王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

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トラブルの渦中?

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 さてさて。

 わたくし、基本的には身分を隠して学園に通っていましたの。

 なぜかって?
 王族だからと特別扱いされたくなかったから。
 逆に敬遠されるのも嫌だったのよねぇ。

 普通に過ごしたかったの。

 ……と言っても、一般に言うところの『普通』がよく分かっていないかもしれないのだけど。

 それに、ヨハンと賭けをしたしね!
 ヨハンったら一ヵ月しないうちにバレるなんて言うのよ。わたくしが大人しくしてるなんて無理って。
 一ヵ月、誰にもわたくしが王女だと知られなければ、わたくしの勝ち。
 早々に知れ渡ったらヨハンの勝ち。
 わたくしが負けたらあの子のお願いをなんでも叶えてあげるなんて、言わなければよかったわ。

 まだ入学してからたったの3週間なんだもの。



「ねぇ、レオニー。さきほど話したケンプ教授の定説だと、やっぱり一般資本ではカバーできない面もあるのではなくて?
 まず資本主義の基本に立ち返るべきだと思うわ」

 同席していた級友のレオニーナ・フォン・シャルトッテに話しかけると、彼女は驚いた顔でわたくしを見る。

「え。ローゼ……いいの、ですか? アレは無視?」

 アレといいつつ、赤毛とピンクブロンドの二人を指差すレオニー。
 指でなくて、せめて扇子を使うべきじゃ……と思ったけど、そんな物、学園ここには持って来てないわね。

「(どうでも)いいんじゃない? ふたりで痴情の縺れみたいな会話しているし……わたくしに二人の仲を裂く権利なんて無いし」

 そう答えたのが聞こえたのか赤毛クズナーが吠える。

「ちょっと待て! お前はこの間からふざけているのか?! 人の話を聞け!!」

 クズナーがわたくしに突進しようとしたそのとき。
 わたくしと彼との間に、侍女の制服をきた専属護衛キャサリンが音もなく立ち塞がった。

「なんだ、お前は! そこをどけ!!」

 怒鳴りつけてもキャサリンは一歩も引かない。
 両手を後ろに組んで、ただ赤毛クズナーを睥睨している。
 ……キャシー?
 その立ち方は近衛のそれよ? 侍女が後ろで手を組んだりしないわよ?

 と、そこへ。

「なんの騒ぎ? はしたないですわよ?」

 違う方の乱入ね。
 結構な騒ぎになっていたらしく、人垣ができているわ。それらを退けて現れたのが……。

 制服でなく、素敵なドレス姿の女性。
 意思の強そうな切れ長の瞳は濃い青。
 その瞳の色に合わせたのか、濃い青いドレスはとてもお似合い。
 輝く金髪が縦ロールになっていくつもぶら下がり、それをハーフアップにして大きなおリボンで止めている令嬢。

 それなりに美形だわね。
 お義姉様の美しさ可憐さには遠く及ばないけど!

 閉じた扇子で口元を隠した姿は立派な淑女のそれ。ここが王宮ならば。

 学園でその恰好はどうかと思うのだけど?
 ダンスの時はそのプリンセスラインのスカートが広がっていいだろうけど、椅子に座って講義を受ける衣装ではないと思うのよね。場所とらないのかしら。

「あら、クスナー様とリュメル様。あなた方が騒ぎの中心ですか?」

「エーデルシュタイン嬢!」
「お騒がせして申し訳ない……」

 ふうん?
 この金髪縦ロールのご令嬢には礼を尽くすのね。二人揃って頭を下げたわ。
 上級生なのかしら?
 エーデルシュタイン家と言ったわね……確か、国の穀倉と呼ばれる地域を領地に持つ伯爵家だったかしら。

 ピンクブロンドはリュメルという苗字なのね。
 ……ダメねぇ、わたくし。
 脳内で貴族名鑑を検索したけれど、把握してないわ。まだ伯爵家くらいまでしか覚えてないの。そういえば、クスナー家というのも知らないわ。

 お兄様やお義姉様は、貴族名鑑の最新版まですべてを頭に叩き込んでるって聞いたわ……。
 今年社交界デビューだから、それまでに覚えればいいって甘く見てたわ。反省しなくてはね。


