結び契る〜異世界転生した俺は番いを得る

風煉

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第2話

冷蔵庫品評会

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ヒュペルお義父さんはというと、突然現れた未知の物体に緊張しつつ、興味津々なのか触りたくてうずうずしているのが見て取れた。
そういうのが好きなのかと眺めていると、これまた面白い反応が飛び交う。

「これは、扉か? どれどーーうわっ!? じ、爺様! 中が冷たい、というか寒いくらいです!? しかもなんか、見たことないものがたくさん入ってますよ!?」
「……一体何を考えた?」
「あっははは……、こっちに来る前に冷蔵庫の中に色々と買い込んだなぁって……」
「それが原因か、全く容赦無く魔力を持っていきおって……!」
「これなんだ? 食材なのか? なっ、卵!? こんなにたくさん!? ほ、他には……こ、氷!?!? ダイチ、ダイチ! れいぞうこって氷まで保管できるのか!? あっ!? しかもここ、こっちの棚とは全く違って寒すぎるくらいだ!? す、凄い……! こ、こっちはどうなってるんだ!? あれっ、肉が凍ってる!? うわ、魚まで!? うわ、うわっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

ワンドア式の冷蔵庫をおっかなびっくりに開くヒュペルお義父さんは、中に入っているものを見ては声を上げ、驚いたり喜んだりと忙しそうに表情をコロコロと変え、興奮から尻尾を振っていた。
対して爺様は、考えろとはいったがそんな余計なことまで考える必要はなかったと、怒りと呆れが混じった顔をしていた。
反応からすると、そんなに色々と詰まっているのか気になったので、壁を支えに震える体をなんとか立たせて、おぼつかない足で冷蔵庫まで歩く。

「ーーこれ、俺の想像していた冷蔵庫の中身のまんまだ」
「これが空想具現の最たる力じゃ。 術者本人の想像もさることながら、それを足掛かりにして具現するに辺り、世界がそれを確固たるものとして存在を固定するために補強が行われるのじゃ。 このれいぞうこというものは、ダイチが元いた世界で使っていたものなのであろう?」
「そう、ですね、でも所詮空想なんですよね? これじゃまるで本物……」
「だからこその空想具現なのじゃ。 しかもこれは世界が違えど、確かに存在するものであればそこから情報を引っ張り、それを足掛かりにこちら側へ定着させる。 ここまで言えば、この力がどれほど規格外なのかはお前でも分かるであろう?」

興奮冷めやまないヒュペルお義父さんの後ろからチラッと中を覗くと、覚えている限り自分で最後に見た冷蔵庫そのものだった。
だいぶ時間が経ってしまったので朧げだが、間違いない、普段から飲食していた牛乳やヨーグルトは俺の好きなメーカーで、リアリティすぎる。
隣に来た爺様が空想具現がどういう能力なのか説明してくれるが、一向に理解が追いつかなかった。
ただ想像しただけなのに、世界が再現を手助けしてくれると言われても分かるはずもない、けれど爺様ははっきりとこの冷蔵庫は紛れもない本物だと断言する。
異世界転生したら特殊能力に目覚めるとかお決まりの展開だけど、これはちょっとマズい気がする。
だってこれで向こうの銃火器なんかを具現化できたりしたら、どうなるかなんて言及しなくても分かるオチが待っていた。

「……あの、ちなみにこの空想具現というのは、誰もが当たり前に使えるものでは?」
「たわけ。 これは神話級の能力じゃ、今世に扱えるものなどそうそうおらん。 とにかく、これも含めてワシが許可するまで力の行使は許さんぞ!」
「はい、気をつけます……」
「やれやれ……、ヒュペル! 少し落ち着かんか!」
「いだっ!?!? あっ、す、すみません、爺様……」

絶対ないだろうけど、淡い期待で空想具現は一般的な能力なのかと聞いたが、案の定そんな都合よくないようだ。
まだまともに魔法も習っていないし、そもそも魔力を制御することだってできないのに、トンデモ能力もあるとなれば、爺様の言い分もわかる気がする。
改めて不用意に力を使わないよう厳命されたので俺は決心するが、それを考えたら爺様は最初から知っていたのだろうか。
聞こうとするが、さっきからテンション高めであれこれと冷蔵庫の中にあるものを手にとっては楽しそうにするヒュペルお義父さんに、老猫の容赦ない杖の一撃が頭に直撃した。

「でも、コンセントを挿してないのになんで電気が通ってるんだ?」
「でんきとは、力の源泉のことか? 空想具現されたものは力の所在に関わらず、ある程度までなら実現できる。 今回はワシの魔力も汲み上げておるから、そこまで綺麗に再現されてしまったようじゃの……」
「ということは爺様、これらは食べられると!? あの、問題なければ味見をしてみたいのですが!」
「……正直、空想具現で食料を生み出すなど聞いたこともないが、物は試しか。 ダイチ、お前が創り出したのだから最後まで付き合え」
「はい……、じゃあ俺はこのチョコアイスを」

