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私
しおりを挟む「ヒーロー」という言葉に、根拠のない信頼を抱いていたあの頃。
それは唯一無二の、特別な言葉と力を持っていて、偶像崇拝のようにその言葉を貴方に重ねて見ていた。
紛れもなくアレは私の中の最大の恋であったけれど、私は本当にあの人の事を見れていたのだろうかと時々思う。
私が貴方にヒーローと言ったあの日から、貴方は私のヒーローでいてくれた。いつも優しく手を差し伸べてくれた。
それは甘くて甘くて、緩やかな坂を転がるように下へ下へと私と貴方を落としていった。
見なくてはいけないいくつもの現実から逃げ隠れするように、2人だけの秘密を大事に守った。その時だけは幸せで、それは2人以外幸せにはしないものだった。
愛を伝える言葉として、尊敬を表す言葉として、伝えたはずのその言葉はいつしか、そうあらねばならぬという足枷となり、信じなくていけないという盲目的な信頼を作り出した。
そうして本当の私達は少しずつ薄れて、積み重ねた愛の外側だけを残して、架空の何かに想いを馳せる日々を過ごした。
もう、これ以上は無理だった。
好きでいることより、辛いことの方が多かった。
優しさを感じることより、引きちぎられるような悲しみを感じることの方が多かった。
離れたくはないのに、あなたの後ろで見え隠れする輝かしい幸せが、私の胸を締め付け続けた。
ただ、純粋に、好きな気持ちだけでいたかった。
「もう、ヒーロー辞めていいよ」
振り絞るように伝えたその言葉がどうか、ねじ曲がって伝わりませんように。
この選択がどうか、貴方を言葉の呪いから、足枷から、解放しますように。
貴方といた日々を、幸せを、そのすべての記憶を。優しいままで終わらせたかった。
貴方が私にくれた言葉を、嘘だと罵りたくなる前に。貴方との思い出を、偽りだと泣き出す前に。
どうか、もう二度と私の前に貴方が現れることがありませんように。
どこか遠くで、いつまでもいつまでも幸せでいてくれますように。
病気などしませんように。
悲しいことの後には、楽しいことがありますように。
寒い風が吹く日は、愛しい誰かの手で温まりますように。
そう、祈った。
貴方の温もりがせめて少しでも残るように、さっきまで貴方の手を掴んでいた両手を握りしめた。
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