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43.対面。ベリンダ・ウーナ②
しおりを挟むリラジェンマが殊更意識し柔らかい声を出したのは、今まで金切り声で叫んでいたベリンダとの違いを見せつけるためだ。
「え? ……18だけど、それがなに? 急に、なに言ってんの?」
突然話しかけられ、異母妹は虚を突かれたような顔になった。
「18……もう成人を迎えたのですね。大人であるあなたに理解できないとは言わせません。
国へ戻り、国王代理に直接確かめなさい。
グランデヌエベ王国王太子、直筆の書状で望まれた姫の名前は誰だったのかと。お優しい国王代理は必ずそなたの問いに答えてくれるはずです。『それはリラジェンマだよ』と」
経緯はどうあれ、望まれたのは間違いなくリラジェンマである。勝手に押しかけたなどと言われる筋合いはない。
「でもっ! 街の噂ではわたしだって言ってたわ!」
(噂を頼りにここまで来たの?)
「そなた、街での流言飛語と国王代理、どちらの言葉を信じるのですか? その調子では国王代理の許しを得てから来たわけではないのですね」
「お父さまは、わたしがなにをしても許してくれるもん!」
「なるほど。ろくな教育も施されなかったと。憐れなこと」
「ひどいっ侮辱だわっ!」
「国王代理を侮辱したのはそなたです。王女を名乗る身で許可も得ず勝手に他国を訪れるなど。そなた、王女の権限をどの程度だと思っているのですか? 国王代理の意思をも上回るものだとでも?」
「そんな……どうしてそんな難しいことばかり言うの? ベリンダをいじめて楽しいの?」
「は?」
いつ難しいことを言っていじめたことになったのだろう。
「いつも、いつも、そうじゃない! おねえさまは酷いっ! わたしのことなんてどうでもいいんですね!」
(そうね。どうでもいいわ)
「おねえさまがズルして勝手にグランデヌエベに行ったりするから、こうしてベリンダまで苦労する羽目になるんです! おねえさまばかり優先されるなんてオカシイです! 大人しくわたしとその立場を交換してください!」
本気でなにを言われているのかわからない。
けれど。
「そもそも。ヒドイとかズルするとか。そういう次元の話ではないのです」
リラジェンマはゆっくり立ち上がった。
背筋を伸ばし、顎を上げ、女性騎士に羽交い絞めにされている憐れなバケモノを見下ろす。
「わたくしは第一王女リラジェンマ・ウーナ。何より誰より優先されてしかるべき人間です。
なぜなら、すべての国民を守り慈しみ背負って生きる覚悟があるからです。その責任を自覚しているからです。
だからこそ、わたくしは優先されるのです」
「おねえさまはすぐ難しい話に変えてズルい! 王太子さまに会わせて! 彼だってわたしを見れば考えを変えるはずよ!」
「その恰好で? 今日のところは大人しく与えられた部屋に戻ることを勧めます。また明日、会いましょう。これ以上ウナグロッサの品位を落とすような真似は許しません」
「おねえさま!」
「ドレスもお飾りも、そなたに似合う物を用意させます。少しでも王女の矜持があるのならわたくしの言に従いなさい」
「すぐそうやって、姉だからって言うこときかそうとする! おねえさまはいつもそうやって、わたしに判らない言葉を使ってうやむやにする気なんだわ」
難しい言葉をいつ使っただろうか?
リラジェンマは内心ではなく、本当にわからなくて首を傾げた。
「自分の恰好を見なさい。ひどい有様です。恥を知りなさい」
そのとき、初めて異母妹は自分のスカートの汚れに気がついたらしい。怒りではなく、羞恥で頬を染めた。
「それもこれもぜんぶ、おねえさまのせいじゃない!」
「え。どこが?」
本気でわからない。
リラジェンマは他国の迎賓館に入って、勝手に庭園を彷徨ったり騎士団に捕獲されたりした覚えはない。ましてや、それを異母妹に命じた覚えもない。『おねえさまのせい』などと言われても違うとしか言えない。
すべて、異母妹が勝手にやったことである。
ここまで人の話ができないとは思わなかった。
「責任転嫁も甚だしい。よろしい、わかりました。――イバルリ、レブロン。両名に命じます。この者を迎賓館の最初に宛がわれた部屋に戻しなさい。特別にその身に触れることを許可します。暴れるようなら縄を使っても構いません。許可があるまで部屋から一歩も出さないように」
「はっ」
部屋の端に控えていた近衛騎士2名に命じれば、彼らは即座に動いた。
「え? ちょっと待って」
ベリンダが抗議の声を上げるが、彼らはそれに聞く耳を持たず左右からベリンダの手首を掴んだ。
女性騎士ピアがしていたのと同じ行動だが、力の強い2名の男性騎士が両側からそれぞれ手首を掴むのだ。ベリンダの抵抗も虚しく、あっという間に引きずられるようにして部屋を退出した。
すでに姿は見えないが“離しなさいよっ”というベリンダの声だけが虚しく聞こえてくる。
「ピア。ご苦労ですが、彼らと一緒に行って。彼らにあらぬ疑いがかけられぬよう、見張りなさい」
「アラヌウタガイ……っ! 承知っ!」
一瞬呆然としていた女性騎士が、すぐさま低頭し彼らのあとを追うように退出した。
「なんとも……人の話が通じる相手ではないのですな……」
いままで黙って殺気だけを飛ばしていたカバジェ団長が溜息混じりに溢した台詞に、部屋に残されただれもが頷いてしまったのだが。
「ウィルフレード王太子殿下」
リラジェンマの呼びかけに、衝立の影からげっそりとした表情でウィルフレードが姿を現した。
「あれがウナグロッサ王国第二王女です。ご感想を頂けます?」
リラジェンマが先に会いたいと言っていたのを無視してまで姿を垣間見ようとした相手だ。
一言、その感想を聞きたい。
廊下に居ても聞こえてくるような金切り声の持ち主で。
相手によってコロコロと変える態度とか。
会話をしているようで、一方的に自分の要求のみを突き付ける頭の悪さとか。
パートナーの色彩をその身につける等、一応の常識は知っているようだが、壊滅的にセンスが悪いことを露呈させたドレス選択とか。
国王代理を無視して行動する図太さとか。
この部屋の片隅から一部始終を垣間見ていたはずのウィルフレードの感想を聞きたいと、リラジェンマは思った。
『でも』とか『だれかのせい』とか。甘ったれた言葉をこのうえなく軽やかに口にする異母妹に、王家の人間としての覚悟や矜持、責任などあるとは思えないし、判って貰えるとも思えない。
あのような女を伴侶に選ぼうというのなら、この男の品格も知れたものだ。
どこか殺伐とした思いのリラジェンマがウィルフレードを睨んでいると、彼はため息をついたあと
「臭かった……」
と憔悴しきった小さな声で呟いた。
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