いのだろう。
 幼い仕草で頷いたルーチェの頭を撫でてやって、オスクロは『後始末』のために部屋を後にした。



 * * *



 慣れてしまった冷たい石造りの牢の中を歩く。
 サンドルは罰を与えるために移送されたが、代わりに牢に入る者に用があるのだ。

 かつん、と硬質な音を立てて今までサンドルが捕らえられていた一番奥の牢の間に立つ。
 そこは国家反逆罪などを犯した重罪人が入る牢だ。ここに捕らわれている者は、それだけの罪を犯した。

「ベアトリス・モンクティエ。少しは反省したか?」
「お、おゆるし、ください……!!」

 オスクロが絶対零度の眼差しを向ける先には、モンクティエ公爵令嬢であるベアトリスが見るも無残な姿で鎖に繋がれていた。

 元は華やかであったドレスはずたずたに裂かれ、除く肌は鞭打たれて赤く腫れあがっている。
 煌びやかな雰囲気を纏う公爵令嬢であった面影など見る影もなく顔を赤く泣きはらしたベアトリスに、オスクロや冷ややかに笑う。

「ルーチェが私から逃げるように仕向ければ、寵愛が己に向くなどと、勘違いも甚だしい」

 オスクロとルーチェの世話係のメイドしか鍵を持たない部屋の扉が開いていていた。
 ベアトリスが権力と財力でメイドを丸め込んだのだ。
 すでに鍵を流したメイドの首は飛んでいるが、その程度でオスクロの怒りは収まらない。

「おゆるし、おゆるしください、オスクロ様……!!」
「その上、汚らわしい男どもを仕向けるなど。度し難い」

 ルーチェに嫉妬するだけならばいい。
 それまでの積み重ねがあったとはいえ、直接的な婚約破棄のきっかけは確かに彼女だったからだ。

 しかし、ベアトリスは超えてはならない一線を超えた。
 ルーチェを外に出したばかりか、あまつさえ騎士の中でも素行不良の者たちを誘導し、襲わせようとした。
 百篇殺しても殺したりない罪過だ。

「おゆるしください!!」

 壊れたように同じことばかりを繰り返す引きつった声が耳障りで仕方ない。
 ふんと一つ鼻を鳴らして、少し前に決定した罪状を口にする。

「ベアトリス、貴様には労働を命ずる」
「ろう、どう……?」

 口元を吊り上げる。
 悪魔の笑み、とベアトリスが思わず呟くような酷い笑みを浮かべて、オスクロは楽しげに告げた。

「奉仕だ。貴様のような女には似合いのな」
「……っ!!」

 一泊遅れてベアトリスはオスクロの言う『奉仕』の意味を理解したらしい。
 ざっと表情を青ざめさせた彼女に、オスクロは笑う。

「よかったな、それがしたかったんだろう? たくさん子を孕むといい」
「それだけは!! おゆるしください!!」

 金切り声で絶叫をあげたベアトリスに背を向ける。
 ガチャガチャと煩く鎖を鳴らす彼女に、すでに興味もなければ用もない。
 仮にも一時は婚約者であったからと、最後に罰を伝えに来ただけだ。

「おゆるしください!! オスクロ様!!」

 泣き叫びながら追いかけてくる声に返事を返すことなく、オスクロは鼻歌すら歌いながら機嫌よく地下牢から立ち去った。





(彼女は女神だ)

 脳裏に眩い金髪を翻す少女を思い浮かべると、オスクロの口角は意図せず下がってしまう。

(ルーチェに出会ってから、全てが変わった)

 彩のない世界に色が出来た。人を愛することを知ったし、身体を繋げる喜びを知った。
 ルーチェと出会う前のオスクロにとって、子作りはただの義務だった。
 性欲だけは強かったが、見知らぬ女で処理することもできず自分の右手ばかりが相棒だった。

 いずれ、オスクロを蔑むベアトリスとの間に責務として子を作らねばならない事実は、重く肩にのしかかっっていた。 
 何度もため息を吐いたし、逃げたいと思った。
 だが、王族であり王太子であるオスクロはその重責から逃れられない。そう、諦めていた。

「ルーチェ」

 そっとその名を呼ぶ。明るい笑顔で彼を虜にした、一人の街娘。
 愛おしくて、大切で、愛していて、だから壊してしまわないように細心の注意を払っている。

 逃げ出したと聞いた時は腹が立つまえに心配した。
 彼女はあまりに可憐だから、他の男の目につけば壊されてしまうと思った。だからすぐに駆け付けた。

 案の定、男たちに囲まれていたルーチェを助け出せば、彼女はそれまでの態度が嘘のように大人しくなった。
 オスクロを従順に受け入れ、喜んだ。

 ああ、もっと早くこうしていればよかった。
 そんな風にすら思ってしまうほど、彼女の変化は劇的だった。

(感謝しているよ、ベアトリス)

 そう、感謝している。
 だから、殺さない方法を選んだ。子が欲しくて仕方ないといった風情だったので、子を孕める機会を与えた。

 オスクロにとって、ベアトリスへ突き付けた地獄は恩情だったのだ。
 彼女のおかげでオスクロとルーチェは真に心を通わせることができた。
 だから、罪と同じくらい褒めるつもりで罰を与えた。

(私はきっと、歪んでいるのだろう)

 自覚はある。だが、矯正などもはや手遅れだ。そっと顔に手を伸ばす。
 歪んだ口元を意識しながら、彼はうっそりと嗤う。

「今日のルーチェはどんなふうに啼いてくれるかな」

 先ほど起きたばかりだから、まずは食事を食べさせよう。そしたらまた二人ベッドで行為に耽るのだ。
 ああ、毎日が楽しくて楽しくてたまらない。
 ルーチェを愛してからの日々は、色彩に満ちている。





「私からルーチェを奪うものは、女神だろうと許さない」

 人を寄せ付けない塔の中で、彼の冷え切った声音が空気に溶けて消えた。
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