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最終話
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店長が言い残して3年が経過した。
あれ以来魔物が大量に攻めてくるなんてことは一度も起きていない。
気味の悪かったボディタッチ――もとい調剤の指導も実はかなり本格的なものだったらしく、ある程度基礎を身につけていた俺は残された本を基にオーソドックスな薬やポーション系は初級から特級まで店長と同等の品を作れるようになった。
ぎらついたピンクや紫色の薬のレシピもあったけど、いろんな意味で危なそうなのでそれらも捌けてしまった後は試作すらせずに封印している。
見知った顔の夜のお店の支配人が作ってくれと頼みに来るから効果は試さずともわかったけどね。
後、材料は冒険者ギルドから仕入れているので少し値上がりした。
多少客足減るけど仕方ないかなぁーと思ってたんだが、まさか他のお店が薬やポーションの取り扱いをやめていたとは……。
聞くところによると、値段よりもこの店の薬効が凄すぎて他で仕入れた薬類は全く売れてなかったらしい。
ほかにも、一部のものは素材の入手難易度が高すぎて取り扱いをやめている。
材料を見て只者ではなかったんだなと改めて思い知らされた。
―――思い出は全部変態だけど。
「っと、片付けはこんなものかな」
午前の客がはけたので一気に片付けを済ませる。
少しズルだが身体に魔力を纏わせて常人の倍の速さで終わらせた。
二・三日ほど前からこうして半日だけ営業して店を閉めさせてもらっている。
一人で薬を作って一人で販売しているのでこのふわふわした営業方法は以前からずっと変えていない。
というか、変えられていない。
……このままでも多分大丈夫のはずだ。
っと、それどころではなかった。
急いで鍵をかけて家路を急ぐ。
なぜなら―――――
「ただいまー」
―――ホギャ、ホギャ、ホギャ、ホギャ……
急いで家に帰ると赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
「産まれたか!」
彼女の寝室まで駆け、思いっきりドアを開ける。
「えへへぇー。無事――産まれちゃった」
ベッドに包帯でぐるぐる巻きにされた彼女がこちらを向いて微笑む。
ん?なんでぐるぐる巻きに?
「え?これ、何?ドッキリ?」
「産んだ直後なのにお前さんの所に報告しに行こうとしてたから無理矢理止めたんじゃよ」
と、いうのはやけに筋肉質で歴戦の勇者の様に背筋もしゃんとのびた産婆のコーイチ婆さん。
小さい頃にリンやヨーチン達と一緒に筋肉ババァとからかった後にこっぴどい目に遭ったのは遠い昔の事だ。
「リョー、流石に安静にしててほしいなぁ。ハハハ……」
「(*^_^*)テヘッ」
うん、可愛い。
じゃなかった。
思いつきで飛び出てトラブルを持ってくるの、子供もできたんだしいい加減に自重して欲しいところだ。
あ、突然ですが俺結婚しました。
名前はリョーチ。
3つ下で最初は知り合い程度だったんだけど、
差し入れと言って持ってきたものが貴族様宛の献上品で大変な目に遭った事や、
悪友たちの狩りに木イチゴを採取したいとついてきて眠っていた八つ手熊踏んづけて襲われた事や、
特注品ポーションの配達を私がすると持って行った挙句ガタイの良いサングラスをかけたおっさん達に首根っこ掴まれて帰ってきた事や……数え挙げればきりがない。
そんなトラブルメーカーを助けるうち、勝手に好感度を振り切ってたらしく呼ばれた誕生日会で何故かリョーチの御父さんと闘って認められあれよあれよと結婚に。
まぁ。
あばたもえくぼと言うのか、周囲がそれ以上に濃い人ばかりだったせいなのか、途中からそのトラブルメーカーもまぁ可愛いもんかと思うようになりまして。
結果、子供まで産まれてしまいました。
「大変だ、大変だ、変態だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
街の新聞記者。
ユージュさんが騒がしく叫びながら走っていく。
煩いぞ、赤ちゃんがうとうとしていたのに。
起きたらどうするんだ!
「えっ、何か来たのかしら―――って動けない!?」
早速トラブルへ向かおうとする妻を俺とコーイチ婆さんが醒めた目ででジッと見る。
暫くして耐えられなくなったのか
「ゴメン」
と小さく呟いて大人しくなってくれた。
全く可愛いもんだ。
あれっ?
変態―――じゃなかった、大変だと聞こえたのでリョーチを家に残して仕方なしに外に出る。
店長がいなくなって自警団的な組織ができた。
実は俺の強さってそこらの冒険者じゃ太刀打ちできないくらい強かったらしく、その組織の団長にさせられている。
収入的には既に十分なのだが、街の人たちに請われて仕方ないのと、全体の2割くらいがリョーチが原因でのトラブルなのでごめんなさいと言う意味も込めてまじめに参加している。
「団長、あっちの奥です!変態が近づいてきています!」
トトゥルとグレータは別の所にいるのだろうか、最近入ったらしい―――えっと、名前忘れたけど新人さんの門番がその変態の場所を教えてくれる。
というか城壁の外、目の前にいるじゃん!
2メートル近くありそうな長身に全裸で全身ぱっつんぱっつんの筋肉、危険な部分だけ大きな葉っぱで隠されている。
あれは北の方に生えるタケマールの葉かな?
そして、何故か重力に逆らって直立する身長の倍はありそうな髪。
横を向いたまま微動だにせず、ポージングを決めている。
ポージング?
いや、この圧力と構えは―――――
「――――っ!総員退避!総員退避ーー!どこでもいいからここから離れろー!」
危険を感じてこの場にいる全員を散らす。
俺も同じく茂みに逃げ込む。
少しして
「みんなぁ~~~~~~~~~~~~~~~」
聞き覚えのある声で、そのポージングから繰り出されるパンチの一撃は――
「帰ってきたわよぉ~~~~~~~~~~~~」
城壁を砕き塵芥に変え
「たっだいまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!」
ヨカゼ街に店長が帰ってきた。
P.S. その頃のトトゥルとグレータ
「タイシジ=サンを迎えようと一足先に来てみたらなかなかの掘り出し物なのであーる」
「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」」
「その鍛え上げられた筋肉、我が軍で生かすのであーる」
あれ以来魔物が大量に攻めてくるなんてことは一度も起きていない。
気味の悪かったボディタッチ――もとい調剤の指導も実はかなり本格的なものだったらしく、ある程度基礎を身につけていた俺は残された本を基にオーソドックスな薬やポーション系は初級から特級まで店長と同等の品を作れるようになった。
ぎらついたピンクや紫色の薬のレシピもあったけど、いろんな意味で危なそうなのでそれらも捌けてしまった後は試作すらせずに封印している。
見知った顔の夜のお店の支配人が作ってくれと頼みに来るから効果は試さずともわかったけどね。
後、材料は冒険者ギルドから仕入れているので少し値上がりした。
多少客足減るけど仕方ないかなぁーと思ってたんだが、まさか他のお店が薬やポーションの取り扱いをやめていたとは……。
聞くところによると、値段よりもこの店の薬効が凄すぎて他で仕入れた薬類は全く売れてなかったらしい。
ほかにも、一部のものは素材の入手難易度が高すぎて取り扱いをやめている。
材料を見て只者ではなかったんだなと改めて思い知らされた。
―――思い出は全部変態だけど。
「っと、片付けはこんなものかな」
午前の客がはけたので一気に片付けを済ませる。
少しズルだが身体に魔力を纏わせて常人の倍の速さで終わらせた。
二・三日ほど前からこうして半日だけ営業して店を閉めさせてもらっている。
一人で薬を作って一人で販売しているのでこのふわふわした営業方法は以前からずっと変えていない。
というか、変えられていない。
……このままでも多分大丈夫のはずだ。
っと、それどころではなかった。
急いで鍵をかけて家路を急ぐ。
なぜなら―――――
「ただいまー」
―――ホギャ、ホギャ、ホギャ、ホギャ……
急いで家に帰ると赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
「産まれたか!」
彼女の寝室まで駆け、思いっきりドアを開ける。
「えへへぇー。無事――産まれちゃった」
ベッドに包帯でぐるぐる巻きにされた彼女がこちらを向いて微笑む。
ん?なんでぐるぐる巻きに?
