完結【R18】おいもではじまるシークレットベイビー

加賀美 ミロ

文字の大きさ
6 / 85

資料管理室の才女たち その2

しおりを挟む
王都に向かうには急ぎであれば、北方辺境の者なら騎獣単騎で最短距離の”太古の森”を直線で抜けていく。

商人そして騎獣できない者たち、またはのんびり旅程を満喫したい人々などは整備された幹線街道をすすむ。

深い森を騎獣で抜ければ野営をしても2日だが、街道旅は南へ森を大きく迂回しながら進むので王都まで2週間は超える。

今回マリアンヌの王都行きにあたっては片道約1ヶ月の、父とマリアンヌの2人旅であった。

身軽なため騎獣でも構わなかったのだが、見聞を広めるという建前で幹線街道で移動することにカルドが決めた。

これから長く別々に暮らす娘を離れがたく想った父が街道沿いに馬車でゆっくりと移動することにしたのだった。



「とうさま、あれは何?」

御者台に2人並んで座っていると前方の白い大きな建物を指差す娘に父が説明をする。

「ああ、あれは図書館だな。ここらの大きな町まで来ると教会の隣に図書館が併設されるようになったんだ。今上皇帝の主要な政策の一つだ」



マリアンヌの生まれた男爵領は北方辺境地と呼ばれる。

総領主オリウス伯爵領に内包され、パンチャドラ王国に属している。

大陸北西部に位置するここパンチャドラ王国は大陸を統べるカヴァリエレドラ帝国の一部でもあった。



今上皇帝である”黒騎士皇帝”、こと アマリクオル・カヴァリエレドラ2世は『正しい勤労・教育・納税』を掲げ自ら先導し帝国民とともに汗をながし地に降り活動する歴史上稀なる君主である。在位中から賢王とも呼ばれ崇められている。

その皇帝肝入り政策の一つが ”全領への図書館敷設” である。

しかしながら、資金に人材そして蔵書の確保がなかなか進まず豊かな領を拠点に設置されるにとどまっている。

それでも、賢王カヴァリエレドラ2世の思想に影響を受けた土地を持たない富裕な貴族や豪商たちが居住領内に私設図書館やそれに付随する教育施設を市民にも開放するなどして少しずつではあるが草の根レベルまでの識字率の向上につながっている。

ちなみに、ファルマ男爵領にはまだ図書館は完成しておらず館の中にある蔵書を定期的に領民に開放するにとどまっていた。



「ふわぁぁぁぁ、図書館!?聞いたことはあるけれど初めて見るわ!あの建物いっぱいに本が詰まっているの?誰でも読める?今から行ってもいい??」

興奮気味に矢継ぎ早の、質問というよりもはや願望の羅列を始める愛娘を愛情たっぷりに見つめながら思わずいいよと許可しそうになる父カルド・ファルマであったが、ここで知識欲旺盛な娘にそれを許してしまうと王都への到着が1週間は伸びてしまい約束の日時にまにあわなくなってしまう。


「王都に行けばこの5倍は大きい図書館が数カ所あるんだよ、ここの図書館に立ち寄ると、お前のことだ、当分動きたくなくなるだろうけれどどうする?」

「5倍が何箇所も?!王都にいく!すぐいく、今すぐいく!!」

幼児の頃とほとんど変わらない純粋無垢な娘をみていると、父として愛娘を一人王都に残すことに心の痛みを禁じ得ない。

「とうさま、私絶っ対にファルマのみんなと北方辺境に住む全ての人がお腹いっぱいになれるよう頑張るからね!!」

愛する娘は賢いだけでなく、領民や自分に関わる全ての人を幸せにしようと努力する優しい心根を持っていることにカルドは親として心からの喜びを感じていた。

「あぁ、お前ならできるとわかっているけれど。。。無理は絶対にするんじゃないぞ」

カルドはそっと微笑んで手綱を片手に預け、空いた手でマリアンヌのほわほわした自分に似た夕焼色の頭頂をぽんぽんと優しくたたいた。

母を亡くして泣き続けていたあの日から、カルドが娘にしてきた精一杯の愛情表現だ。

マリアンヌはそんな優しい父の、貴族なのに働き者で傷だらけのふしくれだった大きな手を取りぎゅっと握った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

処理中です...