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密貿易開始編
幻想的(ファンタジー)な盗人と現実主義者(リアリスト)の主人公 その4
しおりを挟む朝5時に設定していたアラームを止める。
自分と彩綾の朝飯を用意して先に頂いて制服に着替える。
干し肉で出汁をとったスープとトーストにピザソースを塗り、スクランブルエッグときゅうりを乗せる。
実はこの干し肉やスープの野菜、シルイットで作られたものだ。
豚肉っぽい肉は近所のスーパーの物より脂の乗りが良くて美味いし、野菜類は特有の青臭さやクセが強い半面、他の食材に混ぜ込んだり火を通したりするとむしろ香りが強くなり美味しくなった。
いい出来だと思いながらもちゃっちゃと準備を済ませ事務所へ向かう。
カチリと戸を閉めしっかり鍵をかけたのを確認してから扉をくぐる。
窓から見えるシルイットの町並みは、炊事の煙が立ち上り、桶を両手に井戸へ水を求める人で通りは溢れかえり日常のワンシーンながら新鮮な風景に感じられる。
っと、見とれている場合じゃなかった。
始業時間までに犯人の目星をつけるつもりだったんだ。
2台を並べて高速再生していく。
…………
……………………
………………………………
設置して2時間を過ぎた頃、入り口の枠あたりの所から蛍の様な光が2つ3つすり抜けていく。
ほぼ同時刻、ペットボトルの方にも似たような光が何十とペットボトルに群がっていた。
赤・青・黄・緑とほんのり色づいていて少し幻想的だ。
スキップしても群がったままでその光景は夜が明けて少し明るくなるまで続いていた。
ペットボトルの方を確認すると先日より数センチ水位が下がっている。
勿論ペットボトルの方に穴など開いていない。
成る程、この蛍もどきたちが犯人か。
しかし、砂粒の様な隙間をすり抜けてくる蛍をどうやって捕まえようか。
仕事に戻り、ようやく慣れてきた作業に移りながらも思いを巡らせるのであった。
定時に仕事を終わらせホームセンターに車を走らせる。
大きな密閉できる容器を探すが見つからない。
店長さんに聞いてみても
「あぁー、中が見えて1.5Lのペットボトルを軽く入れられ密封できる容器なんて見た事ないですねぇー」
とのこと。
犯人への報復は暗礁に乗り上げた………かに見えた。
が、この妙に語尾を伸ばす店長さん―――川越さん、いいアドバイスをしてくれました。
「ってゆうかぁー。そんな容器、何に使うんですかぁー?」
「蛍みたいに光る害虫っぽいのが出るんで捕まえようかと。どうやら戸の隙間でもすり抜けるみたいなので、ジュースに群がった所を密封できる容器で一網打尽にしたいなーと思ってるんですよね」
光が現れる動画を何度も見返して気付いたのだがこの蛍達、恐らくだが戸や床板の小さな隙間から侵入してきているのではないかと目星をつけている。
「んー、その害虫。捕まえるんじゃなくて根絶やしにしたら駄目なんスかねぇー」
と、園芸コーナーを指さす。
園芸コーナーでは除草剤のセールと一緒に殺虫剤のセールも行っていた。
「…………あっ」
日本時間二一〇〇時、害虫駆除を決行!
とのことで罠を仕掛け、罠を作動させる紐を持ちつつの隣の部屋で見つからない様迷彩柄の寝袋に包まり待機する。
この紐を引っ張ることで餌のジュースの周りを園芸用のビニールが覆う。
そのまま用意したこの殺虫剤で一網打尽にする予定だ。
因みにこの寝袋、東條依頼の品の登山セットの中に入っていたもの。
特注とかで無駄に高いと思っていたが登山グッズの中身は何故か本格的なサバイバルキットになっていた。
………いや、何目的でこの装備なのかは想像つくんだけどね。
死んだら終わりの現実世界でよーやるわと思うよ、ほんとに。
そんな事を考えていると、ふわりふわりと色とりどりの光が壁をすり抜けていくではありませんか。
厳密にいえばすり抜けてではなく板と板の間のほんのわずかな隙間を通ってだと推測するけど。
もしこの推測が外れていた場合、今回のせん滅作戦は失敗だろう。
『よっ、いーつき』
『おうっ、いいつきっ。きょうはこれたんだな』
『おまえら、はやくしないとなくなっちゃうぜ?つぎのしる、どこかにかくされてるみたいだからこのしるがなくなったらおわりだぞ』
『やべっ、まじか』
『さんきゅ、すぐいく!』
慌てて通り過ぎる光虫達。
…………こいつ、喋るぞ。
若しくは自分の耳がおかしくなっているだけか。
少なくとも違う文字を使う人達の言葉が通じるのは自動的に翻訳されている可能性もある。
もしかしたらその延長で虫たちの言葉も聞こえたのかもしれん。
もしこの世界でGの声が聞こえてくるのなら、あの扉は封印するかもしれんな。
……考えるだけ無駄か。
喋る虫だとしても被害を被っているのには違いない。
とりあえず予定通りに計画を実行するか。
目の前を横切る光がなくなったので寝袋を脱ぎ、半開きの戸で身体を隠すようにしジュース入りペットボトルを設置した部屋を覗き見る。
おぉ、いるわいるわ。
喋る光虫(?)たちのおかげで、明りがなくとも部屋がくっきり見える。
その光源の中心はペットボトルに入っている液体から発せられているように見える。
これなら予定通りに一網打尽にできるだろう。
………………三
…………二
……一
今っ!
思いっきり引っ張るとだるんと垂れていたビニールが持ち上がり、縁日で見る金魚の袋の様に上部がキュッと締まる。
いち早く異変に気付いた何匹かは逃したがワーワーキャーキャー言いながら逃げていった。
我関せずとばかりにペットボトルにへばりつく光虫(仮)もいたが、捕えた多くはこちらに突撃しに来るか反対側に逃げようとするか――――だが、罠のビニールが両者とも阻む。
ひっぱって破ろうとする個体もいたが、ハウス用ビニルなのでそう簡単には破られない。
一網打尽を確認して、上部のすきまからノズルを突き刺す。
羽虫たちが気を取られた瞬間、先端から殺虫剤が噴出する。
『『『『『ぎゃあああああああああああああああ』』』』』
うっ………うるせぇ。
『げほっ、ごほっ、がはっ』
『まずい、……ごほごほっ、これどくだ!』
『くそっ、《キュア》……《キュア》………《キュア》』
『このぶれすをどうにかしないとまずい《キュア》』
『……あとはたのむ。《浄化》…ぱたり』
殺虫剤のツンとした刺激が雨上がりの森の様なやさしい香りに変わる。
『たすかった……ごほっ。《キュア》』
その後キュアキュア言いながら、ぱたりぱたりと倒れていく光虫たち。
…………うん、なんかすまんかった。
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