魔戦場のミハエラ~美形公爵サマの嫁になれ?王命?なのに白い結婚?そちらがそのつもりならこちらは三倍返しだ!~

あとさん♪

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◆急◆

9.危機管理がなっていない!

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「部下のしつけもろくにできない公爵閣下。閣下は王命でわたしをここに連れてきたのではなかったのか? 貴殿は“王命”をどのように思っているのだ? 貴殿がそのように軽々しく行動するから、このような事態になったのだぞ? 反省するべきだな」

「な……! 娼婦の分際でなにを言う!」

 この娘はなにを言い出すのだと、ヴィクターはカッとなった。公爵本人であるヴィクター・セルウェイに対し、なんと無礼で恐れ知らずなのだ!

「うん。その誤解を解きたくてね、居座っているわけなんだけど」

「ご、誤解?」

 ところがミハエラの方はヴィクターの怒声など我関せずの態度で受け流してしまう。 

「わたし、娼婦ができるほど器用じゃないんだ。フィーニスの『おねえさん』たちはみんな器用でね。殿方を悦ばすだけじゃなく、死因も分からないような暗殺術にけているんだ。ところがわたしは魔の森で魔獣を殲滅することしかできない。とても『お姐さん』たちには敵わないんだよねぇ」

 ミハエラはとても牧歌的な話をしているような風情なのでうっかり聞き逃しそうになったのだが、ヴィクターは恐ろしい内情を聞いてしまった。

美姫たちが、暗殺術に長けたお姐さん……だと?)

 しかも彼女の言い方では、『お姐さん』とやらの方がミハエラよりも優れているような口ぶりではないか。
 ミハエラ本人は『自分は魔の森で魔獣を殲滅することしかできない』と言っていたが……。

(ん? いや待て。魔獣を殲滅、だと……?)

 このミハエラが魔獣を狩っていたというのか?
 この細い腕で? このうつくしい肢体で? この美貌で?

 ヴィクターはまじまじとミハエラを見つめてしまう。

「それに『戦場の戦乙女』のことも一律に娼婦だと思っていただろう? 役割が全然違うぞ? 『戦乙女』は……いわば神に仕える巫女だ。戦士とともに剣を持ち戦場へ赴き戦士たちの士気を鼓舞する。重傷を負い身動きがとれなくなった者には速やかに神の御許へ誘うため引導を渡す。それらが戦乙女の主な役割だ。あとは、戦意喪失して退却しようとした愚か者を始末することかな」

 ヴィクターの視線が自分の身体を舐め回すように見つめるのに気がついたミハエラは眉間に皺を寄せた。
『魔獣を殲滅』と言ったときから驚愕の瞳を向けるヴィクターに、呆れるやらがっかりするやらだ。

(ほんとうにわたしに魔獣討伐ができるのか疑わしい……と言いたげな顔だな。なんだこいつ)

 ミハエラは辺境で生まれ育った。
 魔獣討伐をおもな仕事にする一族に生まれたのだ。
 男であろうと女であろうと、能力のある人間がやる。フィーニスは完全実力主義なのだ。もちろん、適材適所ということばも知っているから、魔獣討伐に向いてる者が魔の森へ。権謀術数に長けている者はそれなりの機関へ。鍬を持ち畑を耕すことを好む者はそちらの方面へと、そのあたりは臨機応変にしている。

「その役目柄、後方あたりに配備される“戦場の戦乙女”だが、わたしはそのなかでも特殊でね。先陣に立って魔獣討伐を務めている。今回のスタンピードでもそうだ。そんなわたしに彼らは無礼をはたらいたわけだが」

 ミハエラが一度、踵を床に打ちつけ高い音を鳴らした。
 その音は大理石の床を伝播し、そこここで昏倒している者たちを目覚めさせる。
 頭を振りながら起き上がろうとする者、辺りをキョロキョロ見る者、そして公爵閣下がいる現状に気がつき狼狽うろたえる者(ありていに言えばマーキュリー夫人である)、ほうほうのていで大ホールを抜け出そうとする者も出始めた。

 ミハエラは抜け出そうとする者を目で追いながらことばを繋げる。

「まあ、それもこれも全部閣下。貴殿のせいだよ。下の者は上の者の行動をまねるものだからね。あなたの態度が危機管理のなってない現状を招いたのだ」

「危機管理がなっていないだと?」

 不思議そうな声で復唱したヴィクターに、ミハエラは内心やれやれこいつもかと肩を竦めた。

(こいつら、安全な王都での暮らしに胡坐をかき過ぎなんじゃないのか? わたしが暗殺者だったらどうなっていたことやら。よほど死にたいとみえる)

「さきほども言ったがな。わたし、ミハエラ・ナスルは来たのだ! そのフィーニスの名代に対して、おまえたちはどういう態度だった? この意味が分かる者は跪いて許しを請え。あるいは剣を持って異を唱えろ!」

 ミハエラの流麗な声は大ホール内の空気をビリビリと振動させた。
 いや、声だけではない。
 彼女は宣言するとともに、自分の声に闘気を乗せたのだ。
 魔獣をも怯ませる威圧を受け、大ホール内に留まっていた使用人たちは震えあがった。

 当然のことながら、彼女の真正面の一番近くに立っていたヴィクターもその闘気をまともに喰らい後ずさった。胃の腑が落ち着かないような不安感に襲われ冷や汗が流れる。
 だが武人ではないヴィクターは、闘気をぶつけられた事実が理解できなかった。

(なぜだ? なぜ私は震えているのだ? セルウェイ公爵である私が恐怖を覚えている、だと⁈)

 理由の分からない恐怖に震えるヴィクターに、ミハエラは若草色の瞳を剣呑に光らせ口を開いた。

「セルウェイ公爵。公爵の部下たちはわたしを冷遇した。それに対し、わたしは言っているのだ。
 無礼な扱いに応えるは戦争だと」


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