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本編
32.冬から春へ(そしてだいさんせいりょくはどこへ)
しおりを挟む冬の真っただ中、王宮では夜から朝まで年越しを祝う王家主催のパーティがある。今年も我がロイエンタール侯爵家は全員招待状が届き、出向く予定だった。
――だった。
結果として、俺は不参加。
なぜかって?
風邪で寝込んだせいで。
まさかこの年になって、身動きできなくなるほど発熱するとは思わなかった。つい先日までの試験対策で夜中まで無理して勉強していた反動かもしれない。まぁ、その甲斐あって学年総合一位の成績を修めたのは、ちょっとした自慢だ。あの万年一位のジークフリート王子殿下を抑えたのだからな!
でも肝心なときに寝込むなんてマヌケだと兄上に言われた。
そう、年末の年越しパーティ。クルーガー伯爵家も当然出席すると情報を得ていた。今回こそは、とブリュンヒルデのパートナーを打診して(直接ではない。ロイエンタール侯爵からクルーガー伯爵経由でお願いした)、了承を得ていたというのに。念願の、ブリュンヒルデのパートナーとして、年越しパーティに出席できたはずだったのに! めっちゃくちゃ残念だ。そして彼女に申し訳ない。本当に本当に申し訳ない。
熱を押して出席しようとしたが、真っ直ぐ立てないような状況に断念した。
俺は運が悪いし間も悪い。そしてマヌケ野郎だ。しかも姑息だ。
我がシャティエル王国では、習慣として年を越すと、同時に年齢が一つあがると考える。『新年おめでとう』という挨拶は『きみ、一才おとなになったね、おめでとう』と同義だ。同時に親が子に、或いは恋人同士で贈り物をしたりする。だから、俺とイザベラも新年になったと同時に18歳。
ブリュンヒルデは17歳。新しい年になった彼女にプレゼントを渡したかったので用意していた。それをロイエンタール侯爵に託した。侯爵閣下から渡される物だ、拒否はされないだろう。いやん、オリヴァーくんったら姑息。
たぶん、俺のプレゼントと同時にいろいろ付加された物がブリュンヒルデには渡されると思う。なんせ、こっちからパートナーを申し込んでおきながら土壇場でキャンセルするんだから。失礼にも程がある。
あぁー。クルーガー伯爵の俺に対する心証もマイナスだろうなぁ……。ちちうえ、ほんとうに誠心誠意、謝ってくださいね。伯爵にも、ブリュンにも……。ほんとうなら、俺が謝れればいいんだけど、それも出来ない我が身が不甲斐ない……。
うううううううう。
行きたいよぉぉぉぉぉ。
彼女に似合いそうだと選んだ、愛らしい花のコサージュ。クルーガー伯爵家の家紋の木蓮みたいだと思ったコサージュ。あれをいつの日か付けてくれないかなぁ、と半分以上熱にうなされながら夢想して、俺は年を越したのだった。
◇
年が明けたら、あっという間に卒業式がきてしまった。学生会では式の準備で死ぬほど忙しかった。
去年も思ったが、なぜ、こんな忙しい時期に学園祭などやるのだろう。卒業する三年の先輩は手伝ってくれないし、業者は毎年のことだとガンガン入って来るし、学園内での至る所で出店はあるし、その管理で忙しさ倍増だし、学園都市全体のお祭りのような雰囲気だし、もう、なにがなんやら。
騎士科の学生が一番浮かれているような気がした。
あいつら、設営にとんでもないパワーを出す。一年で一番生き生きとしている気がする。そのパワーは剣術大会とかで出しやがれ。
そして『決起集会』と称した騎士科卒業生による就職先自慢大会が毎年好評なのだ。一人一人壇上に上がって自分の就職先を発表すると、在校生が鬨の声を挙げて盛り上がるという、うん、去年シェーンコップ先輩もやってた。ついでに婚約したと報告(暴露?)して婚約者を壇上にあげてたわ。あれも公開プロポーズになるのかもな。
卒業生の父兄も大挙して訪れるし、過去に卒業した先輩たちも訪れて、ちょっとした同窓会みたいになっているしで、もう本当に祭りだった。
今年度は俺のファンクラブの会長、エルフリーデ先輩が卒業した。
彼女が卒業して、俺のファンクラブはいつの間にか自然解散になった。
とはいえ、『第三勢力』の面々が細々と存続しているのを、俺は知っている。知ってはいるが、俺はこれを公認していない。断じて、していない。
この『第三勢力』は、学園にその存在が認められている部活動みたいな活動はしていない。決められた教室もない。さながら地下に隠れ潜むレジスタンスのように、秘密裏に活動する彼女たちは、今後、どこへ行くというのだろう(遠い目)
◇
