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赤毛の行状
しおりを挟む「なんで……あぁっ!!
おまえ、ノアっ! なんて不敬をっ。申し訳ありませんっ!!」
傍観者だったクルト隊長が、顔色を変えて物凄い勢いで近づいてきたかと思ったら、ピンクブロンドの後ろ頭をむんずと掴んで、近づいた勢いのままに一緒に頭を下げた。
……ピンクの首の骨、大丈夫かしら?
「クールト。君、居合わせたのに呑気に見物してたね?
どうして? 君の騎士としての忠誠は誰に捧げているの?
国王陛下じゃないの?
その国王陛下の愛娘に対し奉り、君は無法者が近づくのを止めもせず放置かい?
やばくない?」
ルークお兄様が追い打ちをかけるが如く、ちくちくと嫌み? を言ってますが。
頭を下げた姿勢のまま、クルト隊長が震えているではありませんか。
そしてお兄様の『国王陛下の愛娘』という発言が漣のように広がっていきますね……。主に声の大きい騎士科の面々に……。
でもまぁ。お兄様の仰っていることは嫌みというか真実なので。
どうしましょうね?
それにしてもなんだか楽しそうなご様子のルークお兄様ですが。
「ルークお兄様」
わたくしが呼ぶと、お兄様はこちらを振り返ってくれました。いい笑顔ですが、それがなんとも言えず怖いです。
ん??
さきほどまでわたくしの盾役として存在していたキャシーとメルセデス様がいません。視界良好になりましたわ。
二人ともわたくしの斜め後ろに控えて頭を下げているではありませんか。
いつの間に? 行動が早いわっ。
そして騎士科の面々も、次々と跪いていきます。いっそ壮観、というべきかしら。
「アンネローゼ、君も悪いよ。君はそこらの普通の娘と同じじゃないんだ。
解っているだろう? 守られて然るべき姫君だ。
こっそり身分を隠すなど人が悪い」
あうぅ……。ルークお兄様に優しく諭されてしまいました……。解ってはいたんです、わたくしの我儘だということは。
「……ごめんなさい」
確かに、わたくしがこの騒動の一端であるのは間違いありません。反省です。
「えええええええぇぇぇぇぇぇ?!?!?!
アンネローゼ姫!?
あの?!
幸運の女神の愛し子と呼ばれる姫殿下?!」
びっくりしましたわぁ。
突然、大声を上げたのは赤毛。
あなた、本当に声が大きいのね。それが目玉を溢さんばかりのびっくり眼でわたくしを指差してる。
指差しは失礼よ、やめなさいってば。
幸運の女神の愛し子なんて、昔よく言われたけど、まだ言っている人がいるのね。
もうやめてくれないかしら。
「いつも、親父に……お前は姫殿下と同年代に生まれて幸運だ。騎士団に入って、王宮に務めることが叶えば、殿下をお守りする任につけるかもしれないぞって言われてて……俺は……」
独り言なのに、声が大きいから独り言になってないわよ?
「あ、あ、あーーーー、も、申し訳ありませんでした!!!」
赤毛が突如喚いたかと思うと、地面に両手と両膝をつけて、頭を下げた。
下げた頭が地面に着く時、もっの凄い音を立てたんだけど……大丈夫?
「ロゼ。彼、なにをしたの?」
「……たいしたことは、してないわよ」
ルークお兄様の問いにわたくしはそっぽを向く。
すると、
「食事中に突然大声で怒鳴りつけて、指差して悪し様に罵ってきました!」
「勝手に手紙を押し付けておいて、読んでないことをこの世の終わりのように嘆いて非難していました!」
「勝手に自分たちの友情シーンを見せつけて、なにも知らないローゼさまがすべて悪いと決めつけていました!」
「護衛のキャサリンさんを殴ろうとしていました!」
一年専科クラスの面々が口々にルークお兄様に赤毛の行状を訴えてます。
「おやおや。それはそれは……。キャサリン、被害は?」
「寸でのところで、殿下の喝が入りましたおかげで、自分は無傷です。
ですが、それ以前に殿下はあの赤毛に付き纏われました。
殿下曰く、“喧嘩を売られた”と。
その際“覚えてろよ”という捨て台詞を吐かれたと、聞き及んでおります」
「へぇーすごいね。まるで破落戸の捨て台詞だ。貴族の子弟が吐く台詞とは思えないなぁ。
ローゼ。彼になにをされたのか、正直に。僕に。全部、言いなさい。彼を庇って言わないと、逆に彼の為にならないよ?」
お兄様が怒っているわ。
さきほどから、とても静かに怒っていらっしゃるわ。これは素直に自供するに限ります!
「えーと、確か……。
進路妨害されて、親友の真心を踏み躙った、厚顔無恥な悪女、と罵られました、わね」
「ふぅん、それで?」
「その親友、とやらの代わりに彼がわたくしに抗議するのはおかしくないかしら、と聞いたら、女は屁理屈を捏ねて道理が通らないと言われましたわ。
論ずるに能わずといった様子でしたわね」
「ほう、それで?」
「後で絶対、確実に後悔して死んだ方がマシだと思うわ、と脅したわ」
「君が? 彼を脅したの? それで?」
「とりあえず不問に付すからどきなさいと、道を譲らせたわ。だからその件は問題にしないで欲しいの」
「おやおや。優し過ぎるよ。ローゼ」
わたくしたちの会話の間中、赤毛は頭を地面にこすり付けたままだけど、死んだ方がマシな気持ちなのかしらね?
彼の問題点は、女性全般に対して侮った思想を持っていることだわ。
そのくせ、お父上には王女の護衛ができるかもしれないと煽てられて、王宮に務めることを夢見ていたみたいだし?
矛盾しているわよ。
王女なら守って、そうでない女性は侮るって、わたくしに対しても失礼だって、理解しているのかしらね。
日頃女性全般を侮蔑しているから、今地面に頭を擦りつけるハメになるのだわ。
あんな喧嘩腰じゃなくて、もっと穏やかにわたくしに問い質せば良かったのよ。
いまさら言ったところで、もう遅いけどね。
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