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第三章 美濃攻め
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初陣の時と同じ、先祖伝来の龍頭紫裾濃威之兜、黒漆塗紺糸縅胴丸に身を固めた長政は、神前で出陣式を済ませると、六千の手勢を率い寅の刻(午前四時)に小谷城を出立した。
長蛇の陣形で、伊吹山中の街道を美濃国に向かって行軍する。途中、江北浅井領に侵攻して来た竹中重元が率いる斎藤勢と遭遇し、それと戦った。戦いながら東へと兵を進める。というよりは、逃げる竹中勢を追って、六千の浅井勢は美濃に乱入した。
関ケ原、垂井、赤坂を越え、桑原三河守友国(氏家卜全)が護る大垣城に迫った。
「如何なされます?」
軍配者の綱親が、長政の判断を伺った。
「善右衛門はどう思う?」
と逆に長政は綱親に尋ねる。
「大垣を堀遠州殿の手勢に任せ、我らはこのまま一色左京大夫(斎藤義龍)が牙城稲葉山を目指しては如何かと」
「稲葉山か……六角の動きはどうか?」
長政は、六角の動向が気になり尋ねた。
すると、員昌が答えた。
「佐和山の百々殿が目を光らせておられる故、大事ないかと」
「左様か、相分かった。堀次郎左衛門尉(秀基)に命じ、大垣城を包囲させよ。我らはこれより、斎藤が居城稲葉山城を突く」
「心得ました」
長政の下知を受け、使番が三陣を率いる秀基の許へ向かった。
斥候の報告によって浅井勢の動きを知った斎藤方も、動き出した。当主義龍自ら六千の手勢を引いて、居城稲葉山城から打って出た。
浅井、斎藤勢は、美江寺川を挟んで対峙した。
激戦の末、美江寺川の合戦に勝利した浅井勢は、敗走する斎藤勢を追って稲葉山城へ迫った。
稲葉山城下の寺に本陣を敷く。と同時に、長政は軍配者綱親と主だった家臣を集めた。
「和議の支度を整えよ」
「ここに来て和議でござるか、お屋形様?」
怪訝そうに顔を顰め、清貞が尋ねる。
「ああ」
涼しい顔で頷くと、長政は話を続けた。
「六千の手勢で稲葉山は落とせぬ。こちら側に良い条件で斎藤と和議を結ぶ」
「良い条件とは?」
清綱が質問した。
「斎藤左京大夫に六角入道との盟約を破棄させる。これでどうじゃ」
「なるほど、お屋形様、それは名案でござるな」
清綱は感心したように頷いた。
しかし、清貞は何か不服そうだ。
「いっそ、人質を求められてみては、如何でござるか?」
「人質?」
と声を発し、長政は怪訝気味に目を細め、清貞を見詰めた。
「人質か……それは妙案でござる雨森殿」
綱親が納得したように頷いた。
「一色左京大夫が嫡男喜太郎(龍興)殿は、お屋形様の従弟に当たりまする。我が浅井の小谷で育てるのが肝要かと」
「確かに、喜太郎殿は我が叔母が産んだお子……されどこの条件を左京大夫が呑むか……」
長政は首を傾げた。
ちょうどその場に、本領から早馬に乗った騎馬侍が到着した。
「お屋形様にご注進申し上げますっ」
馬から飛び降りると、騎馬武者は片膝を突き畏まった。
「申せ」
「ははっ、先刻、観音寺城の六角左京大夫入道が、五千余の手勢を率い我が浅井領へ向けて進軍っ」
「な、何っ!?」
「おのれ、糞坊主めがぁ」
血の気の多い清綱が呻った。
「如何致しまするか、お屋形様?」
綱親が長政の顔を見た。
「斎藤方に悟られぬよう直ちに兵を退く。殿(しんがり)は、美作、その方に任せる」
と早口で言うと、長政は清綱の双眸を見詰めた。
「仰せの儀、承知仕った」
清綱はこくりと頷いた。そして更に話を続ける。
「方々、小谷にて再び逢おうぞ」
「おうっ」
諸将が応えた。
長政は床机から腰を上げると、
「急ぎ近江に戻る。先陣として磯野丹波、その方を遣わすっ」
と大声を張り上げた。
「心得ました。ならば、これにてご免。方々のご武運を祈る」
「丹波殿も気をつけて」
「忝い」
一礼すると、員昌は本陣を離れた。
殿の赤尾隊をこの場に残して、先陣の磯野隊に続き浅井長政本隊も夜明け前に退却を開始した。
しかし、懸念していた通りやはり斎藤方に気づかれ、義龍は浅井勢に追手を差し向けた。殿を務める赤尾隊は、美江寺川付近で追手と遭遇して戦うことになった。
結果、赤尾隊は七十余の死者を出しながらも、斎藤勢を押し返し、殿の任務を無事務め上げた。
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長政は、六角の動向が気になり尋ねた。
すると、員昌が答えた。
「佐和山の百々殿が目を光らせておられる故、大事ないかと」
「左様か、相分かった。堀次郎左衛門尉(秀基)に命じ、大垣城を包囲させよ。我らはこれより、斎藤が居城稲葉山城を突く」
「心得ました」
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