俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~

あとさん♪

文字の大きさ
21 / 37
本編

21.デビュタントのダンスパートナー

しおりを挟む

 本当に久しぶりにブリュンヒルデと二人きり。
 彼女に俺の片腕を貸してエスコートしていたが、ひとりで歩ける大丈夫だと頑なだ。先程咳き込んでいたのは本当だ。風邪の引き始めかもしれない。無理をしていないといいのだが。

「ご心配おかけして、申し訳ありません。本当に、大丈夫です。誤って紅茶にむせてしまいまして……」

 どうやら、本当に具合が悪いわけではなさそうなのだが……どうにも、この言い訳の仕方に既視感がある。気になる。

 だが、寮迄の道のりは短い。すぐ目的地に辿り着いてしまう。今は追求するよりこのチャンスを有効活用する方を優先しよう。

それとなくデビュタントの話を振った。話題を変えたかったらしいブリュンヒルデは、すぐその話に乗ってきた。彼女は、秋の初め、王宮で今期初めて行われる夜会でデビューするつもりらしい。有益な情報ゲットだ!
 と、思ったら。

「わたくしの社交界デビューに合わせて、父が王都に来ると約束してくださいましたの。わたくしの為とはいえ申し訳ないのですが、やっぱり嬉しくて! 久しぶりに会えますもの。母も来てくれるとかで……」

ブリュンヒルデは、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「あー。やっぱり、お父上がデビュタントパートナーを?」

「はい」

 うん。いい笑顔だ。
 パートナーを俺にしてくれ、なんて言いだし辛い。俺はクルーガー伯爵とは、つい最近、婚約を打診した時に会ったけどね! 伯爵が王都に来ていたことはブリュンヒルデには内緒にしてくれと言われている。……なんか、最近誰かの何かを口留めされること、多くね? いや、誰にも言う気はないけどね。秘密抱えるのもなかなかシンドイのよ?

 しかし、久しぶりの親子の逢瀬を邪魔するのは気が引ける。何より、ブリュンヒルデのこの笑顔は貴重だ。ほんと、最近素直ないい笑顔を時折するようになったんだから! 本当に可愛いんだからね!(誰に言ってるのだ俺は)

やっぱり第二案だな。パートナーは諦めて、セカンドダンスの予約! 舞踏会で女性が手首に下げている手帳はダンスパートナーの申し込み一覧だ。何曲目に誰と踊るのか記されるそれが、俺は欲しい。出来れば最初から最後まで俺の名前で埋め尽くしたい!!

 デビュタントはファーストダンスをパートナーと踊って、国王陛下にご挨拶の顔見せをしたら、ほぼ終了! あとは好きな相手と好きなだけ踊ればいい。食事をするもよし、顔つなぎの為の挨拶回りでもよし、なんなら帰ってもいい。
 出来れば、ずっと俺と過ごして欲しいけど。仲間内で過ごすなら、せめて、その仲間に俺も入れて欲しい。家族と過ごすというのなら、俺も一緒に過ごさせて。お母上にもご挨拶したいし! きっと向こうも愛娘の求婚者おれを見たいに違いないし!

「じゃあ、ブリュンヒルデ。ファーストダンスが終わったら、セカンドダンスを俺、予約してもいい?」

 この一言をいうのに、俺がどれだけの平常心を搔き集めたことか!!!

 心臓は勝手に全力疾走してばくばくするし、手には変な汗をかくし、背中には冷や汗が流れているし、胃の腑がキリキリと痛むような気がするし、心なしか右手首の古傷が疼くような錯覚までも起こるし、でも顔は平常を装って笑顔の仮面を張り付かせて、なんてことないよってフリをするのに忙しいったらありゃしない!

 だというのに!
 困ったように眉毛をへにょんと下げ、ブリュンヒルデが申し訳なさそうに言う。

「あー、申し訳ありません。セカンドダンスはラインハルト殿下とお約束しておりまして……」

 え。
 なんですと? まじか。え? なんでラインハルトさまが?

「以前……去年度だったかしら、ラインハルトさまがご卒業する前に、アーデルハイド殿下とお茶会をしたときに、殿下が初等部まで顔を出してくださいまして……、その時に、光栄にもお約束を賜りました」

 おぅっ……なるほど? ハイジ殿下いもうとと確執があったから、お兄ちゃんとしては特別に目をかけたってことかな?
 卒業して王太子として叙任されたラインハルトさま。彼が自分の婚約者の次に踊るのが、その婚約者のシュヴェスターだなんて、いい話題だし、ブリュンヒルデにも誉れある有難いお話だ!

 くっ! 憎いわっラインハルトさまってばっ(涙)いいとこ取りじゃないっすか! ヒドイじゃないっ! の気持ちも考えてよっ……いかん、ほんと最近ストレス溜まってる。脳内で女言葉になりがちだ。気を付けねば。気を取り直して。

「ラインハルトさまと! いいね! ……あぁ……じゃあ、サードダンスは? もう予約埋まってたり、……する?」

 いつもの強気で押せない。
 もしここで、もう予約済だなんて言われたらどうしよう。

 とっくに女子シュネー寮に着いていた。なんて短い道のりだ。もう二人きりの時間が終わる。
 玄関の前で立ち止まり、俺を見上げるブリュンヒルデ。長い黒髪が揺れる。

「……いいえ。まだです。わたくしと、踊ってくださいますか?」

 なんと! 彼女の方から提案してくれた! 胸の中に花が咲き乱れるように嬉しい!! 

「うん! 喜んで!」

 俺がそう言うと、ふわりと柔らかい笑みを見せてくれた。
 可愛い。

「こちらこそ、ありがとうございます。宜しくお願いします。では、ごきげんよう」

 そう言って軽く会釈をし、玄関を開いて中へ消えたブリュンヒルデ。

 やった。
 やったぞ!
 サードダンスだけど、彼女と踊れる! やったぁ!!

 ……あれ?

 今、誘われなかった? はっきり言葉にして誘ってくれたのはブリュンヒルデだったよね? 俺、誘っていないよね? ダメじゃん! 

 女の子に誘わせるなんて……なんてこったい。

 ブリュンヒルデってばっ、自分から誘っちゃうなんて、なんておとこらしいのっ、……もぅっ素敵なんだからっ(やけくそ) 
惚れ直しちゃったじゃない!
こんなんだからアタシが脳内で乙女化しちゃうのねっ



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

呪われた姿が可愛いので愛でてもよろしいでしょうか…?

矢野りと
恋愛
我が国の第二王子が隣国での留学を終えて数年ぶりに帰国することになった。王都では彼が帰国する前から、第二王子の婚約者の座を巡って令嬢達が水面下で激しく火花を散らしているらしい。 辺境の伯爵令嬢であるリラ・エールは王都に出向くことは滅多にないので関係のない話だ。 そんななか帰国した第二王子はなんと呪われていた。 どんな姿になったのか分からないが、令嬢達がみな逃げ出すくらいだからさぞ恐ろしい姿になってしまったのだろうと辺境の地にまで噂は流れてきた。 ――えっ、これが呪いなの?か、可愛すぎるわ! 私の目の前の現れたのは、呪いによってとても愛らしい姿になった第二王子だった。 『あの、抱きしめてもいいかしら?』 『・・・・駄目です』 私は抱きしめようと手を伸ばすが、第二王子の従者に真顔で止められてしまった。 ※設定はゆるいです。 ※5/29 タイトルを少し変更しました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

処理中です...