ヤクザ娘の生き方

翠華

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記憶(城山 咲也視点)

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「くそっ、見失ったか」


黒いパーカーにイージーパンツの男。


あいつはあの時、確かにあの場にいた奴だ。あの、忌まわしい記憶の中に。


「咲也」


振り返ると、そこには唯一信頼できる仲間達がいた。


「叶真…お前ら来てたのか」


「お前、何で一人でこんなとこ来てるんだ」


「あぁ、ちょっと見回りにな。人通りが多いとこは事件が起こりやすいし」


「そういう場所はいつも避けてるだろ」


「そうですよ」


「何で俺らに何も言ってくれないわけ?」


「……俺、そんなに頼りない?」


全員の寂しそうな顔を見ると胸がズキズキ痛む。


「…わりぃ。ただ、こういう人通りの多い場所にお前らと来たくなかったんだよ…また何か言われちまうかもしれねぇだろ」


「そんなの気にしない。俺達に気を遣うなといつも言ってるだろ。これは全員に言ってる事だ」


「…分かったよ」


「じゃあ、何してたのか話せ」


叶真が真剣な顔で言う。


この顔の時は嘘ついても無駄だ。何でも見通されてる気になる。


「…夜叉が今日ここに来るかと思ったんだよ。奴ら、事件が起こる現場に必ず現れるからな。ま、その一人をさっき見失っちまったんだけど」


「そうか」


それ以上何も言わず、叶真は歩き始める。


叶真も昔、夜叉と何かあったらしい。


あまり話したがらないが、叶真が俺らに嘘をつく事はない。


俺が施設で叶真達と会ったのは五年前。12歳の時だ。


真白、泰明、叶真は既に3人で世界が出来ていて、俺と、同じ日に入って来た優は最初は一人だった。でも叶真が話しかけてきて、一緒に勉強したり、遊んだりするうちに俺と優はその世界の一部になった。


施設の大人や周りの大人達は俺ら五人の事情を知っていたからか誰も寄り付かず、言葉なんてかけてもらった事がなかった。


むしろ"近づくな"と大人達が言うせいで同い年の子供も近づこうとはせず、自然と距離が出来ていた。


それは俺だけじゃなく、五人全員そうだった。俺達に対する周りの目はいつも冷たかった。


だから俺らはいつの間にか五人だけの世界に入っていたんだ。それが一番楽で心地良かった。


なのに…


あの女、何で俺らに構ってきやがるんだ。


最初はただの転校生だった。興味なんてこれっぽっちもなかったし、小屋で初めて会った時も俺らだけの大事な世界に何食わぬ顔で入って来たあの女が憎かった。


だからさっさと嫌ってくれと思いながら接していたのに、まさか俺を庇うなんて想像もしなかった。


心を許したわけじゃねぇ。ただ…少しくらい話してやってもいいと思った。


こんな風に思ったのは叶真の時以来だ。


叶真の背中を追いかけながら俺は仲間達と並んで帰った。
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