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お役所
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十分ほど待たされて、また別の男性がやって来た。早速丁寧な挨拶と軽い説明をしてくれた。
「お待たせして申し訳ありません。チェンジリング局民生課課長のコベールと申します」
チェンジリング局――ときたか。
なんでも、【チェンジリング】に関わるすべての業務を行う部署なんだそうだ。
いやそれよりもなんと、担当部署への連絡から十数分ほどで、こちらの処刑場まで直ちに駆けつけてくれたということだ。しかも課長自身が。
彼は手慣れた様子で、更に続ける。
「理解しがたい事態にさぞ戸惑っておいででしょう。まずはこの場で、その点についてのご説明をさせていただきたいと思います」
お役所仕事の質の高さには恐れ入るばかりだ。
ここは処刑場。明らかに担当が違うだろうに、速やかな説明のために、わざわざよその施設の応接室を、会合用にそのままセッティングしてくれたらしい。受け入れた処刑場の対応も素晴らしい。
僕としては、訳も分からないままあちこちたらい回しにされたら閉口しているところだった。
こちらでならお役所仕事とそのまま通訳したら、きっと誉め言葉となるだろう。日本の役人も是非見習ってほしいものだ。
「まずはお名前と出身国をうかがってもよろしいですか?
「来栖幸喜ト、申し、マス。日本からデス」」
対面のソファーから僕もカタコトの挨拶を返すと、コベール課長は互いに着席してから何かを取り出した。
シルバーのブレスレットのようなものだ。
「これは、クルスコーキさん専用の端末になります。我が国の国民はすべて所持する物ですが、一通りの用事はこれで大体事足ります」
「ワタシ、国民、ですカ?」
「前の体の主が持っていた権利はすべて、チェンジリングとなった方に引き継がれるものと法で定められておりますので、現時点ではあなたは我が国の国民で間違いありません。ちなみに犯罪歴や借金等、不利になるものはその限りではありませんのでご心配なく」
軽い説明を聞きながら、ブレスレットをはめてみる。さしずめ時計の付いていない賢すぎるスマートウォッチといったところだ。
「あなたの場合、まずは翻訳機能からですね。通常ですと、最初から言語に不自由はないはずなのですが」
本当にチェンジリングとは不可解な現象です、と首を捻りながら、スマートウォッチ(仮)の使い方を教えてくれた。
「翻訳」
言われた通りの単語を口にすると、光学スクリーンのようなものが目の前に現れた。例えるならSFアニメの戦闘ロボのコックピットのようだ。あるいは、最近の流行なら「ステイタス」と唱えたような、と言ってもいいだろうか。
「これまで世界中に確認されたほぼすべてのチェンジリングの言語が登録されています。理解できる言語はありますか?」
問われて確認してみれば、ズラリと多種多様な、見たこともない文字らしきものが並んでいた。つまり最低でもこのリストの数だけ、彼の言うチェンジリングは存在したということだ。
視線に合わせて、自動で上下に動く。
どれもまったく読めない中、地道にスクロールしていくと、ある一点で目が止がまる。
【English】――英語があった。
念のため一番下まで確認すると、【中文】というのも見つけたが、これは中国語か。
他に読める文字はなかった。
「アリましタ。これ、デス」
会話可能な唯一の言語を指し示すと、課長は驚いたように目を見開いた。
「まさか、英語、ですか……」
信じがたい偶然というか、まさに因縁というか――彼はなんとも複雑な表情で、そう呟いた。
その意味を問おうとしたところで、課長は表情を事務的なものに切り替えて、職務に戻る。
「では、それを指で触れて選択して下さい。――はい、それで結構です。これで普通に話していただければ、問題なく会話できるはずです」
確かに今は脱線している場合ではなかった。重要なことから片付けていかなければ。
僕も意識を切り替えて、英語でしゃべり始めれば、これまでのストレスが嘘のように、会話が成立するようになった。
課長もほっとしたように、通常業務の説明に入る。どうも僕が、言葉に支障をきたすというイレギュラーを起こしたせいで、余計なひと手間をかけてしまったようだ。申し訳ない。
「それではまず、あなたの最大の疑問点であろう【チェンジリング】の説明をさせていただきます」
そうだ。まずそれだ。
さすがに担当部署を謳うだけあって手慣れたものだ。きっと何十年とノウハウを重ねた伝統のマニュアルがあるのだろう。
「僕が前にいた世界にもチェンジリングの伝承はありましたよ」
遠い記憶をたどった。
チェンジリング――ざっくりとした内容程度なら知っている。聞いたのは、ずっと昔のこと。
「――確か、向こうの世界では、赤ん坊を妖精に取り替えられるといった話でしたが……」
「では本来のチェンジリング現象が、正しく理解されずに変質したものかもしれませんね」
そうして課長は、この国でいうところのチェンジリングなるものを、分かりやすく簡潔に説明してくれた。
「お待たせして申し訳ありません。チェンジリング局民生課課長のコベールと申します」
チェンジリング局――ときたか。
なんでも、【チェンジリング】に関わるすべての業務を行う部署なんだそうだ。
いやそれよりもなんと、担当部署への連絡から十数分ほどで、こちらの処刑場まで直ちに駆けつけてくれたということだ。しかも課長自身が。
彼は手慣れた様子で、更に続ける。
「理解しがたい事態にさぞ戸惑っておいででしょう。まずはこの場で、その点についてのご説明をさせていただきたいと思います」
お役所仕事の質の高さには恐れ入るばかりだ。
ここは処刑場。明らかに担当が違うだろうに、速やかな説明のために、わざわざよその施設の応接室を、会合用にそのままセッティングしてくれたらしい。受け入れた処刑場の対応も素晴らしい。
僕としては、訳も分からないままあちこちたらい回しにされたら閉口しているところだった。
こちらでならお役所仕事とそのまま通訳したら、きっと誉め言葉となるだろう。日本の役人も是非見習ってほしいものだ。
「まずはお名前と出身国をうかがってもよろしいですか?
