異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

文字の大きさ
14 / 66

14.国王宣誓書に施された魔法

しおりを挟む
 
「君は僕のお嫁さんだから、もしそうなっても大丈夫だよ」

 そう言ってウィルフレードは事も無げに笑うから、リラジェンマは逆に困ってしまう。

(そんな簡単なことなの?)

「ちなみに、だけどね。僕が次のページの国王の欄に名前を書いても弾かれてしまうんだ。見てみる?」

 ウィルフレードはそう言いながらリラジェンマの手から羽ペンを取り上げる。そしてあっさり次ページを捲り、国王の欄に己の名前を記名した。
 理屈でいえば、次ページは第十七代目グランデヌエベ国王が宣誓式のときに署名するための物であり、そのとき国王として名を連ねるのは間違いなく現王太子ウィルフレードである。
 だから、このページはウィルフレードのために出現した用紙であり、ウィルフレードの物だ。
 だがしかし。
 リラジェンマが見ている目の前で、彼が書いたその名前は薄くなりすーーーっと消えてしまった。あとにキラキラとした陽炎のような光が淡く立ち上った。それは虹色に光を放ちながらあっさりと消えていった。

「ね。凄いよね? 正式な儀式後に書いたら別なのだろうけど、今はまだ認められないってことだろうね」

 ちょっと弾んだ声と良い笑顔でウィルフレードが言う。自分の名前が否定されたのに実に嬉しそうである。

(凄い。まるで紙面が意思を持っているみたいに見えたわ)

 リラジェンマが生まれ育ったウナグロッサ王国の王宮には、帝国時代の名残りである魔法の護符の陣が成されていると言われていた。だがそこで生活している間、『魔法』を感じたことはなかった。王宮全体に施されていたせいで、目に視えるものではなかったからであろう。
 だから、いま初めてまともに『魔法』と呼ばれる帝国時代の遺産を目の当たりにした。感動もする。
 しかし。

「ウィル! あなた大人になってまでこんなイタズラして、いいと思っているの⁈」

「うん」

 悪びれもせず頷くさまは、いっそ天晴あっぱれだ。軽く眩暈めまいを覚えるリラジェンマのほうが、さも間違っていると言わんばかりである。
 とはいえ。
 さきほど、キラキラと光りながら消えていったあの魔法の名残をもう一度見てみたいのも事実であった。
 いい笑顔で羽ペンを差し出すウィルフレードに苦笑しつつ、それを受け取ったのは間違いなくリラジェンマの意思。

 逡巡はほんの少しの間だけ。
 彼女の意思で、王太子の欄に書かれた『ウィルフレード・ディオス・ヌエベ』の署名の下に、己の名前を書いた。
『リラジェンマ・ウーナ』と。

「リラジェンマは僕のお嫁さんなんだよ」

 独り言のような呟きをウィルフレードが溢すから、いったいどうしたのかと彼を見上げた。
 ウィルフレードは彼女を見てはいなかった。彼の視線の先は壁に掛けられた肖像画に向かっていた。

「この絵はどなた?」

 リラジェンマがそう問いかけると、ウィルフレードはちらりと彼女に視線を寄越した。その黄水晶の瞳と、絵の中の人物の瞳の色が同じだった。

「僕のおじいさま。サルバドール・ブリジャル・ヌエベ。グランデヌエベ王国の十五代目で、前国王陛下だよ。この肖像画はまだ若かりし頃のお姿だ」

 絵の中の人物は青銅色の髪に黄水晶の瞳。野性味に溢れ眉目秀麗といって遜色のない顔立ちをした、今のウィルフレードと同じ年頃の貴公子だった。眉間に刻まれた皺が、彼が気難しい性格の人物だったのだろうと推測される。

(あまりウィルとは似ていないけど、瞳の色は同じね)

 ウィルフレードの顔立ちはどちらかといえば中性的。
 この絵の前国王陛下は野生味に溢れた男性的な人物である。

(人の好みは千差万別というけど、わたくしはどちらかといえばウィルみたいな顔立ちの方が好みだわね)

「あれ。サイン……」

 絵とウィルフレードの顔、交互に見比べていたら手元に注意を払うのを忘れていた。

(いけない、うっかり魔法が発動するところを見逃してしまったわ)

 ウィルフレードがリラジェンマの手元を覗き込みながら声をあげたので、つられるように自分の手元を見たリラジェンマは、そこに黒々と残る自分の名前を確認した。

 消えない。
 きっちりと残った署名。

「……消えないわ、ウィル。これって……」

「弟が名前を書いたときは消えたんだけど……」

 ふたりで書面を注視するが、いつまで待っても『リラジェンマ・ウーナ』と書かれた署名が消えることはなかった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

処理中です...