ヤクザ娘の生き方

翠華

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静かな夜

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こたつに入ってテレビを見ていると、


「お、まだいたか」


「父さん」


「あんまゴロゴロしてっと太るぞ」


「ちゃんと動いてるもーん」


「今日の初詣はどうでしたか?」


「めっちゃ人多くてお参りするのに時間かかったんだよねー。おかげで待ちくたびれたよー」


「楽しかったですな?」


「楽しかったよ!」


「美味しい物は食べれたんですの?」


「いっぱい食べて来たよ!ぜんざいとか餅とか」


父さん、蓮、翠ちゃん、はるちゃん、あきちゃんがこたつに入ってくる。


「狭い…」


「たまにはいいだろ」


父さんは嬉しそうだ。


「あ、そうだ」


手元に置いていた紙袋を開ける。


「これ、父さん達に買ってきたよ」


病気平癒のお守りを皆に渡す。


「お守りか。こりゃありがてぇな」


「ありがとうございます。大切にします」


「花子のくせに気が利くじゃねぇか」


「ありがとうございますな」


「ありがとうございますの」


心がこもったお礼は何回聞いてもいいものだ。


鈴音さんも病気平癒のお守りをあげたら喜んでくれた。ちなみに家内安全のお守りは玄関に置いてもらった。


学校始まったらとっち達とバカ谷達にもあげないと。


そう言えば、一緒にお守り買ったからあかりの分は何も用意してなかったなぁ。今度雑貨屋でいいの探そう。


「失礼します。花子お嬢様はいらっしゃいますか?」


考え事をしていると、鈴音さんが入ってくる。


「いるよ!どうしたの?」


「花子お嬢様の分のお守りを渡そうと思いまして」


そう言って鈴音さんは交通安全のお守りを差し出す。


「交通安全って…鈴音さん、ウチそんなに危なっかしいかな。信号とか無視しないよ?めっちゃ短い信号でもちゃんと待ってるよ?」


「万が一という事もありますから。それに、花子お嬢様が守られていてもここら辺はマナーの悪い方が多いですから、念を入れておきました」


「心配性だなぁ」


「いや、さすが鈴音だ」


「ちょっと父さん」


「良いではないですか。お守り持っていて下さると私も安心です」


「翠ちゃんまでそんな事言って」


「いいじゃねぇか。鈴音の気持ちだ。受け取るしかねぇぞ」


「もちろん有り難く貰うよ。ありがとう、鈴音さん」


「どういたしまして。それでは私は夜食の支度がありますので、これで失礼致します」


鈴音さんが出て行くと、


「……蓮、何か話さなくて良かったの?」


つい口に出して言ってしまった。


「うるせぇ。子供が口を挟むんじゃねぇよ」


「………」


「…分かってんだよ」


「…そうだね。ごめん。言うつもりなかったんだけど…」


「…分かってる」


蓮はウチの頭を撫でて言った。


あーあ。全く、ウチって人の事に口出しし過ぎるから駄目なんだよな。ちゃんと自制しなきゃ。


ピロロロロロローン。


あ、あかりからメールだ。


『今日はありがとう。とても楽しかったよ。今度は私の家でお菓子作ったり映画観たりしない?』


お菓子作りか。ウチ料理出来ないけど大丈夫かな。


『こっちこそありがとう!じゃあ今度遊ぶ時はあかりの家に招待してね!楽しみにしてる!』


送信。


「友達とメールか?」


「うん」


「良かったですな」


「今日一緒に初詣行った子ですの?」


「そうだよ。あかりっていうんだけど、見た目も中身も女の子って感じで話しやすくて良い子なんだ」


「そうか」


父さんはなんだかほっとした様子だ。


「ね、父さん」


「何だ?」


「あの"約束"、覚えてるよね?」


「…ああ」


その瞬間、皆の顔が急に深刻になる。


「良かった」


「何故急にそんな事を聞くんだ」


「忘れてないかと思って」


「…忘れないさ」


「高校を無事に卒業出来たら…」


父さんの顔を見ていると、それ以上先は何も言えなくなってしまった。


皆が辛そうな顔をする。


やめてよ。それだけを生きがいにしてたのに、そんな顔されたらどうすればいいか分かんなくなるじゃん。


皆で入ったこたつは暖かいはずなのに体も心も温まってはいなかった。
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