王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

文字の大きさ
19 / 68

新たな告白騒動の始まり

 
 ルークお兄様がクルト隊長に命じ、赤毛とピンクブロンドを学園の反省室へ連行させました。
 わりと大事オオゴトになってしまったので、それなりの罰が与えられるそうです。
 わたくしが居なければ。
 あるいは、最初から身分を明かしていれば起きなかった事件なので、わたくしとしては要反省です。

 とはいえ、クラスの面々がいつの間にかわたくしの親衛隊モドキとなって一致団結していたことには驚いたわ。
 これはちょっと面映ゆいというか……嬉しい誤算ね。


「ちょっと、いいか?」

 そこへ突然話しかけてきた人が。

 背の高い彼は、さきほどの決闘で審判をした人。つまり、去年の剣術試合の優勝者だわ。
 留学生のアスラーン・ミハイ・セルジューク……といったかしら。

 そう。彼がなのね。
 背後には、あの特徴的なオレンジ頭の背の高い従者さんが居るし。
 この騒ぎでじっくり観察するのを忘れていたわ。

 亜麻色の長い髪をひとつに括って背中に流している。
 日焼けした肌にきりっとした男らしい眉。
 その下には深い森の色ビリジアングリーンの瞳。
 薄い唇が笑みの形を刻むと、なんだか皮肉を言い出しそうね。
 顎のラインが綺麗だわ。
 想像していたより、ずっとハンサムさん。
 なるほど。これが遠巻きにされる一位のアイドルさんなのね。

「アンネローゼ様とルーク様は、婚約者同士?
 仲良さげだとお見受けするが」

 突然なんてことを訊くの、この人は!

「いいえ! 違います!」

 わたくしは勝手に好きだけど。初恋だし。
 でもご迷惑になるからきちんと否定しなければ!

「そうか。では、私の求婚を受けて欲しい」

 え?

 セルジューク様はわたくしの前に片膝立てて跪きました。
 奇しくもそれは、さきほどピンクブロンドがやった姿勢と同じなのですが。

「私、アスラーン・ミハイ・セルジュークは、アンネローゼ姫に我が妻になって欲しい。ぜひ良き返事を頂けないか」

 朗々と響いた美声に、場は静まり返ってしまった。

 え。
 どうしよう。どう応えるのが正解なの?

 確か、この方テュルク国からの留学生で、王族で、多分王子殿下で……。

  え? テュルクの王族?
 血の気の引く音が聞こえた気がしたわ。

「父に……我が国の国王陛下には、お話を通してますか?」

 慎重に返答しないと、大変な事態になる、わ。

「いえ。これからです、が……」

 セルジューク様の深い森の色ビリジアングリーンの瞳を覗き込む。彼の真意はどこにあるの?

「テュルク流でのお話なら、お断りいたしますわ。
 ここはあくまでもシャティエル王国です。我が国の流儀に則っての妻問をお願いいたします」

 きっぱり言い切ってやったわ!

 そうしたら。
 初めは驚愕。あっけにとられたお顔で暫くわたくしを見つめて。
 やがて、じわじわと薄い唇が弧を描いて。
 次の瞬間に声を出して大笑いされたわ。

 一人、お腹を抱えて笑うセルジューク様に戸惑うわたくし達。

 彼の笑いが収まった頃、とても穏やかな表情のセルジューク様は立ち上がり、わたくしの右手を取ると軽く唇を寄せた。

「では、姫のご希望のどおりに」

 そう言ってわたくしの手を離して。
 わたくしの瞳を覗き込む。
 深い森が、わたくしの視界いっぱいに広がる。

 そして優雅に一礼すると、踵を返して颯爽と去っていったわ……。

 冷や冷やしたぁ……。
 連れ去られるかと思いました……。

 今頃になって、脚が震えているのを自覚するわ。心臓がバクバクいってる……。

「どういうことですの?
 お断りしたのですか?
 また改めて出直せと言ったようにも感じましたが」

 メルセデス様。おおよそ正解ですよ。

「ティルク流での求婚は、お断りしました。我が国流の求婚なら受けます、と言ったようなものですね、あれでは……」

 わたくしの返答にレオニーが首を傾げる。

「? ティルク流と、シャティエル流では違うの?」

 えぇ、大違いなのですよ。
 もう、脱力してしまって、なんでも考えなしにペラペラ話してしまうわぁ。

「あの国の求婚は厄介ですよぉ。
 他部族の娘に求婚したと仮定しましょう。そのとき娘がはいと返答すれば、その場で男のところへ嫁入りが決まります。略奪同然に連れ去られます」

「え? その場で? 略奪同然?」

「はい。嫁入り道具もなにもなく、身一つでの嫁入りです。
 どちらかというと誘拐に近いです。……さすがにそれはご免被るので」

いいえと答えたら?」

「嫁候補は連れ去られます。そして部族間戦争になります」

「「「へ?」」」

「嫁候補は求婚に立ち会っていた第三者に預けられ、彼女の行方は力で争って、決めます」

 さっきの場合だと、あのオレンジ頭の従者に連れ去られてたってことよね。

「求婚を断っただけで? 戦争?! しかもやっぱり連れ去られるの?」

「はい。ですが、今はそこまで物騒なことにはならないと思いますが……。
 戦争の火種もご免ですので、あのような答え方になってしまいました」

 彼の真意や思惑はどうあれ、取り敢えず、引き下がってくれてホッとしたわぁ。

「ローゼ! なに呑気に解説してるんだ!! 一大事じゃないかっ!
 早く城に帰るよ! 陛下に報告しないと!!
 キャサリン!」

「はっ!」

 わたくしは、ルークお兄様とキャシーに両脇を抱えられるようにして速攻で城に連行されたのでした。



感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています

もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。 ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。 庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。 全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。 なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin