変態店長とバイトその１

CASE 20

ダンジョンコアの暴走、通称スタンピード。
ダンジョンを構築するコアが壊れたり狂ったりすることでダンジョンが無くなりその中に住んでいた魔物が全部押し流される現象だ。

実はダンジョンコアの暴走これ、ほとんど知られていないのだが自然界で起こる事はまずありえない。
コアを削り修復している間に鉄や銅で出来た剣を刺しておく。
すると、魔力の流れを濁らせる金属のせいでやがて壊れるか異変を起こすので人為的起こす事が出来る。

過去の戦争に敵国に熟練者が侵入し、わざとスタンピードを起こすのは一般的な手段だったとか。

少なくとも今回の暴走は帝国か自国か分からないが戦争を望む人たちの仕業の可能性が高い。
ヨカゼ街が無くなれば自国は暴走を帝国のせいにすればいいし帝国は好機とばかりに民衆をあおればいい。

「たっだいまぁ～ん」

「ぎゃああああああああああああ」

後ろから場違いなバリトンボイスの猫なで声。
俺はもう慣れているがトトゥルはまだ免疫がないのか思い切り叫び声をあげていた。

「なぁ～んか、大変なことになってるわねぇ～。でも大丈夫よっ。あんまり呼びたくないんだけどぉ～、心強い味方、連れてきちゃったからっ☆」

「お世話になるのであーる。しかし、貴君の言った通りかなりの強さをもっているのであーる。うちの大将より若干強いみたいなのであーる。そこの店員よ、我が帝国で―――」

「すとぉ～～～～っぷ。今回はそれどころじゃないでしょぉ～。そ・れ・に、この子はあたしのお弟子さんみたいなものだからダ～メ」

「むぅ。既にお手付きだったのであーる。しかし吾輩は諦めないのであーる。少年、この男女が嫌になったら吾輩の元に来るのであーる。少年の強さなら将来一軍を統率できるのであーる！」

「ちょっとちょっとぉ～、どさくさにまぎれて勧誘はズルいわよぉ～！街中の守り、任せられるのは分かったでしょぉ～。さっさと討伐に行くわよぉ～！」

「うぅーむ。分かったのであーる。仕方ないのであーる。では、吾輩は南を」

「じゃあ、あたしは北を。殲滅するわよぉ～」

颯爽と現れては去っていく二人。

「―――――。これどう……すればいいのかなぁ？」

「多分………大丈夫なんじゃね？」

その日、夜が白むまで待っていたが二人が帰ってくることはなかった。
街の中もいたって平穏で、騒動が少し起こったものの魔物が侵入して大騒ぎ―――なんてことはなかった。

そして、次の日も、

次の週も、

次の月も。

店長とヤーマン大佐がこの街に戻ってくることはなかった。