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本編
2.運命の出会い
そんなこんなで日々を過ごしている内に、いつの間にか始まった初等部三年。15歳になったばかりのある日。
ファンクラブの子たちに囲まれる毎日もいいけれど、たまにはひとりになりたい時もある。孤独になれる場所を求めた俺は、何気なく訪れた学園の屋上でひとりの女子学生を見つけた。
その子は簡易椅子に腰かけて、屋上からの風景を一心不乱に描いていた。
ひとつに結んだ真っ直ぐな長い黒髪が綺麗な女子だった。どんな絵を描いているのだろう。好奇心に駆られた俺は、音をたてないように忍び寄り、彼女の背後に立って手元を覗き込んだ。
驚いた。
こんな手法は初めて見た。色がない。その筆から黒一色、それの濃淡だけで描き切る世界は、どんな絵の具を使うより繊細で鮮明な光と影を写し取っていた。
なんだこれ。
凄い。凄過ぎるだろう?
「凄いな、こんな絵、初めて見た」
「ひゃっ!」
俺が彼女の真後ろから声をかけたせいか、驚かせたようだった。
振り返った彼女はエプロンをして制服が汚れるのを防いでいたけど、首元のリボンはアイスブルーの色。初等部二年生だった。
初めて見る女の子だった。
オニキスのつぶらな瞳が俺を見上げる。びっくり眼が可愛い。
と、思ったら。
彼女はいきなり画板を閉じ、絵筆を片付け始めた。素早く簡易椅子を畳むと道具一式を持ち、俺に一度、一礼するとその場を立ち去った。
……え?
あっという間の出来事だった。
「……逃げられ、ちゃった?」
驚かせたか?
悪いこと、しただろうか。
彼女がせっかく描いていた時間を邪魔してしまっただろうか。
なぜ、逃げたのだろう。
俺は、怖い人間だと思われたのか?
人前で描くのは苦手だったから? 実はこっそり描いていて、絵を描くのは家の人に快く思われていないから?
人に知られたくなかった?
彼女の描いていたモノクロの絵に対する衝撃と共に、俺はその日ずっと、あの黒髪の二年生のことを考え続けた。
帰宅し、その日の寝支度まで整えベッドに横になってから気が付いて愕然とした。
彼女は俺を見ておきながら何も声をかけずに立ち去った。にこりともしなかった。
そんな女の子、初めて会った。
大概の女の子は、俺を見て笑顔になる。気さくに声を掛けてくれる。友だちに、もしくは彼女にして欲しいと訴える。そうしなくても、頬を染めて俯いたり、何かしら俺に対して好意的な動作をするものだ。
でもあの子は、そのどれをもしなかった。
俺に見惚れぬばかりか目も向けず、すごい勢いでおじぎをして立ち去った。
俺をオリヴァー・フォン・ロイエンタールだと気が付かなかったから?
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黒髪にオニキスの瞳のあの子は、黒一色の絵を描いていた。
黒の乙女。
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