「来栖幸喜ト、申し、マス。日本からデス」」
対面のソファーから僕もカタコトの挨拶を返すと、コベール課長は互いに着席してから何かを取り出した。
シルバーのブレスレットのようなものだ。
「これは、クルスコーキさん専用の端末になります。我が国の国民はすべて所持する物ですが、一通りの用事はこれで大体事足ります」
「ワタシ、国民、ですカ?」
「前の体の主が持っていた権利はすべて、チェンジリングとなった方に引き継がれるものと法で定められておりますので、現時点ではあなたは我が国の国民で間違いありません。ちなみに犯罪歴や借金等、不利になるものはその限りではありませんのでご心配なく」
軽い説明を聞きながら、ブレスレットをはめてみる。さしずめ時計の付いていない賢すぎるスマートウォッチといったところだ。
「あなたの場合、まずは翻訳機能からですね。通常ですと、最初から言語に不自由はないはずなのですが」
本当にチェンジリングとは不可解な現象です、と首を捻りながら、スマートウォッチ(仮)の使い方を教えてくれた。
「翻訳」
言われた通りの単語を口にすると、光学スクリーンのようなものが目の前に現れた。例えるならSFアニメの戦闘ロボのコックピットのようだ。あるいは、最近の流行なら「ステイタス」と唱えたような、と言ってもいいだろうか。
「これまで世界中に確認されたほぼすべてのチェンジリングの言語が登録されています。理解できる言語はありますか?」
問われて確認してみれば、ズラリと多種多様な、見たこともない文字らしきものが並んでいた。つまり最低でもこのリストの数だけ、彼の言うチェンジリングは存在したということだ。
視線に合わせて、自動で上下に動く。
どれもまったく読めない中、地道にスクロールしていくと、ある一点で目が止がまる。
【English】――英語があった。
念のため一番下まで確認すると、【中文】というのも見つけたが、これは中国語か。
他に読める文字はなかった。
「アリましタ。これ、デス」
会話可能な唯一の言語を指し示すと、課長は驚いたように目を見開いた。
「まさか、英語、ですか……」
信じがたい偶然というか、まさに因縁というか――彼はなんとも複雑な表情で、そう呟いた。
その意味を問おうとしたところで、課長は表情を事務的なものに切り替えて、職務に戻る。
「では、それを指で触れて選択して下さい。――はい、それで結構です。これで普通に話していただければ、問題なく会話できるはずです」
確かに今は脱線している場合ではなかった。重要なことから片付けていかなければ。
僕も意識を切り替えて、英語でしゃべり始めれば、これまでのストレスが嘘のように、会話が成立するようになった。
課長もほっとしたように、通常業務の説明に入る。どうも僕が、言葉に支障をきたすというイレギュラーを起こしたせいで、余計なひと手間をかけてしまったようだ。申し訳ない。
「それではまず、あなたの最大の疑問点であろう【チェンジリング】の説明をさせていただきます」
そうだ。まずそれだ。
さすがに担当部署を謳うだけあって手慣れたものだ。きっと何十年とノウハウを重ねた伝統のマニュアルがあるのだろう。
「僕が前にいた世界にもチェンジリングの伝承はありましたよ」
遠い記憶をたどった。
チェンジリング――ざっくりとした内容程度なら知っている。聞いたのは、ずっと昔のこと。
「――確か、向こうの世界では、赤ん坊を妖精に取り替えられるといった話でしたが……」
「では本来のチェンジリング現象が、正しく理解されずに変質したものかもしれませんね」
そうして課長は、この国でいうところのチェンジリングなるものを、分かりやすく簡潔に説明してくれた。
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