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第3章 月夜のまどろみ、胸の音
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それは、ふしぎな感覚だった。
夜の湖畔は、風もなく、まるで時間が止まってしまったかのように静かだった。
僕の隣には、あの子――ユレアがいる。
手をつないで、ふたりで歩くなんて、ほんの少し前までは想像もできなかった。
けれど、今は自然にそうしていて、それが当たり前のようにも思える。
「今日はね……」
ユレアがぽつりと話しはじめた。
「月がいちばん満ちる日なんだよ。だから……わたし、すこし、変になるかもしれないの」
「変、って?」
「……体が、うずくの」
彼女の言葉の意味はすぐにはわからなかった。
でもそのとき、ユレアの手がすこし熱を持っていることに気づいた。
「大丈夫……?」
「うん、大丈夫。まだ、少しだけ……熱いだけだから」
そう言いながらも、ユレアの頬はほんのり赤くなっていた。
月明かりのせいだけじゃない。彼女の体が、どんどん熱くなっているのがわかった。
「今日は……わたしの家に、来ない?」
「え?」
「湖のむこうに、小さな小屋があるの。人間はあまり近づかないけど……そこで、少し休もう」
僕はうなずいた。
ふたりで、湖にかかる石橋を渡り、小屋へと向かった。
小屋の中は、ふしぎな匂いがした。
木の香りと、どこか甘い花の香りが混ざったような、やさしい空気。
「ここ、ユレアの部屋?」
「うん。月の光が届く場所……わたしの居場所」
部屋には、月明かりが天井の小さな窓から差し込んでいて、まるで天井に星が浮かんでいるようだった。
その光が、ユレアの白いドレスを照らし、布のすきまから身体のラインがうっすらと浮かんで見えた。
「んっ……」
ユレアが、すこしふらついた。
僕は慌てて支えようとして、そっと腕を伸ばした。
「ユレア、大丈夫!?」
「……っ、ごめんね。月が、強すぎて……体が、うまく動かなくなるの」
そのまま、僕の腕の中に倒れ込むような形になったユレア。
背中を支えた僕の手に、彼女の体の柔らかさがはっきりと伝わってくる。
「わ……!」
小柄なのに、体の一部だけが異様なまでに柔らかくて――
特に、胸が……まるで水風船みたいに重たく、そして柔らかく僕の腕にのしかかっていた。
「ご、ごめん……このまま、少しだけ……もたれさせて……」
「い、いいよ……! 全然……!」
僕は必死に顔をそらしていたけど、意識だけは確実に彼女の体に向いていた。
ドレスの中から、体温と甘い香りがふわっと広がってくる。
「……あ、だめ……少し、熱くなってきた」
ユレアがもぞもぞと動き出す。
そのせいで、胸のやわらかさがさらに僕の腕に強く押しつけられて――
「んぅっ……だ、だめ……こすれると、もっと……」
「ご、ごめんっ!!」
僕はあわてて手を離そうとしたけれど、その反動でふたりともバランスを崩した。
そのまま、畳の上に倒れ込む――
僕の上に、ユレア。
そして、僕の顔にぴったりとくっついたのは――
「う、うそ……またっ……!」
柔らかい太ももだった。
ユレアのスカートがめくれあがり、まるで膝枕のような体勢になってしまっていた。
しかも、それが直接、僕の顔に触れてしまっている。
「……あ、あの……」
「も、もうっ……どうして、こうなるの……っ!」
顔を真っ赤にして、ユレアは僕のほっぺをむぎゅっとつねった。
けれど、すぐにぷいっと目をそらして、ぽつりと言った。
「……でも、ちょっとだけ……安心した」
「え……?」
「あなたが、ちゃんと、わたしを……“女の子”として見てくれてるって」
その言葉に、僕の心臓が跳ねた。
「……本当に、嬉しいの。わたし、こういう体だから……誰かに近づくと、怖がられたり、避けられたりしてたから」
「ユレア……」
「だから、あなたが恥ずかしがったり、焦ったりしてくれると……ちょっと、どきどきする」
その顔は、月明かりの中で、とてもとても綺麗だった。
そして、ふたりの間の距離は――とても近かった。
「……そろそろ、帰らないといけないね」
ユレアは立ち上がり、スカートを整えた。
その胸が揺れ、腰がくびれて、太ももが月に照らされているのが、どうしても目に入ってしまう。
「ふふ……今、見てたでしょ?」
「……ご、ごめんっ!」
「……ふふふっ」
ユレアはいたずらっぽく笑いながら、指で僕のおでこをつん、と押した。
「また、来てね」
そう言って、彼女は小屋の奥の扉を開けて、月の光の中へと消えていった。
