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第302話 二つ名
宿に戻ると、その日の夜は皆どこか上の空であった。いつもはどこから話題が出て来るのかと思うくらいに喋るミアでさえも、あまり口を開かない。
恐らく頭の中でパーティの名前を考えているからだろう。静かすぎて、ある意味不気味である。
「ちょっと九条! 真面目に考えてる?」
「考えてるよ……」
「ホントにぃ?」
もちろん嘘である。さすがにシャーリーの目は誤魔化せない――と言いたいところではあるが、俺はというと暇そうな従魔達と戯れているだけ。それを見れば、何も考えていないことなど一目瞭然だろう。
そもそも俺が考える必要なぞないのだ。誰かが出した案に賛同すればいい。いや、むしろ俺抜きで決めてもらっても構わないくらいである。
とは言え、案を出せと言われている手前、適当に何か考えなければいけないのも確かだ。
「そもそもどんなのがいいんだよ。基準みたいなものはないのか?」
「パーティを組むってことは、各々の目標が一致してるわけ。それを反映させた名前をつけたりすることが多いかな。後はパーティメンバーの特色を活かしたものとか……」
「『お金大好き』ってパーティ名でもいいって事か?」
「それは露骨すぎでしょ……」
「具体的な例を挙げてくれよ」
「うーん……。パーティ名って訳じゃないけど、九条はネストがなんて二つ名で呼ばれてるか知ってるでしょ?」
「確か、『孤高の魔女』……だったっけか?」
「それは古い方。新しい方は知らないの?」
「別の呼び名があるのか?」
「知らないんだったら少し考えてみて? 今ネストがなんて呼ばれているのか。ヒントはネストの最近の活躍ぶりが評価されてってところかな」
ネストの最近の活躍と言われても、いまいちピンとこない。魔法学院での指導が評価されているのだろうか?
「うーん……。『魅惑の女教師』とか?」
「違うわよ!」
全否定するシャーリーに、ベッドの上で爆笑するミア。
明らかに違うだろうとは思っていたが、ネストが何時何処で活躍したのかなんて俺にわかるはずがないのだ。
頭の中にそれが浮かんだ時は、アダルトビデオのタイトルみたいだとも思ったが、それ以外思いつかなかったのだから仕方がない。
恐らく『魅惑』がダメなのだろう。『女教師』はいい線イッてるはずである。
「じゃぁ、正解は何なんだよ……」
「『蜂天烈火の紅玉』よ」
全然違った。まるで教師は関係なさそうである。
「……はぁ? ほうてんれっかのこうぎょくぅ?」
「そう。魔法学院の合宿中に、リッチと大魔法の打ち合いをしたんでしょ? 私は見てないけど、それを見てた冒険者達が名付けたみたい」
「ああ。あの時か……。確かに豪快ではあったな……」
言われて思い出した。確かにそんじょそこらの魔術師がぶっ放せるような魔法ではなかった。
魔法の知識に疎い俺でさえ、そう感じるほどだ。恐らくは秘伝や奥の手に分類される魔法。それを俺なんかの評判の為に人前で晒したのだ。ネストには頭が下がる思いである。
「蜂天烈火は、まぁいいとしよう。魔法の威力を物語っているとも言えなくもない。だが、紅玉ってのはなんだ?」
「ネストが赤髪の女性だからじゃない? ルビーのように美しいみたいな?」
「そういう事か……。まぁ、わからなくもないが……」
なんというか抽象的過ぎて、なぞなぞでも解いている気分だ。
「リブレスにもプラチナの魔術師がいるわよ? 確か、『泡沫夢幻の白波』……だったわよね?」
それに頷いたのはシャロン。
「ええ。ネストさんとは真逆……とでも言いましょうか……。水の魔法を得意とする魔術師です。リブレス国内から出ることは極めて稀なので、噂でしか知らないという方は多いと思います」
「なるほど……。まぁ、なんとなく方向性は理解したよ……」
恐らくこっちでは通じないだろうが、中二病っぽい名前をつければいいのだろう。
「そう? なら真面目に考えてね? 私も考えてるんだから」
そう言って、1人でブツブツと何かを呟き始めたシャーリー。
俺達のパーティは、同じ目標を志すものではない。となると、パーティの特色を反映させた名前の方が考えやすいだろうか。
テーブルに頬杖をつき、面倒だと思いながらも思案する。
死霊術師にレンジャー。そして魔獣が4匹のパーティ。そこに担当も入れるとなると、エルフに子供。てんでバラバラであり、統一性の欠片もない。
「なぁ、シャーリー」
「なに?」
「もし俺に二つ名をつけるとしたら、何になると思う?」
「え? 九条には既についてるわよ?」
「マジかよ……。それで? 俺は陰で何と呼ばれているんだ?」
「……怒らない?」
急にしおらしく身を縮めたシャーリーは、何故か俺の顔色を気にしている様子。
滅多なことでは怒らないと自負してはいるが、その理由は何となくわかった。
「……もしかして、シャーリーが名付けたのか?」
「違う違う。そんなことする訳ないじゃん……」
ならば気にする必要もないだろう。ビクビクと言い辛そうにしている意味がわからない。
「ならいいじゃないか。怒らないから教えてくれ」
「『プラチナ殺し』だけど……」
「あー……」
シンプル・イズ・ベスト。納得である。
「まぁ、間違ってはいないな……」
特に怒りが沸き上がるという事もない。むしろそれを通り越し、呆れたと言うべきだろうか。
とは言え、それは悪いイメージからつけられた名であるが故に、俺に擦り寄って来る不届き者は減るだろう。
