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プロローグ
始まり
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自分は間違ってはいない、彼のなかでそれだけはハッキリとしていた。
己を正義とみなし、立ちはだかる敵に剣を向け、その身体に突き刺し、切り裂いたのはどれくらいかなどすでに数えるのをやめてどれくらい時間が経つだろう。
苛烈さを増す戦時下において、味方はもちろんだが、迫りくる敵たちも鬼気迫る勢いで押し寄せてきて、敵と認識するものたちを蹂躙せんために死力を尽くしてくるのだ。
武器を持つものは戦いの中で死を覚悟して立ち向かってくる者がほとんど、その覚悟を同じ死地に立つ者ならば例え仇敵となろうと敬意を持たなければならない。
彼、ディブロ・イングリッドはそれを誇りとし、矜持として戦へと赴いた。
だからだろう、少しずつ彼のなかで抱えていた違和感が肥大化し、やがて疑念へと変わるまでに時間は掛からなかった。
本当に自分のしていることは正しいことなのか、一度浮かび上がってきた問題は消えることなく、心のなかで酷く燻り続ける。
目の前にいる、明らかに武器を持たない子供、異業種と揶揄され殲滅対象とされる獣人属の幼い姿を前に剣を握り、その命を散華させなければならないのだ。
心を無心にし、部下に命じればそれで解決するだけの問題だ、何もディブロ自身が血を背負う必要はどこにもない。
だがそれでも、彼は人としての理性に抗う術は持ち合わせていなかった。
柄を持っていた手から脱力し、切っ先が地面に向けられたことで自分たちの国で暮らす幼子らとなんら変わらない彼らは震えながら抱き合い、最後の瞬間まで共にいようとしている。
「……行きなさい。 北へ向かえば包囲網を抜けられる。 さぁっ早く!」
口から出てきた言葉に周囲の部下たちは戸惑いを隠せなかったが、誰も反論する声を上げなかった。
恐らくディブロの葛藤を理解していたのか、あるいは彼らも同じだったのか敵意を持つことなど年端もいかない者たちに向けるなど騎士としてあるまじき行為とみなしている。
突然のことに獣人の子らは状況に混乱を覚えるも、その中の一人である年長者らしき子が先導し、ディブロのいう通り北へと走るよう促した。
やがて一人、また一人と震える足を奮い立たせて立ち上がり、必死の顔で走る様を騎士たちは見送る。
最後に残ったリーダーらしき獣人の少年も続こうとした時、そっと振り返ってディブロを睨み返した。
「……こんなことで、俺たちの憎しみが消えるだなんて思うなよ。 お前は所詮、偽善者だ。 でも、今はそのちっぽけな同情に感謝してやるよ。 ありが、とう……」
目に溜めた涙を流すまいと必死になって強気の姿勢を繕う少年の顔が、ディブロの瞳に焼きつく。
最後に言われた言葉、それがなんと自分に似合わないものかと皮肉にすら聞こえてしまうそれに、彼の心はやりきれなさと同時に、重石になっていた国への猜疑心がより明確なものとなった。
自分たちはこれで反逆者となる、その事実に団員たちも理解しているが誰も後悔している様子はない。
故に堂々と彼らは振り返り、本陣へと戻っていく、己の運命がどうなろうと構わないとばかり、助けたあの子達の命がいつまでも存えるよう祈るのだった。
己を正義とみなし、立ちはだかる敵に剣を向け、その身体に突き刺し、切り裂いたのはどれくらいかなどすでに数えるのをやめてどれくらい時間が経つだろう。
苛烈さを増す戦時下において、味方はもちろんだが、迫りくる敵たちも鬼気迫る勢いで押し寄せてきて、敵と認識するものたちを蹂躙せんために死力を尽くしてくるのだ。
武器を持つものは戦いの中で死を覚悟して立ち向かってくる者がほとんど、その覚悟を同じ死地に立つ者ならば例え仇敵となろうと敬意を持たなければならない。
彼、ディブロ・イングリッドはそれを誇りとし、矜持として戦へと赴いた。
だからだろう、少しずつ彼のなかで抱えていた違和感が肥大化し、やがて疑念へと変わるまでに時間は掛からなかった。
本当に自分のしていることは正しいことなのか、一度浮かび上がってきた問題は消えることなく、心のなかで酷く燻り続ける。
目の前にいる、明らかに武器を持たない子供、異業種と揶揄され殲滅対象とされる獣人属の幼い姿を前に剣を握り、その命を散華させなければならないのだ。
心を無心にし、部下に命じればそれで解決するだけの問題だ、何もディブロ自身が血を背負う必要はどこにもない。
だがそれでも、彼は人としての理性に抗う術は持ち合わせていなかった。
柄を持っていた手から脱力し、切っ先が地面に向けられたことで自分たちの国で暮らす幼子らとなんら変わらない彼らは震えながら抱き合い、最後の瞬間まで共にいようとしている。
「……行きなさい。 北へ向かえば包囲網を抜けられる。 さぁっ早く!」
口から出てきた言葉に周囲の部下たちは戸惑いを隠せなかったが、誰も反論する声を上げなかった。
恐らくディブロの葛藤を理解していたのか、あるいは彼らも同じだったのか敵意を持つことなど年端もいかない者たちに向けるなど騎士としてあるまじき行為とみなしている。
突然のことに獣人の子らは状況に混乱を覚えるも、その中の一人である年長者らしき子が先導し、ディブロのいう通り北へと走るよう促した。
やがて一人、また一人と震える足を奮い立たせて立ち上がり、必死の顔で走る様を騎士たちは見送る。
最後に残ったリーダーらしき獣人の少年も続こうとした時、そっと振り返ってディブロを睨み返した。
「……こんなことで、俺たちの憎しみが消えるだなんて思うなよ。 お前は所詮、偽善者だ。 でも、今はそのちっぽけな同情に感謝してやるよ。 ありが、とう……」
目に溜めた涙を流すまいと必死になって強気の姿勢を繕う少年の顔が、ディブロの瞳に焼きつく。
最後に言われた言葉、それがなんと自分に似合わないものかと皮肉にすら聞こえてしまうそれに、彼の心はやりきれなさと同時に、重石になっていた国への猜疑心がより明確なものとなった。
自分たちはこれで反逆者となる、その事実に団員たちも理解しているが誰も後悔している様子はない。
故に堂々と彼らは振り返り、本陣へと戻っていく、己の運命がどうなろうと構わないとばかり、助けたあの子達の命がいつまでも存えるよう祈るのだった。
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