ヤクザ娘の生き方

翠華

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始まりのメール(小日向 光視点)

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「じゃあまた新学期にね!」


「おう!またね!」


花子ちゃんと別れて家に帰ると、さっきまでの楽しかった気持ちが一気に冷めていく。


机には冷めたご飯と紙が一枚。


『ごめんね。今日も遅くなるから温めて食べてね。母より』


仕方の無い事とはいえ寂しさが込み上げてくる。


一人の時間が増え、だんだんお母さんの顔を見る回数が減った。一回も顔を見ない日も少なくないくらいだ。


お父さんが出て行ってから一年半位か。


ろくでもない父親だった。思い出したくもない。私が言うのもなんだが、母はよくあんな男と結婚したなと思う。


「まあ、そのおかげで私はここにいるんだけどね」


レンジでおかずとご飯を温める。


でもあの男の血が入ってると思うと、自分もいつかとんでもない事をしでかしてしまうのではないかと不安になってしまう。


チン。


レンジから取り出したおかずとご飯のラップを外す。


「お母さんのだけ遺伝してたらいいのに」


静かなリビングで一人夕食を食べ終え、食器を洗って風呂に入る。


風呂から上がってベッドに横たわると、どっと疲れが襲ってくる。


「はぁ…疲れた」


今日は楽しかったな。花子ちゃんが転校してきて初めて友達が出来て、お祭り行ったり、初詣行ったり、色んなもの食べたりお守り買ったり。


「もっと遊びたいな…」


友達と遊ぶのもあんなに楽しかったのも初めてだ。


そう言えばお守り…


机の上に置いてある恋愛成就のお守り。


私の彼氏は5歳年上の大学生で、初めての彼氏だったから、上手くいくか不安でお守りまで買ってしまった。


きっかけは冬休み前。暇だったから一人でカフェに行って課題してたら、偶然島村 弥彦(しまむら やひこ)さんに会った。


弥彦さんが課題の分からないところを教えてくれて、それから頻繁にカフェに行くようになった。


連絡先を交換して、映画を観に行ったり、買い物したりしているうちに弥彦さんに告白された。


とても優しくて、私のやりたい事を優先してくれる人だったから、出会って間もなかったけど付き合う事にした。


でも意外と気まぐれな人で、急にデートに誘ってきたり、メールを送ってきたりする。


ピロリン。


あ、弥彦さんだ。


『あかりちゃん、もう寝てるかな?遅くにごめんね。あかりちゃんが前話してた友達と俺の友達も一緒に四人で遊ばない?たまには多人数でわいわいやるのもいいかなって思って』


そう言えば、前に花子ちゃんの事話したっけ。確かに四人で遊ぶのも楽しそうだな。今度花子ちゃんに聞いてみよう。


『大丈夫ですよ。友達に聞いてみますね。いつにしますか?』


送信っと。


花子ちゃん今頃何してるかなぁ。ちょっとメールしてみよう。


ピロリン。


今日は返信早いな。


『ありがとう。日程がまだ分からないから、とりあえず暇な時メールちょうだい』


『分かりました。またメールします。おやすみなさい』


返信。


あと花子ちゃんにもメールっと。


『今日はありがとう。とても楽しかったよ。今度は私の家でお菓子作ったり映画観たりしない?』


送信。


ああ、早く新学期にならないかな。そしたら花子ちゃんと大和君と秀司君と四人で楽しく話せるのに。


新学期に友達と楽しく過ごす学校生活を心待ちにしながらゆっくり目を閉じる。
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