言いようのない脱力感に襲われ溜息をついてしまったが、俺にとってはメリットにもなり得る二つ名であった。
恐らく頭の中でパーティの名前を考えているからだろう。静かすぎて、ある意味不気味である。
「ちょっと九条! 真面目に考えてる?」
「考えてるよ……」
「ホントにぃ?」
もちろん嘘である。さすがにシャーリーの目は誤魔化せない――と言いたいところではあるが、俺はというと暇そうな従魔達と戯れているだけ。それを見れば、何も考えていないことなど一目瞭然だろう。
そもそも俺が考える必要なぞないのだ。誰かが出した案に賛同すればいい。いや、むしろ俺抜きで決めてもらっても構わないくらいである。
とは言え、案を出せと言われている手前、適当に何か考えなければいけないのも確かだ。
「そもそもどんなのがいいんだよ。基準みたいなものはないのか?」
「パーティを組むってことは、各々の目標が一致してるわけ。それを反映させた名前をつけたりすることが多いかな。後はパーティメンバーの特色を活かしたものとか……」
「『お金大好き』ってパーティ名でもいいって事か?」
「それは露骨すぎでしょ……」
「具体的な例を挙げてくれよ」
「うーん……。パーティ名って訳じゃないけど、九条はネストがなんて二つ名で呼ばれてるか知ってるでしょ?」
「確か、『孤高の魔女』……だったっけか?」
「それは古い方。新しい方は知らないの?」
「別の呼び名があるのか?」
「知らないんだったら少し考えてみて? 今ネストがなんて呼ばれているのか。ヒントはネストの最近の活躍ぶりが評価されてってところかな」
ネストの最近の活躍と言われても、いまいちピンとこない。魔法学院での指導が評価されているのだろうか?
「うーん……。『魅惑の女教師』とか?」
「違うわよ!」
全否定するシャーリーに、ベッドの上で爆笑するミア。
明らかに違うだろうとは思っていたが、ネストが何時何処で活躍したのかなんて俺にわかるはずがないのだ。
頭の中にそれが浮かんだ時は、アダルトビデオのタイトルみたいだとも思ったが、それ以外思いつかなかったのだから仕方がない。
恐らく『魅惑』がダメなのだろう。『女教師』はいい線イッてるはずである。
「じゃぁ、正解は何なんだよ……」
「『蜂天烈火の紅玉』よ」
全然違った。まるで教師は関係なさそうである。
「……はぁ? ほうてんれっかのこうぎょくぅ?」
「そう。魔法学院の合宿中に、リッチと大魔法の打ち合いをしたんでしょ? 私は見てないけど、それを見てた冒険者達が名付けたみたい」
「ああ。あの時か……。確かに豪快ではあったな……」
言われて思い出した。確かにそんじょそこらの魔術師がぶっ放せるような魔法ではなかった。
魔法の知識に疎い俺でさえ、そう感じるほどだ。恐らくは秘伝や奥の手に分類される魔法。それを俺なんかの評判の為に人前で晒したのだ。ネストには頭が下がる思いである。
「蜂天烈火は、まぁいいとしよう。魔法の威力を物語っているとも言えなくもない。だが、紅玉ってのはなんだ?」
「ネストが赤髪の女性だからじゃない? ルビーのように美しいみたいな?」
「そういう事か……。まぁ、わからなくもないが……」
なんというか抽象的過ぎて、なぞなぞでも解いている気分だ。
「リブレスにもプラチナの魔術師がいるわよ? 確か、『泡沫夢幻の白波』……だったわよね?」
それに頷いたのはシャロン。
「ええ。ネストさんとは真逆……とでも言いましょうか……。水の魔法を得意とする魔術師です。リブレス国内から出ることは極めて稀なので、噂でしか知らないという方は多いと思います」
「なるほど……。まぁ、なんとなく方向性は理解したよ……」
恐らくこっちでは通じないだろうが、中二病っぽい名前をつければいいのだろう。
「そう? なら真面目に考えてね? 私も考えてるんだから」
そう言って、1人でブツブツと何かを呟き始めたシャーリー。
俺達のパーティは、同じ目標を志すものではない。となると、パーティの特色を反映させた名前の方が考えやすいだろうか。
テーブルに頬杖をつき、面倒だと思いながらも思案する。
死霊術師にレンジャー。そして魔獣が4匹のパーティ。そこに担当も入れるとなると、エルフに子供。てんでバラバラであり、統一性の欠片もない。
「なぁ、シャーリー」
「なに?」
「もし俺に二つ名をつけるとしたら、何になると思う?」
「え? 九条には既についてるわよ?」
「マジかよ……。それで? 俺は陰で何と呼ばれているんだ?」
「……怒らない?」
急にしおらしく身を縮めたシャーリーは、何故か俺の顔色を気にしている様子。
滅多なことでは怒らないと自負してはいるが、その理由は何となくわかった。
「……もしかして、シャーリーが名付けたのか?」
「違う違う。そんなことする訳ないじゃん……」
ならば気にする必要もないだろう。ビクビクと言い辛そうにしている意味がわからない。
「ならいいじゃないか。怒らないから教えてくれ」
「『プラチナ殺し』だけど……」
「あー……」
シンプル・イズ・ベスト。納得である。
「まぁ、間違ってはいないな……」
特に怒りが沸き上がるという事もない。むしろそれを通り越し、呆れたと言うべきだろうか。
とは言え、それは悪いイメージからつけられた名であるが故に、俺に擦り寄って来る不届き者は減るだろう。
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