王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

文字の大きさ
57 / 68

学生会の面々とアスラーンとわたくし

しおりを挟む
 
 やいのやいのと皆が騒ぐ中で、アスラーンがわたくしのところに来て聞いたの。

「ところでアンネローゼ。花は届いているか?」

 え? それは、あの梟に届けさせていた花のことかしら。
 アスラーンの突然の問いに、今まで賑やかだった室内がシン……と静まり返ったわ。

「いいえ」

 お花、来ていないの。
 あんなに毎日来ていたのに。
 だからこそ、余計に部屋に閉じ籠ってメソメソしていたのだけど。

「あぁ、なるほど。ヘルムバート殿下のせいか」

 アスラーンが苦い顔で溜息を吐く。

「え、待って。あの、正式にわたくし宛てにお花を贈ってくれてたの?」

 梟に贈らせたのではなく、普通に、宮殿へ贈ってくれてたの?

 わたくしが尋ねると、アスラーンはなんとも形容しがたい顔をしたわ。
 そうね、笑っているのに怒ってて泣いているようにも見える顔。

「本当に、正攻法は悉く潰してくれる……」

 頭を掻きながらため息をまたひとつ。アスラーンはなにをしていても絵になるわね。

「え? どういうことですか?」

 わたくし達の会話を聞いていた学生会の面々が話に加わった。

「おまえら、聞いてくれ。俺の涙ぐましい努力を!
 おまえらも知っているとおり、俺はアンネローゼに求婚した。
 俺がテュルク国の民であるせいで、余計な心配もかけたようだが、あれは古い慣習で、今はさすがに誘拐犯として捕まるのが現状だ。
 だからもう心配しなくていいからな!」

 どこかの集会で号令をかけている扇動者みたいなアスラーンだわ。

「それで、だ。
 俺はアンネローゼに求婚したあと、シャティエル国の上層部へも婚約の申し込みをしたんだ!
 正式な使者を立てて!
 だというのに、何度使者を送ってもなんの返事も無い。
 良いとも悪いとも返さない。
 アンネローゼのデビュタント用に我が国特産の真珠をふんだんに使ったティアラを献上した!
 真珠で作られたネックレス!
 ピアス!
 ブレスレット!
 髪飾り!
 その他、思いつく限り、ありとあらゆるお飾りを贈った!
 だというのに、シャティエルの奴ら、なんの返事もしやがらねぇ!
 いや、そのときは返事はあった!
『確かに受け取りました、ありがとうございました』という返事だ!
 俺の聞きたかった内容ではない!
 国王陛下への謁見も申し込んだが、それも梨の礫だ!
 業を煮やした俺は、外務省経由でベッケンバウワー公爵にお願いして、なんとかアンネローゼが社交界デビューするパーティーの招待状を手に入れることに成功した!
 あぁ、アンネローゼ。公爵はとんでもなく黒い男だぞ?
 あれは敵に回しては駄目だ。味方なら心強いがな。

 諸君も既に知っているだろうが、そのパーティー会場でやっと、俺はやっと、アンネローゼから婚約者候補という肩書を貰うことができた!」

 おぉーーー!
 頑張りましたね! アスラーンさま!
 やりましたね! おめでとうございます!

 ……なぜか、ヒューヒューと口笛が鳴り、拍手が沸き上がる。みんな、ノリが良すぎるのではなくて?

「だが、相変わらずシャティエルの上層部は俺に冷たい。
 アンネローゼに面会できないか、何度俺が申請したか知っているか?」

 いいえ、知りませーんの声。

「デビューの翌日から毎日一回は申請していた!
 だから年末パーティーのその日まで三十回以上だ!」

 うわぁ、根性あるぅ……の声。

「学園ではあの鉄壁エーデルシュタインのせいでろくにアンネローゼに近づくことができない!
 やっとこの部屋に入るくらいは認可されたが、俺がどれだけ焦れたことか!
 そしてシャティエルの上層部がやっと呼んでくれた年末の年越しパーティーではアンネローゼの婚約者候補が二人も余計にいたんだぞ?
 俺のショックを分かってくれ!」

 え? それは知らなかった、確かにショックだ、どこの誰が候補だったんですか? の声。
 みんな、知りたがるわね。

「アラゴン王国の王弟殿下とハザール・ハン国の第二王子殿下だ。この第二王子は来年度この学園に留学するかもしれないぞ」

 恋敵登場か! と騒ぐ皆。
 違うわよ。恋敵なんかじゃないったら。あの子はただ魔鉱石を調べたいだけよ。

「なんとかその二人は追い払ったがな!
 追い払ったのはアンネローゼだがな!」

 おぉ?! と賑やかになる。
 拍手と共にさすがアンネローゼ様! の声もかかる。

 ……カオスだわ。

「やっと邪魔な候補どもを追い払ったと思ったら、アンネローゼは俺を見て悲鳴を上げて逃げるし、皆は俺のことを変質者呼ばわりするし、地味に傷ついていたんだぞ?
 しかも、アンネローゼへ贈っていた花は、王宮では無かったことにされたらしく、本人には認知されていないし……」

