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資料管理室の才女たち その2
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王都に向かうには急ぎであれば、北方辺境の者なら騎獣単騎で最短距離の”太古の森”を直線で抜けていく。
商人そして騎獣できない者たち、またはのんびり旅程を満喫したい人々などは整備された幹線街道をすすむ。
深い森を騎獣で抜ければ野営をしても2日だが、街道旅は南へ森を大きく迂回しながら進むので王都まで2週間は超える。
今回マリアンヌの王都行きにあたっては片道約1ヶ月の、父とマリアンヌの2人旅であった。
身軽なため騎獣でも構わなかったのだが、見聞を広めるという建前で幹線街道で移動することにカルドが決めた。
これから長く別々に暮らす娘を離れがたく想った父が街道沿いに馬車でゆっくりと移動することにしたのだった。
「とうさま、あれは何?」
御者台に2人並んで座っていると前方の白い大きな建物を指差す娘に父が説明をする。
「ああ、あれは図書館だな。ここらの大きな町まで来ると教会の隣に図書館が併設されるようになったんだ。今上皇帝の主要な政策の一つだ」
マリアンヌの生まれた男爵領は北方辺境地と呼ばれる。
総領主オリウス伯爵領に内包され、パンチャドラ王国に属している。
大陸北西部に位置するここパンチャドラ王国は大陸を統べるカヴァリエレドラ帝国の一部でもあった。
今上皇帝である”黒騎士皇帝”、こと アマリクオル・カヴァリエレドラ2世は『正しい勤労・教育・納税』を掲げ自ら先導し帝国民とともに汗をながし地に降り活動する歴史上稀なる君主である。在位中から賢王とも呼ばれ崇められている。
その皇帝肝入り政策の一つが ”全領への図書館敷設” である。
しかしながら、資金に人材そして蔵書の確保がなかなか進まず豊かな領を拠点に設置されるにとどまっている。
それでも、賢王カヴァリエレドラ2世の思想に影響を受けた土地を持たない富裕な貴族や豪商たちが居住領内に私設図書館やそれに付随する教育施設を市民にも開放するなどして少しずつではあるが草の根レベルまでの識字率の向上につながっている。
ちなみに、ファルマ男爵領にはまだ図書館は完成しておらず館の中にある蔵書を定期的に領民に開放するにとどまっていた。
「ふわぁぁぁぁ、図書館!?聞いたことはあるけれど初めて見るわ!あの建物いっぱいに本が詰まっているの?誰でも読める?今から行ってもいい??」
興奮気味に矢継ぎ早の、質問というよりもはや願望の羅列を始める愛娘を愛情たっぷりに見つめながら思わずいいよと許可しそうになる父カルド・ファルマであったが、ここで知識欲旺盛な娘にそれを許してしまうと王都への到着が1週間は伸びてしまい約束の日時にまにあわなくなってしまう。
「王都に行けばこの5倍は大きい図書館が数カ所あるんだよ、ここの図書館に立ち寄ると、お前のことだ、当分動きたくなくなるだろうけれどどうする?」
「5倍が何箇所も?!王都にいく!すぐいく、今すぐいく!!」
幼児の頃とほとんど変わらない純粋無垢な娘をみていると、父として愛娘を一人王都に残すことに心の痛みを禁じ得ない。
「とうさま、私絶っ対にファルマのみんなと北方辺境に住む全ての人がお腹いっぱいになれるよう頑張るからね!!」
愛する娘は賢いだけでなく、領民や自分に関わる全ての人を幸せにしようと努力する優しい心根を持っていることにカルドは親として心からの喜びを感じていた。
「あぁ、お前ならできるとわかっているけれど。。。無理は絶対にするんじゃないぞ」
カルドはそっと微笑んで手綱を片手に預け、空いた手でマリアンヌのほわほわした自分に似た夕焼色の頭頂をぽんぽんと優しくたたいた。
母を亡くして泣き続けていたあの日から、カルドが娘にしてきた精一杯の愛情表現だ。
