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53.「ウナグロッサの民が初めに始めたんだよ」
しおりを挟む「いま、七代目さまはいらっしゃるの?」
「んー? ……どうかなぁ……」
リラジェンマの問いに夜空を見上げ星を眺めている風のウィルフレード。
彼の目にはあの星以上に精霊が視えているのか。
「勝手に魔法をかけるなんて……せめて、事前にひとことでも伝えて貰えないものでしょうか。あんな急に倒れられたら吃驚してしまうわ」
しかもふたり揃って昏倒したのだ。周囲の慌てようはとんでもないものだったと話を聞いている。
「“子孫思い”でやったことだからねぇ。しかも相手は佑霊だ。基本、好き勝手に動く奴らだ。僕らにその術の発動に適うだけの力があったから、やった。悪気は一切ない。
多分、君と手を繋いでいなかったら起こらなかった事故ってかんじかな」
半分諦めたような表情で語るウィルフレード。
「事故、ですか」
「……です」
「精霊からの認識はそうなるのね」
「ハイ」
精霊との付き合い方はウィルフレードの方が一家言持っている。といっても、語れるのはこの世にウィルフレードだけであろう。
リラジェンマには『ほどほどにしてと伝えてください』としか言えない。
「そこで。仮説ひとつめだ。僕らが力を合わせると、いつも以上の能力が引き出されるということ。さらに本来なら使えなかった術も、精霊の力を借りれば使える」
「それは……仮説ではなく実証されているのでは?」
リラジェンマがそう言えば、ウィルフレードはなるほどと膝を叩いた。
「確かに。どちらかというと、条件のひとつ、かな。まぁまぁ、続きがあるから聞いて? リラ。
この大陸に帝国が繁栄を築いていたのは今から何年前だって習った?」
いきなり歴史の講義のようなことを言い出すウィルフレードに面喰う。
「約千年まえ、だと」
リラジェンマの答えを聞いたウィルフレードは嬉しそうに笑った。
「そう。魔法やらこの鉄柱みたいな不可思議な技術やらで繁栄していたのがそれくらい前だと僕も習ったよ。
では。我がグランデヌエベは建国から何年経っている? ウナグロッサは?」
「……どちらも、約500年」
「そう。不思議じゃないか? 帝国は千年前に滅んだ。我々の王国は建国500年ほど。帝国滅亡から我が国が興るまで約500年の空白があるんだ。記録されなかった期間が。なにかが、あった。でも記されなかった。僕はずっとそれを調べたかった。そこに君の発言だ」
「わたくし?」
ウィルフレードは彼の後ろに聳え立つ鉄柱を指差した。
「言っただろ? “ウナグロッサのあれは円柱だ”って。しかも山の上にあり、君らはその場を“大神殿”と呼んでいると。ねぇ? ウナグロッサの姫? 家名も“ウーナ”」
生き生きとした表情で語るウィルフレードは、研究者の顔になっている。
「君の国、ウナグロッサは“始まりの国”とも呼ばれている。意味は“おおいなる一”」
「それ、なのだけどねウィル。“始まりの国”って誰が使っている言葉なの? わたくしはウナグロッサをそう呼んだことないわ」
「それ! それも僕の下世話な知識欲を刺激したよ。君たちは自分たちを“おおいなる一”と表した。“始まり”と評しているのは僕ら、グランデヌエベの民だ」
よくぞ聞いてくれました! とばかりにウィルフレードは嬉しそうに語り続ける。
「ウナグロッサの民が初めに始めたんだよ。我らグランデヌエベの先祖はそれを褒め称えたんだ」
『なにを?』と問う間もなくウィルフレードは滔々と語り続ける。
「そして聞いたところウナグロッサには“大神殿”はあるけれど、そのほかに神殿はない。そうだったよね?」
「えぇ、そうよ」
「グランデヌエベにはね、第一神殿から第八神殿まで存在するんだ。第一はこの王宮内に。そのほかのは国内の各地に点在している」
それがどうしたのだろうと首を傾げるリラジェンマを見て、ニヤリと口の端をあげる笑い方をしたウィルフレードは言葉を繋げる。
「母上が他国出身者だってのは知っているよね? どこから来たのか知ってるかい? 母上はリンタンオッタ王国から嫁いだ」
ヴィルヘルミーナ王妃殿下の本質を思い出した。
八つの輝く宝石が彩られた威厳のある女性。
ウィルフレードの背後に視える彼の本質は、九枚の翼をはためかせる勇者。ヌエベ王家の紋章も九枚の翼をもつ天使。家名のヌエベも意味は“九”。
「家名から国名、ここまで“九”に拘っているのにも関わらず“第九神殿”は存在しないんだ。不思議じゃないかい?」
言われてみれば奇妙な話である。
「しかも鉄柱は八角柱なんだ。君に指摘されるまで気がつかなかった自分が悔しいよ! 国内のほかの神殿へも行って確認した。鉄柱は八角柱。まぁ、九角柱はバランス悪いし作りづらかったのかなと思ったんだけど。そうじゃない。わざとそうしたんだ、過去あれを作った帝国の人間は。八角柱の鉄柱を八本作った。結界を張り巡らせた“神殿”を作った。現在は『グランデヌエベ王国』と呼ばれる土地に」
現在、ウナグロッサを始め数字を意味する国名を持つ国が周囲に点在している。
グランデヌエベ王国は海に面した土地だが、リラジェンマの母国ウナグロッサは山ばかりの土地だ。
王妃殿下の母国・リンタンオッタ王国も数字の八を元にしている。
「僕は仮説を立てた。
帝国末期の時代の人間はこの地に最後の帝国を築いていたんだ。その間にこの鉄柱を造った。それが空白の500年の間に起こったことだと思っている。
今現在、僕らはあの鉄柱を精霊たちに祈りを捧げるためのモニュメントとして使っている。だが帝国時代の人間はそのために作ったのではない。別の用途のためにあれを作ったんだ」
「べつの、ようと……なんのために作ったと?」
リラジェンマの問いに対し、ウィルフレードはニヤリと笑った。
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