完結【R18】おいもではじまるシークレットベイビー

加賀美 ミロ

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愛の巣篭、冬籠カウントダウン その4

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サシャの爆弾発言により一気に覚醒したが、体が追いつかず昏倒した元貴族リオネル青年はベッドに落ちた。

しばらくして目を覚ますと見慣れた病室の天井が目に入る。耳には紙をめくる音と何かを書き付ける音がしている。

「起きたか」

聞き慣れた師匠の声がする。

「久しぶりに夢を、とてつもない悪夢をみていました」

よろよろとベッドから顔を起こすと悪夢で見た師匠その2サシャがいた。

先ほどの悪夢が蘇り吐き気が込み上げる。

うっ、と手で口元を抑えるとババビアゴが洗面器を差し出してきた。それを受け取り何もでない嘔吐を繰り返す。

「悪夢っていうのは、マリーちゃんの結婚のこと~?」

師匠その2改め悪夢の権化がさらなる爆弾を落とす。

「おい、その話を今するな!こいつがまた気を失ったら話が進まんだろう」

師匠が見かけによらず優しい手つきでリオネルの薄くなった背中をなでさする。

「あ、あの、師匠。マリーというのは、、、あのマリアンヌのことですか?う、うgっ」

今度は止まらない嗚咽おえつが始まってしまった。

「だぁぁぁぁー、もう仕様のない奴だ。まだだ、まだ婚姻も婚約もなってはおらん!お前次第じゃ!」

「・・・へっ?」

「とりあえず顔を洗い湯浴みをし、身綺麗みぎれいにしてしゃんとせい!そして食べられるだけ食っておけ!たるみすぎじゃ!明日またやってくる。この資料をよめ。あとこれは土産じゃ、好きなように使え」

そう伝えると、ベッド脇の棚に書類の束と小箱を置き2人は病室を後にして去っていった。

ぼうっと2人を見送った後、ババビアゴの『まだ婚姻も婚約もなっていない』というセリフを反芻はんすうしながら動きの鈍い足を奮い立たせ看護師の元まで自力で壁つたいに歩いて行った。

看護師たちは一様に驚いた顔をしたが、リオネルの若干生気の戻った顔と真剣な願いにすぐに対応してくれた。

食事と湯浴みを済ませ長くなった髪は短く切り揃えてもらった。

部屋に戻り、淹れてもらった薬用茶をいただきながら書類に目を通していく。

震える手、破り捨てたくなる激情、込み上げる憤怒、己の現在の立ち位置の不甲斐なさにやるせなさを感じるなど忙しい感情に久々に振り回され疲労感に包まれた。

まだまだきちんと働かない頭をフル回転させ、集中して明日ババビアゴたちが来たら尋ねるべきことを頭の中でリストアップしていく。

疲れたのに興奮したままの状態で明日まで寝ずに夜を過ごし切るか、と思案していたところお土産だと置いて行かれた箱の存在を思い出した。

さほど重くもないその箱をベッドの上にあげ、そっと開けてみる。

なんということだろうか、この香り!!

思わず箱に頭をつっこんでしまう。そして肺の中、いや身体中の細胞に行き渡らせるべくとめどなく吸引をした。

あまりに吸いすぎて一瞬世界が暗転したため、息を吐く。

はっはっ、と軽く息を整えた後今度は慎重に箱の中の空気を吸い込む。

これはまさしくアンの香りである。

身体中にみなぎり始める何かの力を感じながら箱の中に畳まれた薄い大きな布とふかふかした小さめの厚手の布を取り出しベッドの上に倒れ込む。

ここ数年間忘れていた体の感覚が戻っていき、愛しいアンへの恋慕れんぼの念が弾けるほどに湧き上がってくる。

こうしてはいられない、と再度看護師を探し筆記具を借りてくる。

先ほど頭の中にリストアップされた聞くことリストを書き付け、さらには考えうる対抗策も書き殴っていく。

ひとしきり書き終わったところで、看護師のところに筆記具を返しにいく。

ゆっくりではあるが壁つたいに歩かなくても自力で歩行が可能になっていた。

看護師に

「夕食をいただきましたらもう寝ますのでどうぞ朝までおこさないよう室内には入らないでください」

と伝え念を押した後、食堂で久々に夕食を取ると漲る力を感じながら急いで病室へ戻った。

再度、湯浴みをし、歯も磨きベッドに上がるリオネル青年。

マリアンヌの匂いのする布たちに正座で土下座スタイルの挨拶をした後、それをだきしめひたすら久しぶりの自慰にふけった。

こんなに右手を酷使したのは、マリアンヌとの初体験前に自制をするためにがんばっていた20歳の頃振りであった。





翌朝、なんだか臭いのこもった病室の窓を開け放ち換気をした後リオネルは朝食を取りに食堂へ向かった。

久々に寝巻から軽装へと着替えた。そして、再度食堂へ行きそこで働くひとに客人のために茶を用意したいと頼むと快く茶の用意を引き受けてくれた。

礼を伝えトレイに乗せた茶をもち部屋に戻るとすでにババビアゴとサシャが来ていた。

「椅子を借りてきている、ここで話そう」

そうサシャがいう窓際にテーブルを見ると椅子が2つ用意されていた。

テーブルの上に茶を並べ、棚から書類を下ろしリオネルはベッドに腰掛け話を始めた。

「師匠、サシャ様。このたびはこのような無様な状態にいる私にマリアンヌの件、ご連絡いただき本当に感謝します。この御恩は決して忘れません」

「何をいうとる、そんなもんは問題が解決してからのはなしじゃ」

「そうよ~、まぁ、でも1日でここまでげんきになるとは一体あの箱何が入っていたの?」

ババビアゴは目を逸らし、リオネルは恥ずかしそうに下を向いた。

「・・・あぁ、、、なんとなく」

なんとなく察したサシャであった。

その後、リスト化していた質問事項を矢継ぎ早に投げかけその回答を得たリオネルは少し思案した後口を開いた。

「このゴライアスという帝国野郎がマリアンヌとの婚姻を願う理由がわからなければこちらの策を絞り込めないと思うのです。そこを定めるにはどれくらいの日数がかかるでしょうか」

ババビアゴが帝国暗部に伝手があるのは以前偶然知ることがあった。

特段その後、それについて黙っていろと言われたこともないが内容が内容であるためもちろん他者に漏らすことはしていなかった。

しかし、預かった資料によればここにいるサシャもなんらかの国内暗部の関係者でババビアゴもサシャもお互いそのことを隠してはいないようだと判断した。

「おそらく確度の高い情報を得るのにひと月、目安となる簡便な情報ならあと10日で手に入るだろう」

帝国央都は遠い、鳥を飛ばした連絡と言っても一朝一夕というわけには行かないのだ。

「なるほど、わかりました。そうであれば確たる策を打てない以上いったんそいつらをマリアンヌの下から離して時間を稼ぐのがいいかもしれませんね」

「たしかにそうだ、だが向こうもどうも時間はあまりないようで今回の特許設定を盾に婚姻、まではいかずとも婚約は確定させていこうくらいには考えていると思うぞ」

3人の間に長い沈黙がおちた。その静寂を破ったのはサシャだった。

「それなんだけどさぁ、私ちょっとかんがえがあるんだよねん。聞いてくれる?」

うっしっし、と悪そうな顔で2人を近くに引き寄せるとサシャは自分の策を話し始めた。
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