完結【R18】おいもではじまるシークレットベイビー

加賀美 ミロ

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愛を育む日々 その4

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「ババ様、こちらのうねは今年は休作で行こうと思います。 あちらのハーブを休耕期間こちらに植え直したいのですがよろしいですか?」

「ああ、かまわん。空いたところはワシがやるからそのままにしておいてくれ」



ある日の朝、いつもの光景。

マリアンヌの王都生活も4年目となった。

研究所内にある園芸実験場での作業はほとんど一人で行えるようになっていた。

この実験場は生産研究所の食料部門の管理下にある。

担当研究員の論文などに基づきその実験を行っているのだが、研究員の多くが貴族子女であるため”土いじり”に秀でたものがいない。

そこでババビアゴと数人の庭師や薬師そして農夫たちが実際の管理を行っていた。

そこに資料管理室から”実施報告書作成要員”としてマリアンヌも参加していた。

偶然の出会いだったババビアゴとマリアンヌだが、今となっては父の時と同じような公にも師弟関係と見なされていた。

資料管理室にいない時にこの園芸実験場までくればマリアンヌに会えることもしばしばだ。





マリアンヌたちが住むパンチャドラ王国が帝国の傘下におさまり戦禍が去って数十年。

その間、かなりの地域で食料自給率は向上した。

しかし、気候条件の厳しい辺境地区や水資源の乏しい地区などではいまだ寒村が散見されその裏で行われる人身売買の犠牲になる子供の話は今も問題になっている。

マリアンヌの育った北方辺境地区もかつてはこの国、いや大陸全土の中でも食糧が育みににくく人の住みにくい環境であった。

そんな中、商いと戦時褒賞などで多くの金品を得た北方地区を治めるオリウス家が、その金を使い積極的に領内耕作地や街区の整備を行ったと言われている。

実際今のファルマ領をはじめとする北方地区において、人々は飢えることはほとんどなく国内でも上位の環境で生活を送っている。

領内の需要分は自領での生産物で補えるほどまでに潤っていた。


「ババ様、『戦時食糧大全』の中にあった『携行食問答』の箇所で質問があるのですが今日のお昼休憩時間にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「今日の昼か? いや、今日の昼はちょいと私用がある。急ぎなら書き置きでもしておいてくれたら明日には返事を用意しておくぞ」

「そうですか、では質問をまとめておくので明日でなくても構いませんのでお時間ある時にご回答いただけますか」

すっかりシゴでき職業婦人なマリアンヌである。


「おお、そうじゃ。アレの材料になる薬草が乾燥しあがっているぞ、回収しておけ」

「わかりました。よかった、ちょうど手持ちのものがなくなりそうだったんです」

「ついぞ先月大量に私用に作っておったよなぁ・・・。はぁ、大概にしておけよ。おまえたちの消費量は異常じゃ。まったく、まだ正式な婚約すらしておらんというのに最近の若者は」

「ババ様の若かりし頃の武勇伝、ディエゴ様から先日聞きましたよ。一夜で10人以上のお姉さまを相手に」

「あーあーあーそうだった、そうだった、思い出した。今日の昼休みはあやつもきて薬の調合につきあうといっておったぞ」

「まぁ、リオが?」

最近はさらに仕事が忙しくなり長く会えない日々に悶々とすることもあるマリアンヌ。

1週間という期間が”長く会えない日々”なのかどうかは人によるのかもしれないが。

「おまえら、神聖なワシの庭でいたすなよ」

「え、すでに先日「あーあーあーいわんでいい」」

男女の師弟、祖父と孫のような関係性にもかかわらず結構開放的な会話をいたす2人なのである。

「まぁ、カルドもおとなしそうな顔の割にお盛んなやつだったからな。父娘とはいえ血はあらそえないのだろうよ」

小屋の外で水やり機を調整しているにわか孫娘に対し複雑な気持ちのババ様ならぬじじ様なのであった。
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