マリアンヌはそんな優しい父の、貴族なのに働き者で傷だらけのふしくれだった大きな手を取りぎゅっと握った。
商人そして騎獣できない者たち、またはのんびり旅程を満喫したい人々などは整備された幹線街道をすすむ。
深い森を騎獣で抜ければ野営をしても2日だが、街道旅は南へ森を大きく迂回しながら進むので王都まで2週間は超える。
今回マリアンヌの王都行きにあたっては片道約1ヶ月の、父とマリアンヌの2人旅であった。
身軽なため騎獣でも構わなかったのだが、見聞を広めるという建前で幹線街道で移動することにカルドが決めた。
これから長く別々に暮らす娘を離れがたく想った父が街道沿いに馬車でゆっくりと移動することにしたのだった。
「とうさま、あれは何?」
御者台に2人並んで座っていると前方の白い大きな建物を指差す娘に父が説明をする。
「ああ、あれは図書館だな。ここらの大きな町まで来ると教会の隣に図書館が併設されるようになったんだ。今上皇帝の主要な政策の一つだ」
マリアンヌの生まれた男爵領は北方辺境地と呼ばれる。
総領主オリウス伯爵領に内包され、パンチャドラ王国に属している。
大陸北西部に位置するここパンチャドラ王国は大陸を統べるカヴァリエレドラ帝国の一部でもあった。
今上皇帝である”黒騎士皇帝”、こと アマリクオル・カヴァリエレドラ2世は『正しい勤労・教育・納税』を掲げ自ら先導し帝国民とともに汗をながし地に降り活動する歴史上稀なる君主である。在位中から賢王とも呼ばれ崇められている。
その皇帝肝入り政策の一つが ”全領への図書館敷設” である。
しかしながら、資金に人材そして蔵書の確保がなかなか進まず豊かな領を拠点に設置されるにとどまっている。
それでも、賢王カヴァリエレドラ2世の思想に影響を受けた土地を持たない富裕な貴族や豪商たちが居住領内に私設図書館やそれに付随する教育施設を市民にも開放するなどして少しずつではあるが草の根レベルまでの識字率の向上につながっている。
ちなみに、ファルマ男爵領にはまだ図書館は完成しておらず館の中にある蔵書を定期的に領民に開放するにとどまっていた。
「ふわぁぁぁぁ、図書館!?聞いたことはあるけれど初めて見るわ!あの建物いっぱいに本が詰まっているの?誰でも読める?今から行ってもいい??」
興奮気味に矢継ぎ早の、質問というよりもはや願望の羅列を始める愛娘を愛情たっぷりに見つめながら思わずいいよと許可しそうになる父カルド・ファルマであったが、ここで知識欲旺盛な娘にそれを許してしまうと王都への到着が1週間は伸びてしまい約束の日時にまにあわなくなってしまう。
「王都に行けばこの5倍は大きい図書館が数カ所あるんだよ、ここの図書館に立ち寄ると、お前のことだ、当分動きたくなくなるだろうけれどどうする?」
「5倍が何箇所も?!王都にいく!すぐいく、今すぐいく!!」
幼児の頃とほとんど変わらない純粋無垢な娘をみていると、父として愛娘を一人王都に残すことに心の痛みを禁じ得ない。
「とうさま、私絶っ対にファルマのみんなと北方辺境に住む全ての人がお腹いっぱいになれるよう頑張るからね!!」
愛する娘は賢いだけでなく、領民や自分に関わる全ての人を幸せにしようと努力する優しい心根を持っていることにカルドは親として心からの喜びを感じていた。
「あぁ、お前ならできるとわかっているけれど。。。無理は絶対にするんじゃないぞ」
カルドはそっと微笑んで手綱を片手に預け、空いた手でマリアンヌのほわほわした自分に似た夕焼色の頭頂をぽんぽんと優しくたたいた。
母を亡くして泣き続けていたあの日から、カルドが娘にしてきた精一杯の愛情表現だ。
マリアンヌはそんな優しい父の、貴族なのに働き者で傷だらけのふしくれだった大きな手を取りぎゅっと握った。
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