――その背中を見送るとき、僕の胸の中で、何かがゆっくりと膨らんでいくのを感じた。
それは、きっと――恋。
(つづく)
夜の湖畔は、風もなく、まるで時間が止まってしまったかのように静かだった。
僕の隣には、あの子――ユレアがいる。
手をつないで、ふたりで歩くなんて、ほんの少し前までは想像もできなかった。
けれど、今は自然にそうしていて、それが当たり前のようにも思える。
「今日はね……」
ユレアがぽつりと話しはじめた。
「月がいちばん満ちる日なんだよ。だから……わたし、すこし、変になるかもしれないの」
「変、って?」
「……体が、うずくの」
彼女の言葉の意味はすぐにはわからなかった。
でもそのとき、ユレアの手がすこし熱を持っていることに気づいた。
「大丈夫……?」
「うん、大丈夫。まだ、少しだけ……熱いだけだから」
そう言いながらも、ユレアの頬はほんのり赤くなっていた。
月明かりのせいだけじゃない。彼女の体が、どんどん熱くなっているのがわかった。
「今日は……わたしの家に、来ない?」
「え?」
「湖のむこうに、小さな小屋があるの。人間はあまり近づかないけど……そこで、少し休もう」
僕はうなずいた。
ふたりで、湖にかかる石橋を渡り、小屋へと向かった。
小屋の中は、ふしぎな匂いがした。
木の香りと、どこか甘い花の香りが混ざったような、やさしい空気。
「ここ、ユレアの部屋?」
「うん。月の光が届く場所……わたしの居場所」
部屋には、月明かりが天井の小さな窓から差し込んでいて、まるで天井に星が浮かんでいるようだった。
その光が、ユレアの白いドレスを照らし、布のすきまから身体のラインがうっすらと浮かんで見えた。
「んっ……」
ユレアが、すこしふらついた。
僕は慌てて支えようとして、そっと腕を伸ばした。
「ユレア、大丈夫!?」
「……っ、ごめんね。月が、強すぎて……体が、うまく動かなくなるの」
そのまま、僕の腕の中に倒れ込むような形になったユレア。
背中を支えた僕の手に、彼女の体の柔らかさがはっきりと伝わってくる。
「わ……!」
小柄なのに、体の一部だけが異様なまでに柔らかくて――
特に、胸が……まるで水風船みたいに重たく、そして柔らかく僕の腕にのしかかっていた。
「ご、ごめん……このまま、少しだけ……もたれさせて……」
「い、いいよ……! 全然……!」
僕は必死に顔をそらしていたけど、意識だけは確実に彼女の体に向いていた。
ドレスの中から、体温と甘い香りがふわっと広がってくる。
「……あ、だめ……少し、熱くなってきた」
ユレアがもぞもぞと動き出す。
そのせいで、胸のやわらかさがさらに僕の腕に強く押しつけられて――
「んぅっ……だ、だめ……こすれると、もっと……」
「ご、ごめんっ!!」
僕はあわてて手を離そうとしたけれど、その反動でふたりともバランスを崩した。
そのまま、畳の上に倒れ込む――
僕の上に、ユレア。
そして、僕の顔にぴったりとくっついたのは――
「う、うそ……またっ……!」
柔らかい太ももだった。
ユレアのスカートがめくれあがり、まるで膝枕のような体勢になってしまっていた。
しかも、それが直接、僕の顔に触れてしまっている。
「……あ、あの……」
「も、もうっ……どうして、こうなるの……っ!」
顔を真っ赤にして、ユレアは僕のほっぺをむぎゅっとつねった。
けれど、すぐにぷいっと目をそらして、ぽつりと言った。
「……でも、ちょっとだけ……安心した」
「え……?」
「あなたが、ちゃんと、わたしを……“女の子”として見てくれてるって」
その言葉に、僕の心臓が跳ねた。
「……本当に、嬉しいの。わたし、こういう体だから……誰かに近づくと、怖がられたり、避けられたりしてたから」
「ユレア……」
「だから、あなたが恥ずかしがったり、焦ったりしてくれると……ちょっと、どきどきする」
その顔は、月明かりの中で、とてもとても綺麗だった。
そして、ふたりの間の距離は――とても近かった。
「……そろそろ、帰らないといけないね」
ユレアは立ち上がり、スカートを整えた。
その胸が揺れ、腰がくびれて、太ももが月に照らされているのが、どうしても目に入ってしまう。
「ふふ……今、見てたでしょ?」
「……ご、ごめんっ!」
「……ふふふっ」
ユレアはいたずらっぽく笑いながら、指で僕のおでこをつん、と押した。
「また、来てね」
そう言って、彼女は小屋の奥の扉を開けて、月の光の中へと消えていった。
――その背中を見送るとき、僕の胸の中で、何かがゆっくりと膨らんでいくのを感じた。
それは、きっと――恋。
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