落ち着きを取り戻したヒュペルお義父さんは興奮こそ落ち着いたが、その手には野菜室に入れてあったきゅうりとトマトを持っている。
気になったので冷蔵庫の中を俺も調べてみると、言っていた通り冷たい、というより普段から使っている通りに稼働していた。
こっちの世界に電気なんかない、というかコンセントを挿すどころか肝心のコンセントがこの冷蔵庫についていない。
なんで動いているのと疑問を口にすると、爺様曰く俺が稼働している冷蔵庫を想像したから、空想具現でそっくりそのまま再現してしまったそうだ。
ヤバイ、俺の考えている以上にこれヤバイな、悪用したり、されないように気をつけないと。
そんな俺の心情など気にすることもなく、お父さんは興味深々と匂いを嗅いで味を確かめたそうにキラキラと目を輝かせているのだが、こっちを見ても許可なんて出せるわけなかった。
どうやら完全に本物らしいので、食べられるかどうかの検証をする。
しかし、コンセントを挿さずに稼働できる冷蔵庫とかスゴすぎるだろう、現代日本で開発されたらバカ売れ間違いなしだ。
くだらないことを考えながら、冷凍室に入れていたチョコアイスを見つけたので、爺様の家から借りたスプーンで掬って食べる、うんっ美味い。

「これは作物なのか、ずいぶん新鮮だな! この赤いのは不思議な味だが、食材としては実に興味深いです!」
「……まさかこれは、獣の乳か? 臭みもなく、飲みやすい……。 こちらは、同じものか? それにしてはずいぶんと固形、というよりは滑らかじゃの……」
「それは牛乳ですね、牛っていう家畜の乳が主原料です。 これはその牛乳を元に作られたヨーグルトです」
「ダイチ、この細長い緑色のはなんだ!?」
「きゅうりですね、そのまま食べても美味しいですよ」
「ホントか!? あむっ! ん~、歯応えがいいな! 味はないが、瑞々しい! しかし、ここまで文明差があるとは驚きましたね」
「全くじゃの、食材の保管に一喜一憂してるワシらが哀れに思えてくるわい…….」

懐かしいチョコレートと冷たいアイスの甘味に舌鼓を打っていると、あれこれと口に含んで楽しそうにしているヒュペルお義父さんは、特に野菜関係が気にいったようだ。
爺様は牛乳パックを手にとり、器に注いで口に含んでその味に驚愕し、飲み終えてからヨーグルトのパックへ手を伸ばす。
人は見慣れぬものには意図的に忌避するものだが、この二人は偏見的な考えがないのか、知らないなら知ればいいとばかり、冷蔵庫を調べていた。
う~んと、これを考えろって言われたのって、確か食材保管に関しての参考意見が欲しいからって話だったよな?

「あの、肉の保存について話してませんでしたか?」
「ーーそうだ、それが最初の目的だった」
「……いかんの、つい研究欲が先に出てしもうた」

俺の指摘にはっとしたのか、お義父さんにしても爺様にしても、やいのやいのと見慣れぬ食べ物を口に運んでいたのをそっと止める。
各々が咳払いをして冷静に、最初の目的を思い出したところで本題に入った。

「とにかく、この冷蔵庫で食材を保存できます。 これはそこまで大きくないんですけど、向こうでは倍くらい大きい冷蔵庫もあります」
「そうなのか、凄いな……。 そういえばさっき、肉とか魚が凍った棚があったな。 もしかしてそこに入れるのか?」
「はい、無限には入れられないですけど、ある程度の時間までなら保存が効きます」
「ふむ……。 なるほど、要するにれいぞうこの根本的な仕組みとしては、中の冷気をいかに逃さず閉じ込めておけるか、というところかの?」
「そうなると空気の循環が鍵となりそうですね。 熱への対策などはどのようにしているのでしょう?」
「恐らく熱そのものを冷気に変換しておるのかもしれんの。 そうなるとただ循環させるのではなく、中に籠もった熱を排出させながらも冷気を一定に保つための仕組みをーー」

ふらつく足でなんとか冷蔵庫の隣に立って、俺の知る限りの情報を提供すると、爺様とヒュペルお義父さんの議論が始まる。
その時点で俺はもうついていけないので、黙って見守るしかないが、やっぱりスゴかった。
爺様の仮説とお義父さんの推論、それぞれが意見を出し合い、疑問をぶつけ合い、正解はどれかの話し合いを重ねていく姿は尊敬に値する。
やっぱりこの人たちは訳ありなんだろうなと考え込んでいると、突然話を止めた。
どうしたのかと見ていると、少し離れたところから急ぐように駆け寄ってくる白猫の女性が現れる。

「爺様、ヒュペルさん!」
「どうした、イレーヌ」
「お父さん達が狩りから帰ってきたんですけど、そのーー」
「……村には入れておらぬだろうな?」
「ーーっ、はい。 結界が反応して、入ることはできないようですが……」
「分かった、すぐに向かう。 ヒュペル、ついてきてくれ。 ダイチ、お前は……、動けそうか?」
「いえっあの……、どなたか手を貸していただけないでしょうか?」
「イレーヌ、すまないがダイチを家まで送ってくれないか? ちょっと色々あって、一人じゃ歩けないんだ」
「は、はい……。 あの、爺様? 差し支えなければ、その……」
「あれについては気にせんでよい。 後で皆を集めて説明する」

イレーヌと呼ばれた少女が息を切らして来ると、何事とヒュペルお義父さんが聞いてるのに対して、爺様の顔が怖いことになってる。
話に聞いた限りでは狩りでなにか問題があったのか、重い腰を上げて三毛猫様は柴犬を引き連れて問題解決に動くようだ。
残る俺だが、空想具現のせいで力は戻らず、冷蔵庫を支えにしてやっとの思いで立っている。
見かねたお義父さんが少女に頼むと快諾こそするが、気になるようで冷蔵庫を不審そうに見つめていた。
こういう反応が普通だろうな、そんなことを考えているとおっかなびっくりに近づいてきて、そそくさと俺の腕を自身の肩に回して歩ける態勢を整える。
確認してから爺様たちは村外れへ向かい、俺はイレーヌと共に家へ帰るのだった。
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