8 / 33
本編
7.国王陛下による断罪②
「3日前のあの断罪の場で、貴女は王子殿下たちに庇われながら金髪の女性と対峙してました。わたくしの耳にはあなた方の会話全ては聞こえておりませんでしたが、貴女の高い声だけは、ハッキリと聞き届けられました。貴女は、こう言ってましたね。
“大丈夫、最後にちょっと言いたいだけだから。私たち友だちだったんだもの!”
そう言って、貴女は王子殿下の傍を離れて、金髪の女性の耳元で何かを囁いた。
短い言葉で内容は聞こえませんでした。でも、その後で、金髪の女性が去った後で、わたくしはその方がグレース様だと聞き及びました!
本当に悔しくてなりません。わたくしが、ナーガラージャ国の第一王女であるこのわたくしが、どんなに面会を申し込んでも忙しくてお会い出来なかったグレース様と、いつ友だちになったと言うのですか?!
いつも外交で国外を飛び回っている、学園生でもないグレース様と、男爵令嬢でしかない貴女と!
接点は何処なのです?! 有り得ない!!
貴女は、ただ、グレース様に何か嫌がらせを言ったに違いないわっ! 卑怯な人!」
マリアは真っ青な顔で震えた。何も答えられなかった。
「ですから! 陛下! わたくしはこの者がどこか良からぬ組織の間者だと推察いたします! だからこそ、王子殿下をハニートラップにかけて籠絡したのでしょう?! 違いますか?!」
「ち、違います! ハニートラップだなんて·····ひどいっ」
ターニャはマリアの悲鳴のような声に取り合わず、今度はその紫の瞳をジョン王子に向けた。
「先程、王子殿下はハッキリと仰ってましたね。“私の最愛の女性”と。婚約者のいる男性がその婚約者と違う女性を“最愛”と呼ぶのは·····不貞ではありませんの? 少なくとも、わたくしの国の認識では不貞でしてよ?」
「違う! 不貞などでは無い! 真実の愛だ!」
「ならば、穏便に婚約解消すれば良いだけの話では? 何故、わざわざパーティ会場で騒ぎを起こしたのですか? それに王子殿下のご身分なら、その娘を愛妾か側室になされば良い。なのに何故わざわざ才女と誉高いグレース様との婚約を破棄したのですか? それがこの国の流儀なのですか? 理解できません。
わたくし、あの夜のあらましを鷹を飛ばし国に伝えました。今頃周辺諸国に知れ渡っていると推測しますわ。ロックハート国の王子は宝玉を捨てた愚か者だと」
「なっ·····ターニャ様、それはまことですか?」
王太子が問うとターニャは頷いた。
「わたくしだけでなく、他国の留学生たちも、似たような情報は国元に報告しているはずですわ」
常識でしょう、と微笑むターニャ。シンと静まり返るホール。
「ここに」
宰相の低い声が響いた。
「ここに、ジョン・レイナルド王子の2年間の行動、接触した人間の数やその様子などを事細かに記した報告書があります。報告者は王家が付けた影。嘘偽りが無い本物です」
「影を付けた·····?」
「影には護衛の任も含まれております。御身を守るためですので、事後ですがご了承ください。·····さて。この影の報告で、いかに殿下がそこの男爵令嬢と学園内で仲睦まじくお過ごしだったのか、分かるのですが·····男爵令嬢が他者から害されていたのは事実ですね。所持品を隠したり壊したりした者、直接足をかけて転ばせた者、突き飛ばした者、全て別の人間です。名前も判明しておりますが、今この場での公表は致しません。後日、それぞれの家の当主に書簡で持って正式に王家から通達致します。このような悪辣な手段で他者を害そうとするなど言語道断。品位を疑います。二度と王宮に足を踏み入れる事は叶いません。今名を公表しないのは、せめてもの温情と思いなさい」
宰相閣下の厳しい通達に、何人かの令嬢が項垂れた。
「そして」
改めて声を上げた宰相の冷たい瞳が男爵令嬢マリアを射抜く。
「階段から落とされた、という事だけは虚言ですね。ロバート・ミンツが通りかかるのを確認し、悲鳴を上げてから、貴女は自分でタイミングを図って階段落ちをした。ちゃんと報告が上がっています」
マリアは震えながら隣に立つジョンに縋った。
「無防備に階段から落ちたのなら、確かに命の危険があったやもしれません。が、覚悟の上の落下ならば··········捻挫、とやらも嘘なのでは?
打撲程度覚悟の上で階段落ちを決行するとは呆れ返るばかりですが·····。何のためにそんな真似を? もしや、殿下の同情を引いて婚約破棄のキッカケにならんとした、とか?
返答せよ、マリア・カーペンター!」
マリアは震え上がるばかりで何も答えない。否、答えられないのだ。
彼女は乙女ゲームの中で起こるはずだったイベントが中々始まらない事に焦れていた。『階段落ち』があって、初めて王子は婚約破棄を決意する。その大事なイベントが起きないのなら、起こしてしまえと決行した。
結果、見事にロバートに庇われて事なきを得たマリアは階段落ちの恐怖で本当に震えていた。その本物の震えは騎士志望の少年の保護欲を煽り、義憤に駆られた彼はマリアの『グレース様らしき人に突き落とされた』という訴えをなんの疑問も持たずジョン王子に伝え、彼に婚約破棄を勧めたのだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~
櫻井みこと
恋愛
婚約者である令嬢たちを差し置いて、ひとりの女性に夢中になっている婚約者たち。
その女性はあまりにも常識知らずだったから、少し注意をしていただけなのに、嫉妬して彼女をいじめていると言いがかりをつけられる。
どうして政略結婚の相手に、嫉妬などしなければならないのでしょう。
呆れた令嬢たちは、ひそかに婚約破棄の準備を進めていた。
※期間限定で再公開しました。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。