ついに高等部第三学年になってしまった。
学園生活も残すところあと一年だ。
学生会には、今年高等部一年に進級したアーデルハイド王女殿下が仲間入りした。彼女の推薦だという専科の女子学生がふたりも加入して賑やかになった。
そして学生会室内は、王子殿下と王女殿下が同時にいるという事態に、警備が倍増した。殿下おひとりの為に、通常は近衛騎士が二人、警備にあたる。今年は王族がふたりいるので、近衛騎士は計四人になったのだ。
実はこれ、一昨年、ラインハルトさまが三年生だった時もそうだった。あの時は兄弟殿下の為に騎士団の近衛騎士が四人付き従った。
暑苦しいというか、物々しいというか。
一部屋に四人もの騎士さまがいるのはちょっと……と意見したら、すぐに室内待機の騎士は一人、扉の外に二人、残りひとりは自由時間で、持ち回りでの任務になった。これ、一昨年経験したことだからすんなり決定したのだ。前例を作ってくれたラインハルトさま、本当にありがとうございました。
そして、なぜか王女殿下の護衛としてシェーンコップ先輩が来た。彼は近衛隊所属の騎士なのだから、可笑しくはない。だが、王女殿下の専属護衛は女性騎士だったと記憶していたが、そうでもなかったらしい。
シェーンコップ先輩が室内護衛の日は、エミールの機嫌が目に見えてよくなるので面白い。自分がいかに有能で学生会のメンバーとして仕事しているのか、お見せしたい! と張り切っている。
そしてアーデルハイド王女殿下の機嫌もいいので、仕事が捗る。彼女は学生会副会長となった。もちろん、ジークが会長だ。
やれやれ、やっと俺は重責とおさらばだ。とはいえ、学生会のメンバーとして仕事はしている。役職付きじゃないだけでね。相変わらず会計監査として各部活動の奴らに嫌われている。奴らに『君の部の部費だが、予算案と実績との乖離が激しいね。説明して』とか『実績から鑑みるに、今年の予算は削減しよう』とかいうと、俺の機嫌を取ろうとするから面白い。特に美術部には私怨も込めてネチネチといたぶらせて頂いている。実に面白い。
「先輩、ちょっと……」
エミールがそう言って、俺を資料棚の方へ連れて行く。そして資料の一つを手にとって見開きを俺に示しながら、違う内容について小さな声で話し始めた。
「最近、黒姫との接触を避けようとしてます?」
どうやらふたりだけの内緒話をしたいらしい。だが一見、資料を見ているように振舞うだなんて、お前いつのまにこんな頭脳派になった?
「王女殿下の手前、控えている」
「なぜ?」
「あのひと、むかし俺のファンクラブメンバーだったらしいから」
実際、ファンクラブに所属していたのかどうかは知らない。だが意味合いとしては通じるだろう。
「あぁ……殿下に気をつかっているんですね……。会員の前で女の子口説くわけにはいかないですよね……」
「元、な。今は自然解散しているからどうなのかわからん」
そうなのだ。王女殿下の手前、ブリュンヒルデにおおっぴらに用事を頼むわけにもいかなくなった。それでなくとも、ブリュンヒルデが来室すると、王女殿下がぴったりと張り付いてしまうのに。
……ん?
王女殿下がブリュンヒルデにぴったりと張り付く?
しまった! うっかり忘れていた! 殿下は第三勢力の中でも超がつくほどのブリュンヒルデを神絵師扱いして『推し』てる人だったぁ‼‼
あまりにも最近忙しくて忘れていた!
はっ!
今、俺、何している?
資料棚の前に立ち、エミールとふたり。顔を寄せ合って内緒話。
やばい。
振り向けない。背後にはアーデルハイド王女殿下。(もちろん、ジークや他の学生会メンバーもいる)
はっ!
もしかして、王女殿下が推薦して学生会に加入した新人ふたりは。
もしかして、もしかしたら、第三勢力系の、人? ふたりとも専科一年で、物覚えがよくて、仕事が早くて、貴重な即戦力だなぁと評価していたけど。
「オリヴァー先輩? どうしました?」
待て。耳元で囁くな。いや、内緒の話しをしているのだから、正しいのだが、状況が悪い! 背後には危険なレジスタンス()がいるのだ!
「とりあえず、その件は保留な!」
そう言ってエミールから離れて振り返ると、ばっちりこちらを観察している女子三名。
みんな揃っていい笑顔。
うわぁぁん。
「先輩?」
待てエミール、俺の側に来るな。お前が真実を知るのはまだ早い。
レジスタンスは地下に隠れ潜むのではなく、学生会室という日のあたるところに堂々といました(ヤケクソ)。
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