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本編
27.ダンス!
しおりを挟むこの日の王家主催夜会は舞踏会仕様。
今年デビュタントとなる少女たちが、それぞれのパートナーに手を引かれ入場した後、国王陛下夫妻と王太子殿下も入場した。
王立楽団が奏でる調べに合わせ、まずはデビュタントたちだけがファーストダンスを踊る。
今年の目玉はやはり、第二王子殿下の婚約者、ロイエンタール侯爵令嬢イザベラがいることだろう。
彼女とブリュンヒルデの他になんと10組もデビュタント令嬢がいた。計12組のダンスが一斉に披露される。なかなかに壮観だ。でもやはり、目立つのは俺の妹だな。なんといってもパートナーがジークだし。ふたりとも美形だし、煌めいているね。美しいものは見ていて楽しい。
そして。
あぁ、可愛いなあ。
お父上と楽し気にダンスするブリュンヒルデ。動きに合わせて顔の両サイドに垂らされた髪が跳ねて、それも可愛い。
クルーガー伯爵も愛娘とのダンス、嬉しそうだ。いいなぁ。俺も娘が生まれたら、絶対デビュタントダンスしよう。うん、そうしよう。
……と、なると我が父は、今残念な思いでいるのか? 愛娘のパートナーは婚約者のジークだもん。
なんて考えていたら、背中をポンと叩かれ、振り向けば父と母が笑顔でそこにいた。我が父、ロイエンタール侯爵は仕事で王宮に詰めていたが、愛娘の晴れ舞台になんとか間に合ったようだ。
両親をクルーガー伯爵夫人に紹介したりしている内に、デビュタントのファーストダンスが終了した。彼らは国王陛下に挨拶する為に順番待ちしている。12組もいれば、それなりに時間がかかるが、終えたらしいイザベラが嬉しそうにブリュンヒルデと手を繋いでこちらに向かって歩いて来る。
おい。お前のパートナーは……まぁ、いいか。嬉しそうだし。ジークとクルーガー伯爵も彼女たちの後ろを笑顔でついて来る。
イザベラは笑顔のまま、父母に抱き着き、ブリュンヒルデもお母上と楽しそうに話している。
あぁ、いいなぁ。平和だなぁ。
「オリヴァー。お前、わざと無視しているね?」
俺の隣に並んだジークがこっそりと話しかけてくる。
はて。なんのことやら。皆目見当もつきませんなぁ。
「すっとぼけてんじゃねぇよ」
「あらいやだ。王子殿下ったら、おことば使いがお下品でしてよ?」
「その女ことばもやめろ。その顔で言われるとキモチワルイ。……そうじゃなくて、お前、さっきからダンスを誘って欲しそうなご夫人方の視線が集中してるぞ? 気が付いているんだろう?」
さすがジーク。鋭いねぇ。
こういうダンスパーティでは建前として、男の方から声をかけるのが鉄則だ。
踊りたい淑女はどうするかって?
ひたすら視線を投げかけて気付いて貰うのを待つ。もしくは、連れ経由で紹介して貰い、誘われるのを狙う。原則、女性からは誘わない。淑女だから。
つまり、今の俺、さっきから女性の視線をビシバシと受けているのだ。
それのどれかと視線を合わせたら最後、声をかけない方がマナー違反になってしまう。いつもの俺の行動パターンなら、淑女と視線が合えば、その彼女の元に赴いてお話しをしてお知り合いになる。踊ったり踊らなかったり。
だが、今日の俺は違う。今日の俺はファーストダンスはブリュンヒルデと踊るって決めている。ブリュンヒルデにとってはサードダンスだけど、俺のファーストダンスはブリュンヒルデだ。それは絶対だって決めた。それを覆す気は更々ない。
よって、クルーガー夫人たちとのおしゃべりを楽しんでいますよ、という体で、誰とも視線が合わないようにワザと遠いところを見ている。
国王陛下とか。うーん、陛下はいつ拝見しても良い男だね! 口髭もダンディでいいね!
俺は俺以外の男なんてどうでもいいが、国王陛下だけは特別だ。シャティエル王国の貴族として、この忠誠心は彼だけに捧げている。いずれはラインハルトさまに。
と、その国王陛下が王妃殿下の手をとって、ダンスホールに降りてきた。ラインハルトさまも婚約者のヒルデガルドさまと共に。
「今宵、新たに12名の若き花々が咲いた。余は彼女たちを祝福する。未来に幸多からんことを」
陛下のおことばに、周りの貴族が一斉に臣下の礼をとった。
「さぁ! 踊ろう! 今宵はこの季節始まりの夜会。皆で若き花々を称えようぞ!」
陛下のおことばを合図に、今まで止まっていた演奏が再開された。陛下たちのダンスが始まった。うーん。両陛下とも、ダンスがお上手だなぁ。それにおしどり夫婦と評判なだけはある。息ぴったりだ。
ラインハルトさまたちも上手いなぁ。と思っていたら、ラインハルトさまと目があった。にっこりと微笑まれた。……あれ。なんか怖い。ラインハルトさまの“お見通し”っぷりが怖い。
ターンして向きが変わったらヒルデガルドさまと目が合った。こちらは……苦笑している。なんか、“ごめんなさいね”と言っている……ような気がする。
あれか? ブリュンヒルデのダンスの順番のことか?
「よし、じゃぁ我々も行くか」
クルーガー伯爵がそう言って夫人の手を取った。
「陛下のお誘いですものね」
夫人が笑って応える。
陛下のお誘いって、なに? と思ったら、国王陛下が踊りながら、あちこちの貴族に笑いかけて、こっちに来いと言わんばかりに手招いてる。陛下と目があった貴族から次々にダンスホールに人が集まりだした。我が両親も連れ立って踊りに行った。
「オリヴァーくん、娘を頼むよ」
俺の側を通りながらそう言うと、クルーガー伯爵は夫人と共にホールへ行ってしまった。
「イザベラ、僕らも踊る?」
ジークがイザベラを誘うが
「今はおじ様たちの時間じゃないの? ブリュー、喉渇かない? 飲み物が欲しいわ、兄さま」
イザベラはブリュンヒルデと一緒にいたいらしい。
飲み物は通りかかったボーイから貰い、イザベラとブリュンヒルデに渡す。
「おい、僕の分は?」
少しむっとした表情でジークがいう。
「生憎、俺の手は女性にしか仕えないんだ」
「お前という奴は」
「殿下。お顔が崩れてます。ほら、眉間に皺が」
僕だって喉が渇いているんだぞ! などとジークはブツブツと文句を言うが、王子殿下の彼が目配せすれば、飲み物などすぐに用意されるのだ。俺が手を貸すまでもない。
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