 がっくりと肩を落とすアスラーン。
 なんて言えばいいのかしら。いろいろと身内が、いえ、わたくしも、ごめんなさい……。

「なんか、アスラーンさま、可哀想ですね」
「頑張っているのにね」
「すいません、黒い虫呼ばわりしてしまって」
「悪気はなかったんですが……変質者認定していました」
「本物の変質者がいたせいで、過剰に警戒してしまったんです! すいませんでした! アスラーン様は本物じゃありませんから!」
「そうですね。メルセデス様も、ちょっと、アスラーン様に厳し過ぎますよねぇ」
「うん。せめて、俺らくらいの距離なら、ローゼさまの側にいても許してもらおうよ」
「うん。アスラーン様、気の毒過ぎる……正攻法が悉く遮断されるって、どうにもなんないじゃん」
「私たちくらいは、ローゼ様とアスラーン様の応援をしてあげてもよくない?」
「うん。アスラーン様、可哀想が過ぎるもんな」

 気の良い学生会の面々が賑々しく話している陰で。

 アスラーン。
 貴方、その右手の拳なにかしら?
『よし!』ってこっそり呟いたでしょ。わたくし聞こえていたわよ?

 なるほど。学生会彼らを味方につけたのね。
 アスラーンが言うところの『鉄壁』メルツェ様がカシム様によって退出している現状を上手く使って。
 抜け目無いわね。そういうの嫌いじゃないわ。

 そうね。せめて学園内では普通にお喋りしたいもの。

 でも。
 貴方、もうすぐ卒業してしまうのよね。そうしたら帰国するのでしょう?

 卒業まで、あとほんの二か月しかない。

『ひとつ、提案があるのだけどね。『候補』を取れば、物思いの負担がひとつ減るのでは?』

 お義姉様のお声を思い出す。

『そう。堂々と会える立場になれば、警備の隙をついて会う必要も無いでしょう?
 それとも、こっそりと隠れて会う事によるスリルを楽しむ恋愛をしているの?
 違うでしょ?
 貴女には、誰かから隠れる後ろ暗い恋なんてして欲しくないわ。
 誰にも後ろ指差されない、堂々とお日様の下で手を繋いで歩いて祝福される恋をして欲しい。
 彼が帰国しても、確かな繋がりになるわよ?』

 帰国しても、確かな繋がりになる……それが『婚約者』という立場。

 そうね。確かにそうだわ。
『候補』のままだったらどうにもならない。
 せめて王宮でのお茶会に呼びたいわ。一緒にお茶して、お喋りして……。

 あのお父様やお兄様が、わたくしがお願いしたくらいで言うことを聞いてくださるかしら?

 ……くれなさそうだわ。
 他国の使者にさえのらりくらりと返事をしないお父様なら、わたくしがお願いしたところで黙殺されるのが関の山ね。

 了承して貰うにはどうしたらいいのかしら。
 アスラーンが『婚約者候補』の肩書を持つに至ったのは、デビューパーティーで、わたくしが大勢の人の前で宣言したから。
 多数の証人、それも国の重鎮を始め他国の大使がいたからこそ、取り消すことができなかったのだわ。
 あのときに『婚約者』と言ってしまえば良かったのに!
 わたくしのバカばか馬鹿!

 でもあのときはアスラーン本人が『婚約者候補にしてくれ』って言ったからなのよ?
 アスラーンも悪いのよ?

 またパーティーで宣言する?
 丁度いい規模のパーティーが近々にあったかしら?

 ……いいえ。いい機会があるわ。

 卒業式と卒業記念祭。
 卒業生の親御さんが、つまり地方領主たちが列席してくれる手筈になっているわ。大臣たちも。
 なんと言っても我が国初めての王立貴族学園の記念すべき第一回卒業式ですもの。
 わたくしの計画した卒業記念祭も噂になっているというし。
 国王陛下であるお父様はどうか分からないけど、名誉総裁であるお兄様は間違いなく臨席するわ。

 その時が狙い目ね。

 みてらっしゃい。お父様やお兄様の良いように扱われるわたくしではなくてよ!





「なんか……ローゼが燃えてる」
「なにやら、脳内で画策してますね」
「なにはともあれ、いつものアンネローゼ様に戻ったみたいで良かったな!」
「アスラーンさまは、そんなローゼさまをニコニコと見守ってらっしゃる……おふたりが尊い……」
「畜生……メルセデスさまぁ……えぐえぐ」
「諦めろ、おまえの手の届く方じゃない」


 学生会は今日も平穏無事、と日誌には記入されたのだった。






◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
学生会のモブちゃんたちを書くのが楽しいのデス☆
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...