王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

文字の大きさ
40 / 68

学生自治会、発足

しおりを挟む
 
 わたくしは放課後、ここ、黄昏のサロンを作戦司令本部として春の学園祭りに向けて始動したの。
 メンバーは一年専科クラスの有志とメルツェ様、クラーラ様、そしてアスラ―ンと彼の相棒(?)カシム・チェレビ・マクブル様。

 全学生に今回の祭りの趣旨と出展希望者を集う旨の通知から始まり、講堂前にブースを幾つか設置する為のテントの購入。
 出展責任者たちにそれぞれ出展申請書を提出させて許可証を配布。
 前日までに設営するよう指示する為の説明会。
 設営する為の人員の確保。

 もちろん、学園長先生始めとする先生方とも優雅に話し合って(最初は渋られたわ。学生の本分は勉学であるとかなんとか)、全責任はわたくしが負うと啖呵を切って許可をもぎ取り、どうせなら先生方も巻き込んでのお祭りとしましょう! となって。

 歌を披露したいという申し出を受け、大きな舞台を設置することにして、ついでに舞台を使った催し物ができる学生を募集すれば、楽器演奏から手品から、希望者がまぁ来るわ来るわ!
 本当に楽しみになってきたわ!

 ついでに。
 日頃、自分たちの好きな研究をする為に放課後残っていた学生が、研究の為の専用教室の許可を学園側に取って欲しいという要望に応えたりしたわ。
 空き教室は沢山あったもの、特に別館に。
 学園長先生とわたくしの名前とで許可が下りたそれをファイリングしたときから、ここは『学生自治会』として発足されたらしいわ。
 そしてわたくしは初代会長。
 一年生なのに、いいのかしら。
 でもわたくしが一番物事をスムーズに動かせるのよね。

 こういうのを独裁っていうのじゃないかしら。

 そういえば、女子の制服着用率は100%になったわ。悪貨は良貨を駆逐するってこういう時に使う言葉だったかしら。ん? 逆?

 そして気がついたこと。
 我が一年専科クラスは優秀な人材の集まりだったわ!
 この子たち、今すぐに王宮で働けるのでは? と思うほど、男子も女子も打てば響くような有能な子たちばかりよ。
 わたくしが望むものを望む形で提供してくれるの。びっくりよ。

 そしてもう一点気がついたこと。
 メルツェ様のこと。

 もしやアスラーンのことがお好きなのでは? って疑ったこともあったけど、あれは違うわね。
 メルツェ様の視線の先はカシム様にあったわ。
 なに気なく、さり気なく、視線がカシム様を追いかけているのだもの。

 まるで少しまえの、わたくしが遠くのアスラ―ンを目で追っていたときのように。

 あの特徴的なオレンジ頭の、アスラーンと行動を共にする留学生。
 わたくしは彼もテュルク国の王族と踏んだのだけど、正解だったのかしら。
 アスラーンの従者といった雰囲気が強い彼は、誰と話をしていてもアスラーンを優先する。
 まるでわたくしを優先するメルツェ様のようだけど、メルツェ様としては自分と話をしていてもアスラーンが呼べばそちらへ行ってしまうカシム様にちょっと思うところがあったのではないかしらね。
 それで、アスラーンに対して八つ当たりしていたってことだと思うわ。

 んん? ということは。
 メルツェ様を慕う殿方の誰かは、わたくしに対して業腹な気持ちを抱いている可能性もあるってことよね。

 ……あまり彼女を独占するのもいけないことね。気をつけましょう。






「アンネローゼ。学園でおもしろいことを始めたと聞いたよ?」

 年越しパーティーが始まるまえにお会いしたお兄様の第一声がこれでしたわ。

「あら、お兄様。ごきげんよう、良い夜ね。今年最後のお兄様はいつもどおりとても素敵よ」

 軽くハグしてお兄様を褒める。

「君もね、アンネローゼ。夜の女王のようだよ」

 今晩のわたくしの衣装は黒を基調としたイブニングドレス。
 裾の方は黒いのだけど、段々と上に向かって藍色から紺色に変わり、散らばせたスパンコールが星のように煌めくる夕闇のドレスよ。
 ハイネックでノースリーブだから胸元は隠しているけど、肩は剥き出しで寒いのよね、これ。
 背中も深い作りだから髪をおろして露出を隠しているわ。

