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新たな告白騒動の始まり
しおりを挟むルークお兄様がクルト隊長に命じ、赤毛とピンクブロンドを学園の反省室へ連行させました。
わりと大事になってしまったので、それなりの罰が与えられるそうです。
わたくしが居なければ。
あるいは、最初から身分を明かしていれば起きなかった事件なので、わたくしとしては要反省です。
とはいえ、クラスの面々がいつの間にかわたくしの親衛隊モドキとなって一致団結していたことには驚いたわ。
これはちょっと面映ゆいというか……嬉しい誤算ね。
「ちょっと、いいか?」
そこへ突然話しかけてきた人が。
背の高い彼は、さきほどの決闘で審判をした人。つまり、去年の剣術試合の優勝者だわ。
留学生のアスラーン・ミハイ・セルジューク……といったかしら。
そう。彼がそうなのね。
背後には、あの特徴的なオレンジ頭の背の高い従者さんが居るし。
この騒ぎでじっくり観察するのを忘れていたわ。
亜麻色の長い髪をひとつに括って背中に流している。
日焼けした肌にきりっとした男らしい眉。
その下には深い森の色の瞳。
薄い唇が笑みの形を刻むと、なんだか皮肉を言い出しそうね。
顎のラインが綺麗だわ。
想像していたより、ずっとハンサムさん。
なるほど。これが遠巻きにされる一位のアイドルさんなのね。
「アンネローゼ様とルーク様は、婚約者同士?
仲良さげだとお見受けするが」
突然なんてことを訊くの、この人は!
「いいえ! 違います!」
わたくしは勝手に好きだけど。初恋だし。
でもご迷惑になるからきちんと否定しなければ!
「そうか。では、私の求婚を受けて欲しい」
え?
セルジューク様はわたくしの前に片膝立てて跪きました。
奇しくもそれは、さきほどピンクブロンドがやった姿勢と同じなのですが。
「私、アスラーン・ミハイ・セルジュークは、アンネローゼ姫に我が妻になって欲しい。ぜひ良き返事を頂けないか」
朗々と響いた美声に、場は静まり返ってしまった。
え。
どうしよう。どう応えるのが正解なの?
確か、この方テュルク国からの留学生で、王族で、多分王子殿下で……。
え? テュルクの王族?
血の気の引く音が聞こえた気がしたわ。
「父に……我が国の国王陛下には、お話を通してますか?」
慎重に返答しないと、大変な事態になる、わ。
「いえ。これからです、が……」
セルジューク様の深い森の色の瞳を覗き込む。彼の真意はどこにあるの?
「テュルク流でのお話なら、お断りいたしますわ。
ここはあくまでもシャティエル王国です。我が国の流儀に則っての妻問をお願いいたします」
きっぱり言い切ってやったわ!
そうしたら。
初めは驚愕。あっけにとられたお顔で暫くわたくしを見つめて。
やがて、じわじわと薄い唇が弧を描いて。
次の瞬間に声を出して大笑いされたわ。
一人、お腹を抱えて笑うセルジューク様に戸惑うわたくし達。
彼の笑いが収まった頃、とても穏やかな表情のセルジューク様は立ち上がり、わたくしの右手を取ると軽く唇を寄せた。
「では、姫のご希望のどおりに」
そう言ってわたくしの手を離して。
わたくしの瞳を覗き込む。
深い森が、わたくしの視界いっぱいに広がる。
そして優雅に一礼すると、踵を返して颯爽と去っていったわ……。
冷や冷やしたぁ……。
連れ去られるかと思いました……。
今頃になって、脚が震えているのを自覚するわ。心臓がバクバクいってる……。
「どういうことですの?
お断りしたのですか?
また改めて出直せと言ったようにも感じましたが」
メルセデス様。おおよそ正解ですよ。
「ティルク流での求婚は、お断りしました。我が国流の求婚なら受けます、と言ったようなものですね、あれでは……」
わたくしの返答にレオニーが首を傾げる。
「? ティルク流と、シャティエル流では違うの?」
えぇ、大違いなのですよ。
もう、脱力してしまって、なんでも考えなしにペラペラ話してしまうわぁ。
「あの国の求婚は厄介ですよぉ。
他部族の娘に求婚したと仮定しましょう。そのとき娘が是と返答すれば、その場で男のところへ嫁入りが決まります。略奪同然に連れ去られます」
「え? その場で? 略奪同然?」
「はい。嫁入り道具もなにもなく、身一つでの嫁入りです。
どちらかというと誘拐に近いです。……さすがにそれはご免被るので」
「否と答えたら?」
「嫁候補は連れ去られます。そして部族間戦争になります」
「「「へ?」」」
「嫁候補は求婚に立ち会っていた第三者に預けられ、彼女の行方は力で争って、決めます」
さっきの場合だと、あのオレンジ頭の従者に連れ去られてたってことよね。
「求婚を断っただけで? 戦争?! しかもやっぱり連れ去られるの?」
「はい。ですが、今はそこまで物騒なことにはならないと思いますが……。
戦争の火種もご免ですので、あのような答え方になってしまいました」
彼の真意や思惑はどうあれ、取り敢えず、引き下がってくれてホッとしたわぁ。
「ローゼ! なに呑気に解説してるんだ!! 一大事じゃないかっ!
早く城に帰るよ! 陛下に報告しないと!!
キャサリン!」
「はっ!」
わたくしは、ルークお兄様とキャシーに両脇を抱えられるようにして速攻で城に連行されたのでした。
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