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本編
15.だいさんせいりょく
しおりを挟む翌日には意識も戻り、ちゃんと目も開いた。
信じられないくらいぐっすり寝た気がする。おじいちゃん先生(高名な王宮医師だった!)に問題なしと診察されたあと家に戻り、途轍もなく激しい筋肉痛に悩まされ2日ほど学園を休んだ。母上とイザベラがいつになく優しくて嬉しかった。
で。
結果として、俺の目論見は……うん、大筋では俺の目論見どおりになった。もてない野郎どもは賞賛まじりのヘイトを俺に寄越すようになった。なんせ、俺は、去年今年と二年連続剣術大会の優勝者を地面に叩きつけた唯一の男になったのだから! その上、トーナメントベスト8! 立派な成績だと思うぞ? 一目置かれる存在っていうのか? それに成れた。
そして。
シェーンコップ先輩は、本気で俺を転科させたいらしく、暇を見つけては俺のクラスに来るようになり。
なぜか、流れで俺のファンクラブミーティングに顔を出すようになり。
なぜか、女生徒に囲まれた俺の隣で、今、茶を飲んでいる。
週に一回、日常化しつつある。解せぬ。
そして腹立つことに、こうして俺の隣に並ばれると、どうしても俺が引き立て役になってしまう。俺と比べれば、間違いなく“大人の男”の魅力が溢れ捲りなシェーンコップ先輩。俺より一回りデカいもんなぁ。比べちゃうと、俺の線の細い様が良く解るようで。ちくしょう。先輩は筋肉量も半端ない。こっそり腹筋を触らせて貰ったところ、きっちり割れてた。俺はまだまだだと解った。ちっ。続けるぞ、鍛錬。
で、だ。
結果、ファンクラブの三分の一がシェーンコップ先輩のファンに転身した。
「なんでこの会に顔を出すんですか?」
「お前が変な誤解をするからだろう」
あぁ、あれね。“お前の方が興味深い”って言ったあれのせいだからね! 先輩、そっちの人? って思わず訊いちゃったんだよ。
「“そっち”じゃないという証明に、女生徒に愛嬌を振り撒いている。あわよくば、婿入り先も募集中だ」
そう言ってにっこりと笑う先輩。いい笑顔だ。それを見た女生徒が何人か真っ赤な顔して口元を抑えて倒れ伏した。
そうなのだ。
あの試合中、俺はシェーンコップ先輩に黒姫狙いかと訊ねた。あれは失敗だった。早計だった。確かに俺はラインハルトさまから『“銃騎士”が婿養子先を探している』という情報を得ていた。だがそれをクルーガー伯爵家だと思ったのは、流石に勇み足だった。早合点だった。
お陰でネチネチといたぶられている。
「貴族家など、五万とあるのに、黒姫のところだと直結して考えたのは、お前がそうだからだな」
なんて、嬉しそうに俺の耳元で囁くシェーンコップ先輩。
その度に、なぜかそこここで、きゃーーと黄色い声があがる。
そう、俺のファンクラブ、今、瓦解し始めている。
三分の一が、俺のファンを続けている。
三分の一がシェーンコップ先輩のファンに転身。
そして残り三分の一が、第三勢力になった。つまり、俺とシェーンコップ先輩がこうして内緒話していたり、目配せしたり、肩組んだりすると喜ぶ子たちになってしまったのだ。解せぬ。
◇
「あぁ、それはあの試合の後、クラウスが意識不明になったお前を“お姫さま抱っこ”で運んだせいだろう」
「え」
いつかのように学生会室で、ラインハルトさまと雑談しつつ、メンドクサイ書類整理をしていたところ、彼がサラリと溢すとんでもない発言に目が点になる俺。
「クラウスはそのまま本校舎の保健室にお前を運んだから、その姿を見た女子学生は多かっただろうな。お前が倒れた後、血相変えたジークがその後ろを追っていったから……一部の女子学生たちの更なる妄想の餌食になっていることだろう」
くつくつと笑うハニーブロンドも麗しいラインハルトさま。
いいんですか? あなたの大切な弟も更なる妄想の餌食とやらになってるのに?!