「え?これ、何?ドッキリ?」
「産んだ直後なのにお前さんの所に報告しに行こうとしてたから無理矢理止めたんじゃよ」
と、いうのはやけに筋肉質で歴戦の勇者の様に背筋もしゃんとのびた産婆のコーイチ婆さん。
小さい頃にリンやヨーチン達と一緒に筋肉ババァとからかった後にこっぴどい目に遭ったのは遠い昔の事だ。
「リョー、流石に安静にしててほしいなぁ。ハハハ……」
「(*^_^*)テヘッ」
うん、可愛い。
じゃなかった。
思いつきで飛び出てトラブルを持ってくるの、子供もできたんだしいい加減に自重して欲しいところだ。
あ、突然ですが俺結婚しました。
名前はリョーチ。
3つ下で最初は知り合い程度だったんだけど、
差し入れと言って持ってきたものが貴族様宛の献上品で大変な目に遭った事や、
悪友たちの狩りに木イチゴを採取したいとついてきて眠っていた八つ手熊踏んづけて襲われた事や、
特注品ポーションの配達を私がすると持って行った挙句ガタイの良いサングラスをかけたおっさん達に首根っこ掴まれて帰ってきた事や……数え挙げればきりがない。
そんなトラブルメーカーを助けるうち、勝手に好感度を振り切ってたらしく呼ばれた誕生日会で何故かリョーチの御父さんと闘って認められあれよあれよと結婚に。
まぁ。
あばたもえくぼと言うのか、周囲がそれ以上に濃い人ばかりだったせいなのか、途中からそのトラブルメーカーもまぁ可愛いもんかと思うようになりまして。
結果、子供まで産まれてしまいました。
「大変だ、大変だ、変態だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
街の新聞記者。
ユージュさんが騒がしく叫びながら走っていく。
煩いぞ、赤ちゃんがうとうとしていたのに。
起きたらどうするんだ!
「えっ、何か来たのかしら―――って動けない!?」
早速トラブルへ向かおうとする妻を俺とコーイチ婆さんが醒めた目ででジッと見る。
暫くして耐えられなくなったのか
「ゴメン」
と小さく呟いて大人しくなってくれた。
全く可愛いもんだ。
あれっ?
変態―――じゃなかった、大変だと聞こえたのでリョーチを家に残して仕方なしに外に出る。
店長がいなくなって自警団的な組織ができた。
実は俺の強さってそこらの冒険者じゃ太刀打ちできないくらい強かったらしく、その組織の団長にさせられている。
収入的には既に十分なのだが、街の人たちに請われて仕方ないのと、全体の2割くらいがリョーチが原因でのトラブルなのでごめんなさいと言う意味も込めてまじめに参加している。
「団長、あっちの奥です!変態が近づいてきています!」
トトゥルとグレータは別の所にいるのだろうか、最近入ったらしい―――えっと、名前忘れたけど新人さんの門番がその変態の場所を教えてくれる。
というか城壁の外、目の前にいるじゃん!
2メートル近くありそうな長身に全裸で全身ぱっつんぱっつんの筋肉、危険な部分だけ大きな葉っぱで隠されている。
あれは北の方に生えるタケマールの葉かな?
そして、何故か重力に逆らって直立する身長の倍はありそうな髪。
横を向いたまま微動だにせず、ポージングを決めている。
ポージング?
いや、この圧力と構えは―――――
「――――っ!総員退避!総員退避ーー!どこでもいいからここから離れろー!」
危険を感じてこの場にいる全員を散らす。
俺も同じく茂みに逃げ込む。
少しして
「みんなぁ~~~~~~~~~~~~~~~」
聞き覚えのある声で、そのポージングから繰り出されるパンチの一撃は――
「帰ってきたわよぉ~~~~~~~~~~~~」
城壁を砕き塵芥に変え
「たっだいまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!」
ヨカゼ街に店長が帰ってきた。
P.S. その頃のトトゥルとグレータ
「タイシジ=サンを迎えようと一足先に来てみたらなかなかの掘り出し物なのであーる」
「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」」
「その鍛え上げられた筋肉、我が軍で生かすのであーる」
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