異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

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12.ウィルフレードの秘密

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 ウィルフレードが差し出す手にリラジェンマが自分の手を乗せたのは無意識の行動だった。 
 あいかわらずウィルフレードは同時多発的に重要問題をサラリと溢すので、リラジェンマとしてはどれから反応すべきか迷う。迷っている間にどんどん場所が移動してしまう。
 彼に手を引かれたリラジェンマが立ち上がると、ウィルフレードは彼女が腰を下ろしていた辺りに敷かれていたハンカチを拾いあげ尻ポケットに押し込んだ。そして彼女の手を握ったままズンズンとどこかへ連れていこうとしている。

(待って待って。だいぶ重要なことを言われたわよっ⁈)

 先ほどウィルフレードはなんと言った? あまりのことに呆然としてしまったが、訊かずにはいられなかった。

「え? 待ってちょうだい。ゆれいが憂いていた? わたくしを保護してくれと佑霊ゆれいが言っていたの? ウィルにはそれが聞こえるの?」

 佑霊とはリラジェンマが知っているところの始祖霊と同じと言っていなかっただろうか。
 始祖霊はリラジェンマたちウーナ王家の人間を守護する精霊だ。つまり佑霊はヌエベ王家を守護する存在だということだ。その佑霊、つまり精霊の声が聞こえるということなのか。
 そんな人間がこの世にいたなんて!

 ウィルフレードは彼女の瞳を覗き込み、内緒話をするように声を潜めた。

「うん。僕は佑霊の声が聞こえるんだ」

「本当に?」

「秘密だよ」

 どこかいたずら小僧のような表情でウィルフレードが言う。
 これはもしや、リラジェンマが特殊能力を持っているように、ウィルフレードもまた特別な能力があるということだろう。それもヌエベ王家限定の特殊能力が!

「それって、王家に伝わる秘匿ではないの? わたくしが知っても構わないの?」

 リラジェンマは母から『例え伴侶であろうと言ってはならない』と聞いていたのだが。

「うん。リラは僕のお嫁さんだから構わないよ」

 ウィルフレードが明るい笑顔とともに、あっさりと言う。まるで天気の話題でもしているように。

(いいの? 本当にそれでいいの? 随分、軽くない? ヌエベ王家だって数百年の伝統があるでしょう? それをこんなに軽く済ませていいの?)

 やはりウィルフレードは違う。次代の王位を継ぐ者として育ったのは同じだが、リラジェンマとは心構えが違う気がする。
 いやそれとも違うのは両王家の対応だろうか。
 ウナグロッサ王国では特殊能力を秘匿として、伴侶にも明かさなかった。だが、グランデヌエベは違うのかもしれない。伴侶にも、王家の血を引かない人間にも情報開示しているのかもしれない。

「それに、リラが自分の秘密を明かしてくれたんだから僕も言わないと不公平じゃないか」

 え゛?

「わたくし、の、秘密?」

「うん。他者の悪意が視えるって。さっき話してくれただろ? お母上から一子相伝だと言われていたって」

 言っただろうか。自分でぺろりと言ったのか。
 実父と異母妹に対する長年蓄積された不満とともに語ってしまったのだろうか。

(……言った、かもしれないわ)

 血の気が引くという言葉の意味を、身をもって体感した。うっかりとはいえ自分はとんでもないことをしてしまった!

「だけど僕を信用して話してくれたんでしょ? なら僕も僕の秘密を打ち明けようと」

 いままでよりウィルフレードの笑みの親しみ度が上がった気がする。……気のせいかもしれないけれど。

(お母さま。ごめんなさい、お母さまっ。リラジェンマはうっかりし過ぎてとんでもないことをしてしまいましたっ)

 衝撃と罪悪感と、胸中で亡き母への懺悔ざんげを捧げるというリラジェンマの19年の人生で一番の混乱に襲われぐるぐると思い悩んでいる間に、手を引かれ芝生広場から屋内に場所を移動していた。

「あぁ、この話はさすがに結界外で口にしたらダメだよ? だれに聞かれるか分からないからね」

「……けっかいがい?」

 未だ混乱が続くが耳はウィルフレードの声を拾い、どこに結界があったのだろうと意識の隅でぼんやりと思う。そのまま言葉を繰り返し声に出した。

「あれ? 芝生の周りを囲んでいた石柱。あれが結界を作っていた……のは君も知っているだろう?」

「けっかいって結界? え? あの石柱が結界を張っていたの?」

「あれ。初耳?」

「初耳です……」

 芝生広場も石柱も、そういう物だと思っていたから疑問を抱いたことなどなかった。流石さすがに見慣れない形状の鉄柱には気がついたが、珍しいとか綺麗としか思わなかった。
 ウィルフレードは疑問に思ったから調べたと言っていた。その過程で石柱が結界を形成していると知ったのだろう。

(子どもだったウィルは常に青々とした芝生に疑問を持ったと言っていたわ……そうよね、手入れする人間がいないのに同じ状態って言われてみれば不思議だわ。……わたくしは注意力が足りないのではないかしら)

 だから実の父親にていよく追い出されたのだろうか。
 同じような物を見て、同じように育てられたはずなのに。
 リラジェンマは人を慮れないし些細な疑問点を見過ごすしうっかり秘密を漏らしてしまうような迂闊な人間だし。
 だから。

「リーラ。なに落ち込んでいるの?」

 ウィルフレードの甘い声が耳をくすぐる。

「……いいえ。落ち込んでなどいないわ」

 彼は人の心の機微に敏感だ。
 少し後ろ向きになったリラジェンマの心にすぐ気がつき声をかけてくれる。
 王女として生まれ育ち、次代を継ぐ王太女として教育を受けた彼女は、その心の内を表面に出さないよう訓練を受けていたにも関わらず。

(ウィルは観察眼とかすべてがわたくしより上なのだわ……自分の未熟さを認めるのって悔しいのね)

「ふぅん? ま、君がそう言うのならいいけど。さ、この部屋だよ」

 ウィルフレードに促され入室したのは、だれかの書斎といったおもむきの部屋だった。
 豪華さよりも機能性を重視した内装。広すぎず狭すぎず、置いてある家具は落ち着いた色合いの一目で一流と判る品物ばかり。壁紙やカーテンの色合いから男性の部屋のようだとリラジェンマは感じた。

(もしかしたらウィルの執務室かしら)


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