【中長編BL┊︎連載中】恋とは呼べない関係 ~Fineを迎えるその日まで~

三葉秋

文字の大きさ
3 / 11

2

しおりを挟む
 頬をかすめる生暖かい風。
 湿気の多い日本列島は、まだ6月だというのにすでに夏だと言わんばかりの暑さだ。
 肌にべっとりと張り付くような暖かさに、飲んだ後の火照った体が相まって不快なこと、この上ない。
 久は酔いつぶれた力也を小脇に抱え、店を出た。自力で歩けてはいるものの、これから進む方向を俺がアシストしなければこいつはきっとコケるだろうと思った矢先、何の凹凸もないコンクリートの地面で力也が躓いた。
「おっと、あぶなっ」
 靴と地面の摩擦でコケそうになった力也を、既のところで久が腕で支えた。
「しっかりしろって」
 力也は自分が躓いたことには気づいているものの、俺の発する言葉に反応はない。
 仕事終わりから飲み始めて、そんなに長居はしていない。かれこれ、一時間半といったところだろうか。
 初っ端から力也は、腹がすいた、腹がすいたと言ってかなりの量を食べていたので空きっ腹ではないはずだ。だがしかし、飲むペースはいつもより早かった。しかも、ビールに焼酎にハイボール。最後には日本酒まで飲んでいた。あからさま、こりゃちゃんぽんだ。
 俺の知る限り、力也は酒に弱いやつではない。むしろ、結構強かったように思うのだが…。
 ここまで酔いつぶれたところを見るのは、学生の時以来だろうか。
 あの頃は互いに酒の味など分からず、とりあえず飲むことに意味があるとでも言うように、寮の部屋でいろんな酒を買っては宅飲みを繰り返していたっけな。大学生なんて所詮、誰もがそんなもんだろうよ。
 そんなことだから毎回酔いつぶれていたものだが、それは若気の至りということでいろいろと目を瞑ってほしい案件である。
 そんな懐かしいことを思い出したところで、前かがみになりながら歩く力也の後頭部をふと眺め、久は昔、力也が熱く語っていたことを思い出した。
 ーーー『楽器は俺にとって大事なものだからな。こんな俺でも、これ持ってる時はベロンベロンには酔わないって決めてんだよ』
 ピアノ科の俺は楽器を持ち歩く習慣はない。だからそうなのかと、新しい知識を得たように軽くだが納得したことを覚えている。が、今日の力也はどうだろう。楽器は愚か、自分の鞄すら持てていないではないか。
 少し現状を把握しよう。
 久は自身の鞄を背中に背負い、力也の鞄は左肩から提げている。その手には力也の楽器を持ち、空いた方の腕で力也を支えているという状態だ。
 いったい今日の力也はどうしちまったのだろうか。
 こいつ、大丈夫なのか?
 学生の頃だってしていなかった挙動に、久は少々心配になる。
 そう思ったら途端に力也が急に咳き込んだ。こほん、こほんという咳き込む音に、嗚咽のような音が時折混じる。
「吐きそう?」
「吐か……、ないっ……」
 絞り出すように力也が応えた。
 歳とともに酒に弱くなるとは言うけれど、俺らはまだそんな歳ではないだろう。体調の問題か、飲み合わせの問題だろうなと軽く考えながら、先ほど通りの自販機で買ったばかりの水を力也に手渡す。
「とりあえず、水を飲め」
 力也は勢いよく飲み始める。ゴクゴクという水を嚥下する音とともに、ペットボトルの中がみるみるうちに減っていく。ゆっくりだが歩きながら飲んでいたので、口に入りきらなかった液体が顎から首の辺を伝い、着ているTシャツを濡らした。
 力也の来ている白いTシャツは、街灯に照らされた明かりで濡れた部分が肌色に透けて見える。
 顎から滴る水滴も街灯の明かりに反射してキラキラと光っているのがなんとも官能的に写って見えた。
 さらに目線を上にたどった力也の目元は、先程の嗚咽の影響か少しばかし潤んでいる。
 そんな光景、普通ならなんてことないはずなのに、今の久は少しだけ力也の姿にドキッとしてしまった。
 そんな心情などお構いなしに、ペットボトルの半分ほどを飲み干した力也は、もういらないと持っていたボトルを久の胸に押し当ててくる。と同時に。
「はぁ……、あ゛ぁ……!」
 大きく、濁ったため息をついた力也は、急に歩くのを止めた。
 そしてポツリと呟く。
「なぁ……今日、泊めてくれねぇ……」
 絞り出したような声音で力也が喋った。
「泊めてって……、俺ん家か?」
「そうだよ。それ以外、ある、かよ……」
「なんで? なんかあったのか?」
 力也は顔をゆがませながら、とても嫌そうな態度で支えていた久の腕を振り払った。
「その顔! …っハハハ。わかったよ、訊かない。その代わり……」
 久は真横にいる梅干しのようにゆがませた力也の顔を見つめ、少しだけ間をおいて話し続けた。
「久々に、アレ……やらないか?」
 それを訊いた瞬間、力也の顔はいわゆる鳩が豆鉄砲くらったようなと表現されるにふさわしい顔にみるみるうちに変化していった。
「アレって……もしかしなくても、アレ、……だよな」
 疑り深い面持ちでこっちを見ながら聞き返す力也は、さっきまでの威勢はどこへやら。急に縮こまったように体を丸めた。
「理由を訊かない代わりの交換条件だよ。俺んち泊まりたかったらな、どうする?」
 力也がこれに乗ってくるかは正直、半信半疑だった。
 こんなことを口走ってしまったのも、全てはお前の水の飲みっぷりが良すぎたからだ! なんて、言えないし、むしろそれだけではないと自分でもなんとなく自覚していたから。これを口に出さずにはいられなかった。
「俺は多分、今でも勃つと思うよ。……お前で」
 俺の言葉に、小さくピクッと反応した力也を俺は見逃さなかった。
 少しの間考えた素振りを見せた力也だったが、割とすんなり「わかったよ」と返事をしたのだった。
 案外、まんざらでもない感じなのか!?
 こちらから誘ったのはいいが、久方ぶりの行為に久自身、少しどぎまぎとしながらも力也の腕を取り「んじゃ、行くぞ」と家路へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【短編BL┊︎完結】恋を成就させるのに時間は必要ありません

三葉秋
BL
入社5年目の小宮と神崎の同期リーマンラブ。ある日、神崎の誘いでいつものように2人で飲みに行くことになった。飲みの場で神崎が彼女と別れた話を聞かされる。振られた理由に激怒した小宮は、ずっとうちに秘めていた神崎への思いを口走ってしまう。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【R18+BL】空に月が輝く時

hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。 そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。 告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。 ★BL小説&R18です。

BL短編

水無月
BL
兄弟や幼馴染物に偏りがちです。

処理中です...