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16.側近たちと侍女たちと
しおりを挟むリラジェンマとウィルフレードがこっそり国王宣誓書に新たな署名を書き加えたあと。
廊下に出た途端、ウィルフレードは彼の側近二名に捕まった。
その側近一名――やせ型で目の下の隈がとても印象的な文官タイプ――が凄かった。
「こちらにいらしたのですね、あぁ! ウナグロッサの姫さまもご一緒でしたかご一緒のところお邪魔して申し訳ありません私バラデスと申しまして殿下の侍従を務めておりますバスコ・バラデス、バスコ・バラデスと申します以後お見知り置きくださいませ」
ここで一度、リラジェンマに対しびっくりするほど優雅にお辞儀をした時だけは静かであった。
しかし顔をあげれば。
「殿下にはここ数日で溜めに溜めた書類仕事がございますですよ殿下のお目通りを今か今かと待っているのですさぁ山積みの決裁書類を征服するために剣をペンに持ち替えて突進する時です時は来たれりです今こそあのにっくき書類仕事を片付けるのですっ! さあ! さあ! さあ!」
血走った目となんともいえない迫力で押されたうえに、怒涛の口上に捲し立てられ、ウィルフレードは口を挟む間もなく背を押され凄い勢いで連行されていった。
(彼、息継ぎはいつしているのかしら)
呆気にとられ見送るしかなかったリラジェンマのために、ウィルフレードは連行されながらも道案内兼護衛を指示した。それがウィルフレードの側近その二であるヘルマン・ゴンサーレス。
自身の名を告げ低頭したゴンサーレスの顔にリラジェンマは見覚えがあった。
ウナグロッサからこちらに来る時、馬車の中を寝床仕様に変更してくれた騎士さま本人だ。体躯も逞しく只者ならぬ気配を持つが、口数は少なく常に彼女の身を案じてくれた誠実な騎士だった。
彼はさきほどウィルフレードを連行していった側近とは真逆で無駄口をきかなかった。リラジェンマは静寂の中、彼女に宛がわれた部屋に帰ることができた。
(ウィルの側近は……ちょっとおもしろい人が多いのかも)
彼を取り巻くその他の人間も知っていきたい。
リラジェンマは自然とそう考えていた。
◇
「さぁ! お支度、整いました。ご確認くださいませ」
年配侍女のハンナが笑顔で姿見をリラジェンマの前に移動させた。
鏡の中のリラジェンマは全体的にうつくしく飾り立てられているようだった。
プラチナブロンドの髪のあちこちに薄紫色の小さな小花の飾り。
同色の薄紫色のふんわりとしたドレス。
ハンナたち侍女が着付けてくれたそのドレスはリラジェンマの身体にぴったりだったし、結い上げた髪の随所に散りばめられたリッラの髪飾りはドレスと同色で特に可愛らしいと思う。
飾りやドレスは可愛らしいとは思うが、それが自分に似合うかは分からない。
丁寧に化粧も施されたが、リラジェンマはその出来栄えをじっくり見ることが出来なかったから。
――自分の顔を嫌いになったあの日から、きちんと鏡を見たことがない。
だから全体的なイメージだけは捉えることが出来ても、自分の顔がどんな仕上がりになっているのか把握しきれない。
(いい加減、この拘りも捨てるべきかも)
そう思っても鏡の中に映る自分の顔を直視できないリラジェンマに、ハンナが笑顔で語りかける。
「リラジェンマさまのお名前のようなリラの髪飾りをご用意してくださったのは、ウィルフレード殿下でございますよ」
グランデヌエベではリッラをリラと発音するのかと思いながら、リラジェンマはひっそりと驚いた。
「ウィルフレード殿下が、自ら、これをご用意されたの?」
「はい。こちらをリラジェンマさまに、と」
薄紫色のリッラの小花を模した飾りは、今にも香りそうである。
少し面映ゆい心地で鏡の中の自分の髪を飾る小花を眺めていると、リラジェンマの背後に控えた侍女たちが鏡越しの視界に入った。
みなリラジェンマの返答を、彼女の声がかかるのを待っている。
「ありがとう。あなたたちの仕事はいつも完璧ね。お陰でわたくしは快適に過ごせるわ」
ふり向いて侍女たちに労いの言葉をかけると、彼女たちは一斉にお辞儀をしたあとリラジェンマを飾り立てるために準備した諸々の片付けを始める。
(本当に優秀な子たち。一切の無駄がない。それでいて無味乾燥な印象もない……あの子たちもこうであったら)
よく教育された侍女たちを見るにつけ、母国ウナグロッサの宮殿と比べ気落ちする。
とはいえ。
(ここからわたくしに出来ることなんて……もうないでしょうし……)
ウナグロッサが自分を捨てたのだ。
必要ないと排除したのだ。
リラジェンマに出来ることは、この二国間に戦争が起きないようにするだけ。そのためにグランデヌエベ王国に来たのである。
それ以上を母国に望めば、それは内政干渉となる。
これからはグランデヌエベ王国とウィルフレードを知ることに努めようとリラジェンマは心に誓った。
「リラ。支度が済んだって聞いたけど――」
そう言いながら入室したウィルフレードはリラジェンマの姿を見た途端、動きを止めた。
「ウィル?」
ウィルフレードの切れ長の一重の目が、これでもかとばかりに見開かれている。彼から感じる心情は『驚愕』だった。
「どうしたの、なにかあったの?」
今度こそ晩餐をともにしようという連絡があり、それに合わせてハンナたち侍女がリラジェンマの支度をしてくれた。
そしてウィルフレードがエスコートするために訪れたと思っていたのだが。
「可愛い」
「え?」
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