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本編
21.デビュタントのダンスパートナー
しおりを挟む本当に久しぶりにブリュンヒルデと二人きり。
彼女に俺の片腕を貸してエスコートしていたが、ひとりで歩ける大丈夫だと頑なだ。先程咳き込んでいたのは本当だ。風邪の引き始めかもしれない。無理をしていないといいのだが。
「ご心配おかけして、申し訳ありません。本当に、大丈夫です。誤って紅茶に咽てしまいまして……」
どうやら、本当に具合が悪いわけではなさそうなのだが……どうにも、この言い訳の仕方に既視感がある。気になる。
だが、寮迄の道のりは短い。すぐ目的地に辿り着いてしまう。今は追求するよりこのチャンスを有効活用する方を優先しよう。
それとなくデビュタントの話を振った。話題を変えたかったらしいブリュンヒルデは、すぐその話に乗ってきた。彼女は、秋の初め、王宮で今期初めて行われる夜会でデビューするつもりらしい。有益な情報ゲットだ!
と、思ったら。
「わたくしの社交界デビューに合わせて、父が王都に来ると約束してくださいましたの。わたくしの為とはいえ申し訳ないのですが、やっぱり嬉しくて! 久しぶりに会えますもの。母も来てくれるとかで……」
ブリュンヒルデは、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「あー。やっぱり、お父上がデビュタントパートナーを?」
「はい」
うん。いい笑顔だ。
パートナーを俺にしてくれ、なんて言いだし辛い。俺はクルーガー伯爵とは、つい最近、婚約を打診した時に会ったけどね! 伯爵が王都に来ていたことはブリュンヒルデには内緒にしてくれと言われている。……なんか、最近誰かの何かを口留めされること、多くね? いや、誰にも言う気はないけどね。秘密抱えるのもなかなかシンドイのよ?
しかし、久しぶりの親子の逢瀬を邪魔するのは気が引ける。何より、ブリュンヒルデのこの笑顔は貴重だ。ほんと、最近素直ないい笑顔を時折するようになったんだから! 本当に可愛いんだからね!(誰に言ってるのだ俺は)
やっぱり第二案だな。パートナーは諦めて、セカンドダンスの予約! 舞踏会で女性が手首に下げている手帳はダンスパートナーの申し込み一覧だ。何曲目に誰と踊るのか記されるそれが、俺は欲しい。出来れば最初から最後まで俺の名前で埋め尽くしたい!!
デビュタントはファーストダンスをパートナーと踊って、国王陛下にご挨拶の顔見せをしたら、ほぼ終了! あとは好きな相手と好きなだけ踊ればいい。食事をするもよし、顔つなぎの為の挨拶回りでもよし、なんなら帰ってもいい。
出来れば、ずっと俺と過ごして欲しいけど。仲間内で過ごすなら、せめて、その仲間に俺も入れて欲しい。家族と過ごすというのなら、俺も一緒に過ごさせて。お母上にもご挨拶したいし! きっと向こうも愛娘の求婚者を見たいに違いないし!
「じゃあ、ブリュンヒルデ。ファーストダンスが終わったら、セカンドダンスを俺、予約してもいい?」
この一言をいうのに、俺がどれだけの平常心を搔き集めたことか!!!
心臓は勝手に全力疾走してばくばくするし、手には変な汗をかくし、背中には冷や汗が流れているし、胃の腑がキリキリと痛むような気がするし、心なしか右手首の古傷が疼くような錯覚までも起こるし、でも顔は平常を装って笑顔の仮面を張り付かせて、なんてことないよってフリをするのに忙しいったらありゃしない!
だというのに!
困ったように眉毛をへにょんと下げ、ブリュンヒルデが申し訳なさそうに言う。
「あー、申し訳ありません。セカンドダンスはラインハルト殿下とお約束しておりまして……」
え。
なんですと? まじか。え? なんでラインハルトさまが?
「以前……去年度だったかしら、ラインハルトさまがご卒業する前に、アーデルハイド殿下とお茶会をしたときに、殿下が初等部まで顔を出してくださいまして……、その時に、光栄にもお約束を賜りました」
おぅっ……なるほど? ハイジ殿下と確執があったから、お兄ちゃんとしては特別に目をかけたってことかな?
卒業して王太子として叙任されたラインハルトさま。彼が自分の婚約者の次に踊るのが、その婚約者のシュヴェスターだなんて、いい話題だし、ブリュンヒルデにも誉れある有難いお話だ!
くっ! 憎いわっラインハルトさまってばっ(涙)いいとこ取りじゃないっすか! ヒドイじゃないっ! オリヴィエの気持ちも考えてよっ……いかん、ほんと最近ストレス溜まってる。脳内で女言葉になりがちだ。気を付けねば。気を取り直して。
「ラインハルトさまと! いいね! ……あぁ……じゃあ、サードダンスは? もう予約埋まってたり、……する?」
いつもの強気で押せない。
もしここで、もう予約済だなんて言われたらどうしよう。
とっくに女子シュネー寮に着いていた。なんて短い道のりだ。もう二人きりの時間が終わる。
玄関の前で立ち止まり、俺を見上げるブリュンヒルデ。長い黒髪が揺れる。
「……いいえ。まだです。わたくしと、踊ってくださいますか?」
なんと! 彼女の方から提案してくれた! 胸の中に花が咲き乱れるように嬉しい!!
「うん! 喜んで!」
俺がそう言うと、ふわりと柔らかい笑みを見せてくれた。
可愛い。
「こちらこそ、ありがとうございます。宜しくお願いします。では、ごきげんよう」
そう言って軽く会釈をし、玄関を開いて中へ消えたブリュンヒルデ。
やった。
やったぞ!
サードダンスだけど、彼女と踊れる! やったぁ!!
……あれ?
今、俺が誘われなかった? はっきり言葉にして誘ってくれたのはブリュンヒルデだったよね? 俺、誘っていないよね? ダメじゃん! 男として!
女の子に誘わせるなんて……なんてこったい。
ブリュンヒルデってばっ、自分から誘っちゃうなんて、なんて漢らしいのっ、……もぅっ素敵なんだからっ(やけくそ)
惚れ直しちゃったじゃない!
こんなんだからアタシが脳内で乙女化しちゃうのねっ
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