「それで? なにを騒いでいたのですか?」

 縦ロールさまは場を取り纏めようとしているみたい。

「この女……、こちらの女生徒が、私の親友のノア・フォン・リュメルの真心を踏み躙るような行為をしたので、一言、言ってきかせようと」
「ぼくは、そんなこと頼んでないから! ぼくのことはいいからっ!」

「真心を踏み躙る?」

 怪訝そうな表情の縦ロールさま。眉間に皺を寄せても美しさは損なわれていない。

「勇気を持って告白しようと、手紙を出したのです!
 手紙で呼び出して、愛を伝えようとした……、
 それなのに、この女は呼び出しに応じなかった!
 お蔭でノアは夜遅くまで待ちぼうけだっ!
 こんな酷い話があるか! この悪女め!」

 縦ロールさまがわたくしに視線を向けた。

「貴女、一年生ね。こちらのリュメル様からのお手紙を受け取ったのかしら?」

 わたくしの制服の首元にある赤いリボンを見て一年生と判断したのね。

 正解よ。
 ちなみに、二年生になると緑のリボン。三年生は黄色なの。
 ちなみに男子の制服はネクタイの色で、やっぱり下から赤、緑、黄色で、学年が解る仕組みよ。

 だからドレスを着られちゃうと、何年生か解らないのよねぇ。

 ところで、自己紹介もしてないけど、お話ししてもいいのかしら。

 あら。
 皆の視線が……赤毛たちと縦ロールさま以外の周囲の人垣も、わたくしに向けられてるわね。
 興味津々なのね。
 仕方ないわねぇ。期待には応えなければ。

「いいえ。存在すら知らなかったわ」

 優雅におっとりと、笑顔と共に答えてみたけど……どうかしらね。

「そんなはずはないっ! 確かにお前の机の上に置いたはずだ!」
「本当に、受け取っていないのですか?」

 赤毛とピンクブロンドが二人一緒に話しかける。本当に仲良しね、あなた達。

 縦ロールさまが落ち着いた声で話しかける。

「机の上に置いた……となると、確実性はありませんね。風で舞ってどこかへ紛れてしまうこともありえますわ。
 直接渡したのでなければ、こちらの一年生を悪し様に罵るのは如何なものかと思いましてよ?」

 ふうん?
 縦ロールさまは理性的なのね。

「でも、クラスの女生徒に言付けたのもあったのに……」

 ピンクブロンドは食い下がるわね。
 なんだか泣きそうな顔して。そんなに何度も手紙書いたのかしら。

「知らないなんて嘘よ、だってそこのメイドが受け取ってたわ!
 そのメイドは貴女の専属なんでしょう?!
 無理して専属メイドなんて雇って! 制服組のくせにっ!
 主人に預かり物すら渡せない、その程度の無能なメイドしか雇えない貧乏貴族が生意気なのよっ!」

 ん? なんのお話?
 違う方向から糾弾されましたね。

 縦ロールさまの後ろから声を上げたのは……。

 あら。
 確か隣のクラスの淑女科の令嬢ね。顔は見覚えあるのよ。やっぱりドレス着用だから何年生か解り辛かったけれどね。
 明るいヘーゼルナッツの瞳と同色の緩く巻いた長い髪が特徴かしら。ちょっと瞳が小さめね。メイクでどうとでもなるけど。

「リュメルさまからのお手紙なんて……ずるいわっ! そのうえ、待ちぼうけさせるなんて! 酷いにもほどがあるわっ!」
「おやめなさい、クライン嬢」

 縦ロールさまが彼女を制す。
 クライン嬢……クライン家は……確か……。
 あら、お義姉様の実家ベッケンバウワー家の寄子の伯爵家だった気がするわ。
 そしてこの娘はあのピンクブロンドが好きなのね。だからピンクブロンドを邪険にするわたくしに対して怒っているのね!

 なるほど、これは三角関係っていうのね!

 って、いやだわ。わたくしを巻き込まないで頂戴。迷惑だもの。

「そのメイドがちゃんと仕事をしてないのか!
 さっきも俺の邪魔をしおって!
 お前、メイドのくせに態度がデカ過ぎる!
 躾し直さないとダメだ!」

 赤毛クズナーがキャサリンに向けて手を振り挙げた!!!




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