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13.「これ、魔法がかかっているんだ」……はい?
しおりを挟む「あったあった。これだ」
ウィルフレードはそう言いながら、リラジェンマの見ている前で、本棚を動かし壁紙の柄で巧妙に隠されていた隠し扉を開け、中から厚い書籍を持ち出してきた。
ウィルフレードが抱えなければ運べないような大きな書籍は、厚み、重量ともにかなりありそうで、革で装丁された表紙がすこし剥げ風合いも落ち歴史を感じさせる。
ウナグロッサの王宮にもこんな風に歴史を感じる書籍が何点か存在した。保管庫に保存されていたそれは、帝国時代の古代文字で書かれていて読めない代物が多かったのだが。
(なんだかこれも、もの凄く価値のありそうな重要書籍なのでは? わざわざ隠すように保管していたし。……帝国時代の歴史書か何かかしら)
「それは何? 歴史書?」
「国王宣誓書だよ」
「――は?」
それはまた、重要書類である。『書類』というより既に一冊の本の装丁になっている。
もしかしたら、グランデヌエベ王国歴代国王の宣誓書があるのかもしれない。全部で二十枚くらいはあるだろうか。
「戴冠式の時、精霊と民の前で“余は第十六代の王を拝命した”って宣誓して、あ、そう宣誓したのは僕の父上だけどね。それでこれに署名していた。父上に続いて母上も。今見ると、一枚の厚みがあるから全体的に厚い本みたいだよね」
「あぁ。はい」
リラジェンマもうっすらと覚えている。まだ幼い頃、母が女王戴冠式をした。それは国王だった祖父が亡くなりその喪が明けたあとのこと。王宮前の広場でそんなことがあった。始祖霊たちが精霊とともに顕現してとてもうつくしかった。
……ような気がする。いかんせん、リラジェンマはそのころ5歳かそこらだったから記憶が曖昧だ。
とはいえ。
その国王宣誓書をなぜ見させられているのだろうか。
「国王が宣誓すると同時に王太子も宣誓されて名前を書くでしょ。あぁ、ほらほら、ここ。僕が名前を書いたところ」
ページをめくっていたウィルフレードが指し示すところを見れば、確かに彼の名前が記されている。子どもがサインしたとは思えないほど丁寧でうつくしい筆跡であった。
彼の名前の上には、現国王とその王妃のサインも並んでいる。
サインは現代語で書かれているから読めるが、そのほかのところは古代文字で書かれていて読めない。恐らく、国王宣誓書という書式があり、該当者が記名する仕組みであろう。
(……わたくしもサインしたのかしら)
自分のときはどうだったのかよく覚えていない。
うつくしく着飾り王冠を頭に頂いた母の姿はよく覚えている。その隣で正装した父の姿も。国民が広場に集まり歓声をあげて祝福してくれた。精霊たちが舞い、花がまかれた。
(ん? 精霊たちが舞っていた? 変な記憶ね。わたくし、精霊なんて見たことないはず……よね?)
あいにくと記憶は断片的で、自分が王太女としてサインをしたのかよく覚えていない。当時の記憶も曖昧である。
そもそもウナグロッサ王国で同じ書式が活用されているとも限らない。
「これ、魔法がかかっているんだ。知っていたかい?」
「魔法?」
ウィルフレードは、とっておきの秘密を教える子どものような無邪気な瞳でリラジェンマの顔を覗き込む。
「うん。帝国時代の失われた魔法のひとつだから、どういう理屈なのか未だ解明されていないけれどね。戴冠式で国王と同時に王太子も次期王としてサインすると、次のページが生まれる不思議な書物なんだ。実際、僕もサインしたあとページが増えるところをこの目で見たしね」
そう言われ現国王の宣誓書の次のページを捲ってみれば。
同じような書面があり、古代語で何か書かれていて国王と王太子がサインすべき個所は空欄になっている。
ひとつ前のページを捲ってみれば、現国王の名前が同じ筆跡で王太子の欄に記されている。
王朝が続く限り、ページが無限に増える魔法の書らしい。
「しかもね、一度記名されるとあとから違う人物が名前を書いてもダメなんだ」
「……どういうこと?」
「小さい頃にね、こっそり弟とこれを見つけてイタズラしたことがあったんだ。王太子の欄にね、弟に自分の名前を書かせてみた」
「は?」
「あの頃の弟は、まだ僕の言うことを素直に信じる可愛い奴でねぇ。僕の名前と並べて書いてみてって言ったら素直に書いてくれたんだ。そうしたらどうだ! 書いたそばから消えていったんだよ? 驚くべきことだと思わないかい?」
(また随分とツッコミどころの多い話題だわ)
「ウィルが幾つのときのお話? 公文書にイタズラ書きするなんてとんでもないことだわ。それに魔法? これに魔法がかかっているの?」
「うん。ほら、リラも名前を書いてみて! 僕の名前の下に書いてごらん」
そう言って羽ペンを手渡され、インクも用意される。
ニコニコと機嫌のよさそうなウィルフレードと、国王宣誓書の書面を何度も見比べる。
(言われたとおり一度名前を書いて、魔法がちゃんと作動するのか確かめるべきなのかしら)
「これ、魔法がちゃんと効かなかったらどうなるの?」
「そりゃあもちろん、君がこの国の次代を担う人になるね」
「は?」
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