「あら? お義姉様は?」

「今回はお休み。体調が良くなくて」

「……もしかして? 三人目?」

「当たり。まだ内緒だよ?」

 唇に人差し指を立ててウィンクするお兄様。
 内緒といってもバレバレなのでは?
 お兄様がお義姉様を溺愛しているのは周知だし、今晩の年末の夜会に出席しないというのは、まぁ、それなりの理由だと思われるもの。

「おめでとう、お兄様。
 落ち着いたらお見舞いに伺いたいわ。お手紙なら受け取っていただける?」

「おまえならいつでも大丈夫だと思うけど、一応、訊いておくよ。
 それでね、アンネローゼ。君、僕の名前を使ってやりたい放題って聞いたよ?」

 あらあら。なにをお耳に入れたのかしらね。

「ヨハンが入学するまえのほんのささやかな露払いよ」

 わたくしのしたことと言えば……。
 学園にわたくし専用サロンを作って、学生自治会を作って、学生の専用研究室を用意させて、イベント運営計画?

 そうね。なかなかの『やりたい放題』かも?

 感情の見えない目でわたくしを睨んでいるお兄様。
 いいえ。王太子殿下として、わたくしを睥睨しているのね。

「だって、お兄様……わたくし、お祭りが見てみたかったの……」

「お祭り?」

「そうよ。年越しのお祭りが1番賑やかなのだと聞いたわ。
 でもわたくし、王都で暮らしながらまだ見たこともなかったの。
 お兄様もそうかもしれないけど……。
 わたくしなんて特に、王女だもの。守られるべき人間だもの。
 お祭りをこの目で、直に、体験することは叶わないわ。
 警護のみんなにも城下町の人たちにも迷惑かけちゃうものね。
 それは、よく理解しているもの、大丈夫よ?
 でも、学園なら!
 自分たちの手で創り上げたモノなら、体験できるでしょう?
 クラスの皆と……いいえ、クラスも学年も超えて、学園の皆と一緒に創り上げる、学園内でのお祭りよ!
 三年生の卒業式の日に合わせて開催する予定なの。お兄様も当日、わたくしと一緒に見ていただけないかしら?
 ……だめ?」

「学生自治会、か」

「やってみたいの。どこかから、苦情でも寄せられて?」

「王女にこれほどのバイタリティーと計画性とカリスマがあるとは……と驚かれは、した」

「カリスマ?」

「君の人を魅了する力、とでも言えばいいかな。号令一つで学園中が動いたそうじゃないか」

 そうだったかしら。

「祭り、とやらは毎年恒例にするつもりかい?」

「そうしたいけど……。まずは第一回を成功させてからね。それから第二回があるかどうか検討するわ」

「アンネローゼの私財で作らせた部屋サロンはどうする? 君の卒業と同時に解体か?」

「まさか! そのまま寄付するわ。
 後輩たちが使えばいいもの。そうね、学生自治会室として使えばいいと思うわ」

 お兄様の愁眉がやっと開いたのを見てホッとする。
 これは正式に許可が下りたとみていいわね。

 とはいえ、学園のみんなには『お兄様が必ず是と答える切り札を持っている』なんて大見得切っちゃったものね。いまさらここでいいえと言われても困ってしまうわ。

 ……ま、いざとなったらわたくしの本当の切り札、お義姉様にお縋りするつもりだったけど。ふふっ。

「ヨハンの入学はちょうど君が卒業後になるが、彼にはなかなか高いハードルになるかもね」

 ……露払いよ。
 ほんのささやかな、ね。

「さて。では今夜はホステスとして頑張って貰おうか。君のからね。頼んだよ」

 え?
 お兄様、今なんと仰いまして?



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

変人令息は悪女を憎む

くきの助
恋愛
「ブリジット=バールトン。あなたを愛する事はない。」 ああ、ようやく言えた。 目の前の彼女は14歳にしてこれが二度目の結婚。 こんなあどけない顔をしてとんでもない悪女なのだ。 私もそのことを知った時には腹も立ったものだが、こちらにも利がある結婚だと割り切ることにした。 「当初話した通り2年間の契約婚だ。離婚後は十分な慰謝料も払おう。ただ、白い結婚などと主張されてはこちらも面倒だ。一晩だけ付き合ってもらうよ。」 初夜だというのに腹立たしい気持ちだ。 私だって悪女と知る前は契約なんて結ぶ気はなかった。 政略といえど大事にしようと思っていたんだ。 なのになぜこんな事になったのか。 それは半年ほど前に遡る。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

処理中です...