42 / 66
42.対面。ベリンダ・ウーナ①
しおりを挟む「こんな侮辱、生まれて初めてだわ! いいからこの手を離しなさいよ! わたしを誰だと思ってんの⁈ ウナグロッサの王女なのよ⁈ この国の人間は礼儀というモノを知らないんじゃないっ⁈」
廊下から室内にまで届いた異母妹の金切り声に、リラジェンマは驚きを禁じ得ない。
(あんな……言葉遣いと、喚き声……品位もなにもない……アレを王女と呼ばなければならないなんて……)
取り敢えず、ウィルフレードの膝の上からは降ろして貰いソファにひとり座った。ウィルフレード本人には衝立の影に隠れて貰い、リラジェンマの傍にはカバジェ近衛騎士団長ほか、数名の騎士たちが護衛に立った。部隊長クラスの騎士も部屋の隅に並ぶ。
発見、捕獲され近衛騎士団の詰め所に連行されたウナグロッサ王国第二王女ベリンダ・ウーナの様子は、見るも無残なありさまであった。
庭園の中でも舗装されていない道なき道の部分を強行突破しようとしたらしい。スカートの裾には泥が跳ね、ほつれ、転んだようにも見受けられた。
髪を乱し喚く様子は、どう見ても正気ではない。
余りにも不憫な様子に同情した侍女が、衣装を整えましょうと控室へ誘導しようとしたところ、その手を振り切ってまた脱走を試みたせいで今は女性騎士――ピアという名の有能な騎士だ――に手首をしっかり掴まれている。
(まるで犯罪者が捕まっているようね)
そのベリンダは、部屋の中に通されざっと室内を見渡したかと思うと、急にぐずぐずと泣き崩れた。
儚く、憐れっぽさを演出するような泣きかた。その変わり身の早さにだれもが開いた口が塞がらないような様子だ。
この部屋にいるほとんどの騎士は男性である。
だから態度を変えたのだ。自分に同情させ、庇護されるよう仕向けるために。
どうやら今までメイドや女性騎士たちが対応していたせいで、あのような威張り散らした態度だったらしい。彼女の手首を掴んだままの女性騎士が、そのあからさまな態度の変化に嫌悪の表情を剥き出しにした視線をベリンダに投げている。
憐れみをかけるのも躊躇われるほどみっともない状態の異母妹にリラジェンマは呆れかえる。
(急に態度を変えたところで、あの怒鳴り声を聞いていたら同情なんて出来ないわ)
王女の手首を拘束し続ける女性騎士に目配せと手を振ることで拘束を解くよう伝える。
リラジェンマの命令に、本当によろしいので? といった表情を浮かべた女性騎士は、王女の手を離したがその場で後ろ手を組んで立った。王女を警戒しているらしい。
(これは、そうとう手こずったようね、ピア)
リラジェンマは異母妹がしくしくと泣き続けるさまを暫く黙って観察した。
この場での最高責任者の(本来は王太子ウィルフレードだが、今は隠れている)リラジェンマが沈黙を守っているせいで、その場のだれもが動かず声も出さず、彼女に倣いウナグロッサの第二王女を観察し続けた。
だれにも声を掛けられない状況を訝しく思ったのか、チラチラと周りに視線を向け始める第二王女。その視線がやっと部屋の奥のソファに座ったリラジェンマを捉えた。
一瞬で激昂したのか真っ赤な顔になった第二王女は叫んだ。
「ひどいっ! おねえさまのせいで、わたしはひどい侮辱を受けました‼」
そのままリラジェンマの元まで近寄ろうとするから、女性騎士に羽交い絞めにされた。憐れに泣き崩れた姿はやはり演技だった。
「こ、こんなっ! 王女に騎士ごときが触れるなんて、いったいこの国の常識はどうなってんの⁈」
(常識……どの口が言う言葉かしら)
「おねえさまのせいよっ! 本当はわたしに来た縁談だっていうのに、勝手に押しかけたって聞いたわっ‼ グランデヌエベの王太子さまが迎えに来たのはわたしなのよ‼
いつもそう! おねえさまばかり、いいとこ取りしてズルいっ!」
髪を振り乱し、口角泡を飛ばす勢いで喚きたてる第二王女の様子に、部屋の壁際に立つ騎士たちが一斉に殺気を強めた。
「それに、なぁに? そのドレス! おねえさまにはお似合いかもしれないけれど、王太子殿下の色がどこにも無い! 今日は舞踏会だって聞いたけど、そんな色のドレスを着て舞踏会に出たんですかぁ? 非常識だと思いませんかぁ? パートナーの色をドレスに使わないなんて、どうかしてますぅ!」
(……あぁ。だからあなたはその色のドレスを着ているのね)
ベリンダの着ているドレスの色は黄色。腰に巻いたサッシェは金色。フリルやレースをふんだんに使ったドレスはとても可愛らしい。恐らくグランデヌエベの王太子殿下が金髪に黄水晶の瞳を持っているという情報を得たからだろう。
が。
(あなたのその金髪に、その色のドレスって……全体のバランスが悪いわ……)
全身ギラギラと異様に光り、どうにも違和感と不調法さばかりが目立つ。
しかも、舞踏会会場に居なかったから事情を知らないとはいえ、リラジェンマのドレスを非難するあの発言は王妃殿下を侮辱し、喧嘩を売ったと同義である。
騎士たちの醸し出す殺気が一層濃いものにグレードアップした。
「おねえさま! なんとか言ったらどう? お父さまに言いつけるからね!」
リラジェンマの瞳には視える。
涙で頬を濡らす異母妹の背後に、獲物に狙いを定め牙を剥きだしにしているバケモノの姿が。
いつもは華麗な異母妹の姿との落差がおぞましく、視るたびに怯えてしまった。
だが今日の異母妹の姿はバケモノの姿と同様に見苦しく、落差などない。どちらも等しくおぞましい。
(こんなモノに怯えていたなんて……わたくし、どうかしていたわ)
おそらく異母妹を普通の人間だと認識していたから、その異形の姿が恐ろしかったのだ。
いつか正常になると、普通の人間に戻ると思っていたから。
アレは同じ人間ではない。
そう認識してしまえば、恐れるものでもなかった。外見はどうあれ、アレの中身は常に人を羨み奪うことで満足を得ようとするバケモノだ。
「花嫁として望まれたのは、このわたし、ベリンダなのよっ! ベリンダにそのティアラも渡しなさいよ!」
異母妹が金切り声をあげるたびに、リラジェンマは冷静になれた。
(この部屋の殺気に気がつかないのかしら。ある意味、尊敬に値するわ)
異母妹が暴言を繰り返すせいで、騎士たちの殺気は最高潮に達している。リラジェンマが指を立てて首を掻き切る動作をしたら、すぐにでも剣を抜き実行しそうで恐ろしい。
「ウナグロッサ王国、第二王女ベリンダ・ウーナ。そなた、幾つになりましたか」
20
あなたにおすすめの小説
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした
まほりろ
恋愛
【完結済み】
公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。
壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。
アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。
家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。
修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。
しかし仔猫の正体は聖獣で……。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。
・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。
2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます!
誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!!
アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる