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◆序◆
2.マーキュリー夫人
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マーキュリー夫人は、ヴィクターが連れ帰った女性の案内をみずから申し出た。
彼女はもう長いことこの公爵家本邸宅で侍女頭として勤めている。先代公爵夫人からの信頼も厚く、先代たちが亡くなったあと現セルウェイ公爵のヴィクターを立派に育て上げたのは自分だという矜持があった。
王命とはいえ、突然連れ帰った花嫁がどんなひととなりなのか知りたくて、部屋へと案内する道々でさまざまな質問を彼女へ投げかけながら観察した。
出自はどこなのか。
教養はどの程度修めているのか。
立ち居振る舞いはどうなのか。
花嫁としてこのセルウェイ公爵家を訪れた女性の名前はミハエラ・ナスル。十八歳。辺境の出身。
つい先月終息宣言された、約五十年に一度発生する特大魔獣大暴走で大きな功績をあげ、国王陛下から直々に賞賛されたのだとか。
とはいえ、爵位もない家の娘。
優雅さとはほど遠い所作。
若くうつくしいだけが取り柄の、最下層の娘だと判断した。
(辺境のナスル家などと聞いたこともない。旦那さまは汚らわしいと仰っていたし、“戦乙女”というのは戦場で活躍する娼婦のことでしょう)
男ばかりになる戦場で、そういった職業の女性が活躍するのは仕方がないことだ。
とはいえ、そんな女性を由緒正しいセルウェイ公爵家の花嫁として認めるわけにはいかない。
そう判断したマーキュリー夫人に、ミハエラが問うた。
「ところで夫人。迷子ですか?」
「迷子?」
「だってさっきから同じところを何度も歩いている」
意外な質問に夫人は黙った。
ミハエラとの会話を長引かせるため遠回りし、何度か同じ回廊を歩いていた。
この公爵家本邸宅の造りは広大なうえに複雑で、初めて邸宅にあがった使用人は自分がどこにいるのか分からなくなるのが通例である。一目見ただけで覚えられるはずがないのだ。若き日のマーキュリー夫人も覚えるのに一ヶ月は要したほどだ。
それを察するとは思わなかった。この娘は存外バカではないらしい。
とはいえ、この娼婦をどの部屋へ誘導するか。
本邸宅内には当主のいずれ迎える花嫁のための専用特別室がちゃんとある。だがその特別な部屋を娼婦ごときに使わせるわけにはいかない。
話を聞きながら思案していたマーキュリー夫人は本邸宅から離れた場所にあるこぢんまりとした別邸を選んだ。
先々代が妾を囲っていたと言われている別邸で、現在は使われていない。物置である。
とはいえ、この娘にはちょうど良かろうと判断した。
急なことだったので、掃除もなにも行き届いていないが、それも致し方あるまい。
マーキュリー夫人はミハエラ・ナスルを別邸へ案内したあと、本邸宅へ戻った。
※マーキュリー夫人のビジュアルイメージはあのミンチン先生。
(もっと年取った感じで)
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