「ご自分がネタにされていないから、そう余裕ぶっこいていられるんですよ! シェン先輩とラインハルトさまがあらぬ仲だと噂されるようになっても、そう仰るんですか?」
慌てる俺にラインハルトさまは事も無げに言う。
「私とクラウス? ……ふふっ。面白いね。多少の娯楽の提供くらい、まぁ、有名税という奴だな」
ほんと、俺、ラインハルトさまの懐のデカさというか、お見通し力というか、それらには敵わねぇと思うんだよね……。この人の方がよっぽど“アイドル”だよ……。
「もしかしてオリヴァーは、優勝を目指してたのではなく、“銃騎士”クラウスと戦いたかったのか?」
書類に目を通しながらラインハルトさまが俺に問いかける。やっぱりお見通しだ。
「……あー、いや、あわよくば、狙ってはいましたよ? でも、……はい」
自分で言うのもなんだけど、俺は剣のセンスもあるからある程度は出来るだろうと思っていた。だが所詮、数カ月特訓しただけの付け焼き刃だ。体力面が一番の不安要素だった。
そして、負けるならあの優勝候補の“銃騎士”だろうと簡単に推測できた。だから、できるだけトーナメントの上位で戦いたかった。トーナメント二回戦で巡り合うなんて、俺はついてない。
ま、逆に言えば“銃騎士”以外に負ける気はさらさらなかったけどな!
「確かに、最短で名をあげるには、うってつけの相手だ。それを、……ふっ、投げ飛ばすとは、ね」
ラインハルトさまが楽し気に笑う。
「オリヴァーのおかげで、騎士科の剣術試合の在り方が変わりそうだよ。今の試合形式は、古来からの決闘形式を引き継いでいる。だが時代遅れだ、これからは、より実践に近い形にした方がいいという意見が出てきた」
へぇ。
その意見出した人、俺知ってる気がする。腹筋八つに割れてる銃騎士さんだよね。
「オリヴァー。お前はやること為すこと、破天荒だ。だからこそ、お前には…………いや、詮無いことだな」
そう言ったラインハルトさまは、今度は寂しそうに笑った。
◇
剣術大会は終わったけど、王都守備隊の鍛錬場通いは週一で続けている。何故かそれにもシェーンコップ先輩が付き合ってくれる。うん? もしかして俺に付き合ってる訳じゃなく、自分の就職活動なのかも? 嬉しそうにウォルフ先輩と話している姿を見るとそう思う。
……第三勢力の女子学生たちに、ウォルフ先輩の存在を教えようかねぇ……。
◇
そして。
「オリヴァーさまのお覚悟、しかと拝見いたしましたわ」
ある日の放課後、俺はファンクラブの会長こと、エルフリーデ・フォン・ゼーゼマン伯爵令嬢と話をした。エルフリーデ嬢は俺の一つ上で現在高等部二年生。アーデルハイド王女殿下のシュヴェスターの姉でもある。
「ご相談頂きました件、きちんと承ります。確かに、オリヴァーさまに幸せになって頂きたい……ファンクラブ全員の総意でもありますもの。……えぇ、そう思い至れて……良かったですわ」
儚げな笑顔を浮かべるエルフリーデ先輩。
「俺も、みんなの幸せをいつも願っているよ」
「ふふっ……恐れ入りますわ」
彼女を馬車乗り場までエスコートした。
ゼーゼマン家の馬車に乗り込み、車窓を開けたエルフリーデ先輩が言う。
「でも……わたくしが何をするでもなく、収束しそうな気も、いたしますのよ?」
「え?」
「黒姫は素敵な方ね。わたくしもあの方のファンになりましたもの」
ゼーゼマン家の馬車は走り去った。エルフリーデ先輩の謎の言葉を俺に残して。
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